日本裁判官ネットワークブログ
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先回、自己に何らの落ち度もないのに難治のC型肝炎に罹患した薬害被害者の想いを汲んだ最大限の救済措置がとられるよう希望する趣旨の投稿をしたところ、想定外の反響があった。
 国及び製薬会社による薬害被害者の救済の必要性を語ったつもりで、医師の責任の点については全く念頭になかったところ、思いがけず、医師の方々から医療訴訟に関連した御批判をいただいて驚いた。ブログに投稿し始めて3度目になるが、このブログを様々な分野の方々がご覧になっていることを改めて認識し、ありがたいと感謝するとともに、表現方法の配慮の視点を持たねばならないことを再認識している。
 寄せられたコメントから、医師の方々の中に医療訴訟に対する不信感を持っておられる方が少なからずあることを改めて実感している。
 相互理解を深めるため、各地で、医療者側と裁判所の関係者を含めた医療に関する連絡協議会が、定期的に持たれているところではあるが、そのうちに、このブログでも相互理解を深めるために医療関係訴訟についても触れてみたいと個人的には思う。
 
 さて、本題に戻るが、薬害C型肝炎集団訴訟では、第1次和解案による和解は決裂したが、大阪高裁が第2次和解骨子案を出す方針であると報じられた。
 マスコミに公開しながら和解手続きを進めて行く結果となっていることが興味深い。
 和解の方法については、同席和解方式(当事者が同席のもとで和解を進める方式、透明性を確保し当事者の主体性を引き出すことができるといわれる)も採用されてはいるが、個別面接方式(当事者は相互に対面せず、裁判官が各当事者と個別に面接して和解を進行する。情報は裁判官を通じてしか相手方に伝わらない)が実務では多く行われている。
 今回の方法は、「公開方式」とでもいうことになろうか。
 
 薬害エイズ訴訟では国と製薬会社が被害者全員に一律4500万円を支払うとの和解が、薬害ヤコブ訴訟では国が被害者全員に一律350万円を支払うとの和解が成立し、今回の薬害C型肝炎訴訟でも原告らは被害者一律救済を求めている。
 本件とは態様を異にするが、ハンセン病訴訟では、熊本地裁において、国と原告らが和解して、国において謝罪し、ハンセン病発症後の期間等に応じて解決金を段階的に設定した上で国がこれを支払うことを合意し、今後提訴するハンセン病患者あるいはその遺族に対して和解による解決金を支払う準則についての取り決めをし、これに基づき、その後提起された多数のハンセン病訴訟において和解解決がなされた。
 
 今回の薬害C型肝炎訴訟の和解については、双方が、血液製剤投与の期間を限定して期間外の投与者について解決金を少なくするかどうかについて見解が対立し、今後提起されることが予想される訴訟の原告らとの関係をどうするかについての問題があるが、双方ともに和解によって早期に薬害被害者の救済を図ろうとしている点では共通している。
 例えば、①今後の薬害防止についての厚生行政の指針等を盛り込んだり、②(C型肝炎の肝細胞癌末期までの進行には相当程度の時間があることから、)完治のための治療法を発見するための研究開発費用や当面の治療費用に当てるための基金を被告らの支出によって設ける条項等将来に向けての解決条項を入れるなどして、原告らの一律救済の要求の調整を図ることはできないのだろうか。
 
 是非とも相互に知恵を絞り、接点を見出して和解成立に漕ぎ着け、早期救済を図って欲しいと思う。
 
 ここまで書いたところで、政府が議員立法によって一律救済を図ることを決定した旨報道された。政治のダイナミズムが問題点の解決地点まで情況をいっぺんに飛び越えさせた。
 さらに医療科学の進歩が被害者たちの完治地点まで情況を飛び越えさせることを願う。
(あすなろ)


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