今年も昨年同様、芝居漬けの日々である。昨年から闇雲に芝居を見始めた経緯と観劇記録については、既にホームページ用の原稿として提出してあり、そのうちアップされるだろうから、そちらで読んでください。
上半期の観劇記録をまとめると、以下の通り。
○は大満足、△まあ満足
<>内の出演者は、あえて一般的な知名度のある方に絞ってます。あしからず
1月△TBS・ホリプロ「100万回生きたネコ」(東京芸術劇場プレイハウス)
<森山未来、満島ひかり>
2月 WOWOW他「テイキングサイド-ヒトラーに翻弄された指揮者が裁かれる日」(天王洲銀河劇場)
<平幹二朗、筧利夫>
テアトル・エコー「フレディ」(旭川市民文化会館大ホール)
3月○劇団銅鑼「からまる法則」(六本木・俳優座劇場)
劇団猫のホテル「あの女」(下北沢・ザスズナリ)
△新国立劇場「長い墓標の列」(新国立劇場小劇場)<村田雄浩>
○Ring-Bong「あとにさきだつうたかたの」
(小竹向原・サイスタジオコモネAスタジオ)
△加藤健一事務所「八月のラブソング」(下北沢・本多劇場)
<戸田恵子、加藤健一>
△劇団山の手事情社「ひかりごけ」(御茶ノ水・文化学院講堂)
4月○こまつ座「木の上の軍隊」(渋谷・文化村シアターコクーン)
<山西惇、藤原竜也、片平なぎさ>
青年座「つちのこ」(旭川市公会堂)
○地人会新社「根っこ」(赤坂レッドシアター)<渡辺えり>
△新国立劇場「今ひとたびの修羅」(新国立劇場中劇場)
<堤真一、宮沢りえ、風間杜夫、小池栄子>
新国立劇場「効率学のススメ」(新国立劇場小劇場)<豊原功補>
アンフィニの会「あかちゃん、万歳!」(銀座みゆき館劇場)
5月 「いやむしろ忘れて草」<満島ひかり>(青山円形劇場)
こまつ座「うかうか三十、ちょろちょろ四十」(紀伊國屋サザンシアター)
<藤井隆、福田沙紀>
新国立劇場「アジア温泉」(新国立劇場中劇場)<勝村政信>
6月 新国立劇場「つく、きえる」(新国立劇場小劇場)<谷村美月、田中美里>
M&Oプレイズプロデュース「不道徳教室」(シアタートラム)
<大森南朋、二階堂ふみ、岩松了>
新派「新釈金色夜叉」(日本橋・三越劇場)<風間杜夫、水谷八重子>
こんにゃく座「ネズミの涙」(旭川市公会堂)
△熱海五郎一座「天使はなぜ村に行ったのか」
(サンシャイン劇場)<三宅裕司、渡辺正行、浅野ゆう子>
以上、23本にもなる。
この中から、印象に残った三本に絞って感想を。
「からまる法則」―女性弁護士が主人公の芝居である。だからというわけではないが、なかなか良い。演出は文学座の名作「ぬけがら」でその才能を示された松本祐子さん。冒頭のホームレスのおじさんと主人公のやりとり、それに対する他の登場人物の反応から、登場人物たちの対立構造、状況設定を観客に即座に悟らせるところが、非常にうまい。普通観客たちが舞台冒頭のようなホームレスのおじさんの行動を見たときには、むしろ主人公のような反応をしてしまうだろうところ、その対応が他の登場人物に批判され、登場人物主流派の立ち位置が鮮烈に明らかになる。舞台はホームレス支援活動の拠点となっている一軒の民家。ここで全ての物語が展開していく。ホームレスになってしまい支援を受ける人、支援活動に携わる人、それぞれの人生が描かれ、からまっていく。そこに近隣住民の反対運動(いかにもなオバサンが笑える)や行政の介入。現代的な問題点が観客に突きつけられる。
冒頭、主人公が絡まり合ったハンガーに異常な恐怖心を抱くシーンが舞台のテーマを象徴している。人は社会に生きる限りは、誰も他人と関わらずには生きていけない。しかし、生きていく中でどうしても他者の言動に傷つき、それを恐れて人と関わることを避けようとしてしまう。大抵の人はうまく折り合いをつけて生きていくのだが、どうしても傷ついた過去を引きずって臆病に、あるいは極めてドライに生きている人もいる。一方で、人を突き放した過去に対して贖罪するように、過剰なまでに他者を支えることに生きがいを見出す人もいる。主人公の女性弁護士は、企業側弁護士としてドライに生きていくことを選び、当初主人公と対立するボランティア学生は、後者の立ち位置であることが明らかになっていく。他にも多様な登場人物がいて、それぞれからまりあい、支え合って、新しい関係性を築いていく過程が同時進行的に描かれていく。
弁護士としては、企業側顧問弁護士としての主人公の設定が、ややステレオタイプなのが気にはなるが、企業側弁護士からの視点もうまく活かされていて、許容範囲かと思う。
「木の上の軍隊」-既にブログに感想をアップした。5月4日にNHKスペシャルでも一部が放送された。
http://blog.goo.ne.jp/j-j-n/e/ae327a6d48ff62548068cb27d63bf1b9
「根っこ」-イギリスの農家の話。50年代にイギリスで書かれた脚本だが現在にも全く古びていない。ロンドンで社会主義者と交際して実家に戻ってきた娘(占部房子)は、婚約者の知識や論理を振り回して田舎の風習に埋没している家族を批判するが、最後に渡辺えりさん演じる母親から反撃される。愚直に農民の妻として生きるしかなかった母親が、精一杯に生きてきた自分の来し方や娘への愛情を語る姿が観客の胸を打つ。しかし、ここで終わらないのがこの芝居。今度は「農民の家に生まれながら、私には根っこがない」と気づいた娘が、婚約者の言葉ではなく、自分の言葉で、私たちは自分たちの生活の「根っこ」を問いながら生きているだろうか、世の中の色んなシステムを突き詰めて考えて生きているだろうかと問いかけ始める。娘の自立に向けたメッセージが、今度は観客に突きつけられるのだ。母親の愛でグッとつかんで感じさせて、一転突き放して考えさせる良い芝居。
2013年後半は、7月のこまつ座「頭痛肩こり樋口一葉」から観劇をスタートさせる。「あまちゃん」で大活躍の小泉今日子さんのやさぐれ一葉と若村麻由美さんの幽霊を間近に観られるので今からワクワクしている。下半期も、多くの舞台と感動に出会えることを心の糧に、仕事に励みたい。 (くまちん)