1 以前にこのブログで「デブの効用」という一文を書いたことがある(平成25年4月2日)。それは,私はデブであるが,デブは小さい子供にすぐに好かれる効用があるという話である。デブとは言っても私の体重は80キロを少し下回っている。
2 つい先日,あるおばあさんから私宛てにファックスが送られてきた。その女性は耳が遠いので電話での会話が困難であるという。わが弁護士会が発行している写真と経歴等が記載されている「弁護士マップ」を見てファックスしたということであった。
3 電話での会話ができないということなので,筆談になるかも知れない。事務員は少し心配そうな顔付で,「断りましょうか?」と言った。正直なところ私も少し迷ったが,弁護士という職業である限り,「困っている人を見捨てるようなことは避けたい」という思いはある。「親切であること」をモットーにして,冷たい態度はできるだけ避けたい。「親切にして,その結果苦労する場合には,きっと神様が見ていて下さるよ。」などと,私は信仰心のない人間であるのに,まるで信仰心があるかの如き発言をして,事務員を説得した。結局私と妻の弁護士2人で対応することになった。
4 当日そのおばあさんが事務所にやってきた。片方の耳が少し聞こえ易いうえ,女性の声の方が聞こえ易いというので,おばあさんに応接机の椅子に座ってもらい,聞こえ易い耳側の隣の椅子に妻が腰掛けて,私はそのおばあさんの真向かいの椅子に座った。
5 相談の内容は,借りているアパートの風呂とトイレの調子が悪いこと,修理が順調でなく困っていること,家賃の減額希望や滞納問題などである。
6 おばあさんがどの程度聞こえているのかはよく分からない。妻はやや甲高い大きな声で,「家賃の減額希望があっても,全額滞納するのではなく,少し減額して暫定的な家賃として支払いながら,色んな問題を大家と交渉するしかないのではないか。」というような話を,もう少し詳しく話していた。
7 そのおばあさんは,妻の説明に対し,大きな声で反論したりしていたが,一応納得した様子であった。私は向かいの席で,少しは意見を述べたが,大部分はニコニコとおばあさんを見ていたらしい。時におばあさんが私の方をチラチラと見たりしていた。
8 やがておばあさんは帰って行った。妻の助言をもとに,大家と話をしてみて,困ったらまた相談に来ることになった。
9 それから1週間もしないころ,妻の助言を参考にして交渉し,問題が無事解決したという礼状が来た。妻の話ぶりは少しきついと感じたが,向かいに座っていた私が,いつもニコニコしていたことがとても有り難かったと書かれていた。
10 これは,もしかすると「笑顔の効用」ということになるのであろうか。早速私は,事務員に頼んで,そのおばあさんに,解決できてよかったこと,ご連絡いただき有り難うという返事を出した。やはり神様が見守って下さっていたのかも知れない。(ムサシ)