オバマ大統領の就任式。
「プレジデント・エレクト、バラク・エイチ・オバマ」と呼ばれて壇上に立つ。
大差で圧勝した新大統領が勝ち名乗りをあげる晴れの舞台で、フセインという名前を避けて、頭文字だけ読ませたのは、日本でなら縁起担ぎということなのか。
いくらフセインがありふれた名前でも、アメリカ人の大多数にとって、この名前には暗い連想が、こびりついているのだろう。
それでもオバマは空前の支持を集め、期待の重荷を担って、世界最高の権力の座に登りつめた。
彼にとって命がけの冒険であることは、誰もが承知している。
「ブッシュの8年」がなかったら、アフリカ系アメリカ人で、しかも、まぎれもなく奴隷の子孫である女性を伴侶とするオバマが、この奇跡を実現することがあり得ただろうか。
2000年の選挙ではゴアが得た票数の総合計では明らかにブッシュを凌ぎ、本来合理性がない旧来のルールによっても、もし、すべての州で票の正しい集計がされていたら、やはり勝っていた可能性が濃いとされるが、不幸にしてブッシュが辛うじて当選者と認められた。
もし、この選挙にラルフ・ネイダーが出ていなければ、彼が得た票の多くはゴアに回り、ブッシュに勝ち目はなかったはずなので、「ブッシュの8年」が世界にもたらした災厄にはネイダーも少なからず責任を負うべきだろう。
もっとも、たとえ2000年にゴアが当選していても、9・11の惨劇が避けられたとは思えないが、ゴアならアフガニスタンのタリバンを叩くことはしても、9・11とのつながりが全く証明されていないイラクに戦争を仕掛けるほどの無法は犯さなかったろう。
ブッシュは、結局、麻生さんとどっちがましかと言ったら麻生さんに失礼かもしれないくらいの「人材」が、間違って超大国のトップに担ぎ上げられてしまったために、えらそうに見えただけだった。
この政権が世界とアメリカをめちゃくちゃにしたおかげで、さもなくば未だに「オバマって、誰?」と首をひねられていたかも知れないhybridが、イラク戦争に始めから反対した実績を高く買われ、「黒人の血を引く大統領」こそ、アメリカを徹底的に変えることが出来るという希望を託されて、この世紀の初めには、まだ誰も信じなかったに違いない奇跡をもたらしたと言えるだろう。
民主主義と自由選挙は、間違った選択を避けるための特効薬ではあり得ないが、政権の交替を暴力によることなく、秩序整然と実現するという点では、しばしば、よくぞと感嘆させられる実績を示す。
ブッシュとは対極にあることを最大のセールスポイントとしてきたオバマが圧勝し、ブッシュもチェイニーも面目丸つぶれで、すごすごと退場するというどんでん返しが、一発の銃声にも妨げられずに現実となる。
こんなことが中国で起きるには、この先、まだ何十年かかるか、わからない。
しかし、オバマは200万人の歓呼を浴びて大統領の座についたとは言え、彼の約束するチェンジを実現するには、超能力者といえどもたじろがざるを得ないほどの困難が前途に立ちはだかっている。
オバマがもたらそうとする変化によって、不利益を被ると判断した途端に、オバマを丸め込み、むしろオバマを、彼に希望をつなごうとする全世界の抑圧された民衆を丸め込む道具に使おうとする勢力が、必ずや彼の前に立ちふさがるに違いない。
イスラエルの戦争犯罪を糾弾する声は世界に広がりかけているが、もともとアメリカこそ、戦争犯罪の本家本元に違いないのだから、世界最高の権力の座を占めたオバマといえども、自国の悪業を棚に上げて、イスラエルに自制を要求することは、たとえ彼にその意欲があっても、むつかしいに決まっている。
しかもオバマの周囲には、ヒラリーをはじめ、イスラエルの強力な後ろ盾として知られる連中がひしめいているはずだから、イスラエルは今のところ、ブッシュほどには自在に操れないかもしれない大統領が現れたと警戒しているとはいえ、いずれはオバマなんか怖くないと甘く見る態度に戻るかも知れない。
オバマを大統領に押し上げた力と、その期待を捻じ曲げようとする力のせめぎ合いは、これから、どう展開して行くのか。
オバマの当選が決まった後で、U-Tubeを通じて聴いたマケインのconcession speechに、心を打たれる言葉があったので、ここに書きとめておく。
Senator Obama has achieved a great thing for himself and for his country. I applaud him for it, and offer him
my sincere sympathy that his beloved grandmother did not live to see this day. Though our faith assures us she is at rest in the presence of her creator and so very proud of the
good man she helped raise.
オバマを育てた母方の祖母が、孫が大統領に当選する直前に世を去った不運を悼んだことに、good loserの人柄と気配りが感じられた。
麻生さんは、このマケインの言葉を耳にしないで、オバマとの最初の通話に出たのではないか。
オバマ本人は勝利演説の中で、And while she’s no longer with us, I know my grandmother is watching. Along with the family that made me who I am. I miss them tonight,and know that my debt to them is beyond measure. と述べていた。(守拙堂)
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