観劇記録も半年に一回だと大部に過ぎるので、これからは4か月ごとにする。上記期間の観劇記録をまとめると、以下の通り。
○は大満足、△まあ満足
<>内の出演者はあえて一般的な知名度のある方に絞っています。あしからず
7月△こまつ座「頭痛肩こり樋口一葉」(紀伊國屋サザンシアター)<小泉今日子、熊谷真実、若村麻由美>
△パルコ「非常の人何ぞ非常に-奇譚 平賀源内と杉田玄白」(パルコ劇場)<佐々木蔵之介、岡本健一、篠井英介>
△新国立劇場「象」(新国立劇場小劇場)<大杉漣、神野三鈴、山西惇>
キャラメルボックス「雨と夢のあとに」(サンシャイン劇場)
8月 劇団民藝「どろんどろん」(旭川市公会堂)
角角ストロガのフ「ディストピア」(吉祥寺シアター)<いしだ壱成>
△二兎社「兄帰る」(東京芸術劇場シアターウエスト)<鶴見辰吾、草刈民代>
9月 M&Oプレイズプロデュース「悪霊-下女の恋」(本多劇場)<平岩紙>
△ライズ・プロデュース「SENPO」(新国立劇場中劇場)<吉川晃司>
○風琴工房「hedge」(ザ・スズナリ)
△シス・カンパニー「かもめ」(シアターコクーン)<大竹しのぶ、蒼井優、野村萬斎>(オペラグラスを忘れたのが大失態!)
10月○こまつ座・ホリプロ「それからのブンとフン」(天王洲銀河劇場)<市村正親、小池栄子、山西惇>
○ホリプロ・こまつ座「ムサシ」(彩の国さいたま芸術劇場)<藤原竜也、白石加代子、六平直政>
△こまつ座「イーハトーボの劇列車」(紀伊國屋サザンシアター)<井上芳雄、辻萬長、木野花>
可児市文化芸術振興財団「秋の蛍」(吉祥寺シアター)<渡辺哲、小林綾子>
○文学座「殿様と私」(旭川市公会堂)<たかお鷹、加藤武>
青年座「夜明けに消えた」(青年座劇場)
以上、17本にもなる。
この中から、印象に残った三本に絞って感想を(7月の「象」の感想は、別途ブログに書いている)。
「hedge」―毎回、東京で芝居を見ると、イヤと言うほどの数の他の芝居等のフライヤー(いわゆるチラシ)をいただく。その中から、全く名前を聞いたことのない劇団であっても、題材やチラシの雰囲気から何となく惹かれるものがあって、予約することがある。これもその1つで、なおかつ大当たりだった。良い作品というものは舞台セットを見たときからピンとくる時があるが、これはまさにそれで、小さなドアを縦横にいくつも配列した舞台装置がすばらしい。そこにおよそ経済的なこととは縁の薄そうな(失礼!)素の男優たちが10人登場。いきなり経済学教室のようなことが始まり、そのうち1人、2人と劇中の登場人物に扮していき、いつの間にかエクイティファンドをめぐる群像劇が展開されていく(劇の題名はヘッジだが、ヘッジファンドについては説明されるだけで劇の本筋では無い)。社会問題を取り上げながら、それを「演劇」としてキチンと見せることに成功することは非常に難しいと感じているが、この舞台はそれに成功している。「風琴工房」は、社会問題を積極的に創作劇として上演されているそうなので、今後もチャンスがあれば観劇したい。
「それからのブンとフン」―現在新潮文庫に入っている井上ひさしの「ブンとフン」は、ナンセンス小説の元祖とも言うべき作品であり、この作品も「それからの」とは言いながら、冒頭から三分の二あたりまでは小説そのままの内容のナンセンスさで展開される。しかし、後半三分の一の劇化に当たって加筆された部分から、一気に井上ひさしの天才劇作家としての手腕が炸裂する。問題はそのつなぎ目の刑務所及びそれをめぐる騒動の場面とその後のゴビ砂漠の場面があまりつながっていないことだが(ブンはどうやって出獄したんだ?)、そんなことはどうだって良いと思わせる。75年に書かれたとは思われない表現の自由に対する危機感にあふれた展開は、昨年末に鑑賞した遺作「組曲虐殺」につながるものを感じさせ、フン先生が小林多喜二に見えてくる。井上ひさしの昭和の作品を鑑賞する度に、「これ、本当に昭和に書かれたのか」「良い作品は古びない」という思いにとらわれる私である。
「殿様と私」―マキノノゾミ作品は、旭川で見た他の二作品(「赤シャツ」「東京原子核クラブ」)がいずれも印象的であったので期待していたが、前評判に違わない作品だった。たかお鷹さんの殿様像には、色々異論もあるようだが、私には「適役」に思えた。殿様は実は自分の「古さ」を分かっているのだ。でも立場も意地もあり、それを素直に認められないのだ。その「心」が伝わって来て、後半の私は殆ど泣きっぱなし。この作品は、市販の単行本「赤シャツ/殿様と私」で脚本を読んでから鑑賞したのだが、脚本を読んだときはハッキリ言ってそんなにピンとこなかったものが、実際に鑑賞して「ああ、なんてこの脚本には無駄がないんだ」と感激した。和洋折衷の座敷で繰り広げられる和洋の登場人物のすれ違いと交流を、うまく描いた演出と舞台装置にも感銘した。
11月以降も、多くの舞台と感動に出会えることを心の糧に、仕事に励みたい。 (くまちん)