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元裁判官,しかもかなりのエリート畑を歩いた瀬木比呂志氏の著作(講談社現代新書刊)ですが,このセンセーショナルな副題にはかなり引きました。

前作の「絶望の裁判所」もかなり手厳しく裁判所や裁判官を批判する内容でしたが,いささか感情的な部分も感じられ,実証性が乏しいのでは,と感じました。

近作も表題からして,同様なものかと読み出したのですが,自分の担当した裁判を冷静に分析し,最高裁などの判決例を,その論理や証拠との矛盾を指摘する部分は,なかなか鋭く実証的な印象を受けました。

恵庭OL殺人事件に対する再審棄却決定に対する疑問の部分は約20頁に及び迫力があり,著者の真面目な裁判官の側面が彷彿とさせています。

名誉毀損の慰謝料額があるときを境として突然上がったことへの疑問や,原発訴訟についての最高裁主催の協議会の内容が偏っていたことがもたらす危険性などを指摘していますが,私も同感でした。

本書は,制度的改革などの部分の分析には私としては異論もありますが,判決例の批判を読者に分かりやすく説明しようとしている姿勢は評価できると思いますし,題名にかかわらず一読の価値があると思いました。

                                                              花改め「子鉄」



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4(1)最近は,衆議院選挙は小選挙区制と比例代表制が併用されており,衆議院の総定数475のうち,小選挙区の定数が295,比例代表区の定数が180であり,定数の約62%が小選挙区の定数となっている。
(2)ところで,このたび小選挙区で第1党となった政党の小選挙区での得票率は48・10%であり,獲得議席数は295席中222議席であるから,獲得議席の割合は実に75・25%となっている。
(3)これを比例代表区でみると,第1党となった政党の比例代表区での得票率は33・11%であり,獲得議席数は180議席中68議席であるから,獲得議席の割合は37・77%となっており,ほぼ得票率に見合っている。
(4)この第1党の小選挙区の得票率が,比例代表区に比べて約15%高いのは,他の与党の選挙協力の成果であるが,しかし得票率約48%の政党が約75%の議席を獲得した結果になる小選挙区制の是非はいかがなものであろうか。
(5)今回の衆議院選挙は,投票率が52・66%であり,第1党となった政党の比例代表区での得票率は33・11%であったことからすると,第1党となった政党は,投票しなかった人を含めた有権者全体の概ね17・4%(僅かに6人に1人,正確には5・7人に1人,0・527×0・331=0・174)の得票しか獲得していないのに,選挙結果では圧勝したことになっているというのである。
(6)小選挙区制度は,政権交代を容易にしたり,意見が割れる議題についての決定が迅速にできるという長所があると指摘されているが,得票率に比して極端に多数の議席を獲得できることになるので,各種の議題について国民の意思の割合にそぐわない結論が出される危険性がある。
(7)私は,国論が二分されているような議題について,国民の意思が正確に議席獲得数に反映していないという選挙制度の絡繰(からくり)によって,その一方の考えで押し切って,かなり多数の国民の反対意思が無視されることになる小選挙区制は,甚だ危険であるから賛成ではない。国論が二分されているような議題について,実質は僅かに多数であるだけの多数意見が,議席数において圧倒的多数であるかのごとき,実態とは異なる虚偽の外形が形成され,甚だ容易に反対意見が無視されて,簡単に決定されてゆくのは望ましいことではなく,危険であると思うのである。賛否の意見が接近している場合には,決定に時間をかけて十分に議論する必要があり,容易に決定されない方がよいと思うのである。昨今の政治の状況を見ていると,その思いを一層強くするのである。
(8)また選挙の投票価値の平等についても,立法府はこれまで最高裁の警告を無視しており,困ったことである。平成25年7月に行われた参議院選挙に関する平成26年11月26日付け最高裁大法廷判決において,違憲判断は回避されたが,判事の1人が,同選挙を無効とする反対意見を書き,一票の価値が一定割合(0・8)を下回る選挙区の議員はすべて失職すべきものとした。国会もいつまでも吞気に構えてはいられない事態になっているということであろう。(ムサシ)



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