日本裁判官ネットワークブログ
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年末も押し詰まってきました。ネット内で投票し、今年の十大ニュースを決めました。

感想やご意見をメールしていただくと、今年を振り返り、来年以降の重要テーマが浮か

び上がるかもしれませんね。

第1位 福井地裁、高浜原発3,4号機の再稼働差止仮処分申立てを認容(4月)。保全異議審
    では取消し(12月)
第2位 集団的自衛権、安保法案で法律家が意見表明
     憲法学者3人(衆議院憲法調査会、6月)、各地の弁護士会(6月以降)、
    山口繁元最高裁長官(9月)、濱田邦夫元最高裁判事の(9月、国会の中央公
    聴会)、元裁判官75人(9月)
第3位 最高裁、女性の再婚禁止期間100日を超える規定部分を違憲判断(12月)
第4位 裁判官ネットの恩人2人死亡。ファンクラブ会長石渡照代さん(2月)、漫画
    「家裁の人」の原作者毛利甚八さん(11月)。
第5位 最高裁、夫婦同姓規定は合憲の判断(12月)
第6位 明治大学法科大学院教授が教え子に、司法試験問題(憲法)を漏洩したことが発覚(9月
    )。国家公務員法違反(守秘義務違反)で、執行猶予つき有罪判決(12月)。
第7位 大阪高裁、東住吉放火殺人事件の再審開始決定(平成24年)に対する抗告棄
    却・刑の執行停止決定。異議審でも維持。(10月)
第8位 東京高裁、オウム真理教元信者菊池直子被告に殺人未遂幇助などで逆転無罪(
    11月)
第9位 滝井元最高裁判事死亡(3月)
第10位 政府有識者会議、司法試験の合格者数を年1500人以上とする案を了承(5
    月)
    ※この結論は、政府法曹養成制度改革推進会議の決定となり、3000人案を
     1500人以上案に下方修正した政府方針となっています(6月)。

番外となりましたが、「サッカーボールで事故。親に監督責任なしの最高裁判決(4月
」「昨年2月の衆議院選挙の選挙訴訟判決が続く(3月~4月。高裁段階で、違憲
違憲、違憲状態、合憲で判断が分かれる。)。最高裁では、違憲状態との判決(11月
。違憲無効の反対意見も二人)」のほかに、「アメリカ連邦最高裁、同性婚を憲法上の権
利として認める判決。(6月)」「韓国ソウル地裁、朴大統領の名誉を傷つけたとして
起訴された産経新聞前ソウル支局長を無罪に。検察が控訴断念し、無罪確定へ。(12
月)」「韓国憲法裁判所、日韓請求権協定違憲の訴えを却下。合憲性については判断せ
ず(12月)」といった外国の裁判所の判断に一定の投票があったのが特徴的でした。



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読者の皆さんへ
 
今年もいろいろありましたね。恒例の司法十大ニュースを決めるために、裁判官ネットの
中での投票の他、読者の皆さんにも投票をお願いしたいと思います。次の要領で、ご自身
が重要なニュースと思われるもの10個を投票して下さい。10個は難しくとも、いくつかなら、
という場合でも結構です。よろしくお願いします。
(投票要領)
3点もの・・3つ
2点もの・・4つ
1点もの・・3つ
を選択し、コメント欄に返信して下さい。例えば、3点・・番号1、12、25  2点・・番号3,18、28
、45  1点・・番号5,17,38というように。 

平成27年司法十大ニュース候補

1 大崎事件、最高裁第2次再審請求を認めず。(2月)
2 裁判員裁判の死刑判決を破棄した高裁判決2件が確定へ(最高裁支持)(2月)。
3 日航の整理解雇解雇有効確定へ(乗務員らの上告を最高裁が棄却)(2月)
4 遺体カラー写真で、裁判員失神。辞任。(2月 京都地裁)
5 債権法改正へ法制審が答申(2月)
6 配偶者の遺産相続を手厚くする民法見直しを、法務大臣が法制審に諮問(2月)
7 強姦事件、再審開始決定(2月、大阪地裁)
8 滝井元最高裁判事死亡(3月)
9 大津いじめ事件で和解成立(3月、市が1300万円を支払い、いじめ対策継続な
  どの内容)。
10 昨年2月の衆議院選挙の選挙訴訟判決が続く(3月~4月。高裁段階で、違憲、
     違憲状態、合憲で判断が分かれる。)。最高裁では、違憲状態との判決(11月。違
     憲無 効の反対意見も二人)
11 JR西元社長3人、再び無罪(3月 大阪高裁、予見可能性なし)。検察官役の
    指定弁護士上告(4月)。
12 宮内庁参与に、竹崎前最高裁長官就任。最高裁長官経験者で初。(3月)
13 サッカーボールで事故。親に監督責任なしの最高裁判決(4月)
14 町田元最高裁長官死亡。「ヒラメ裁判官はいらない」の言葉あり。(4月)
15 法務省訟務局、14年ぶりに復活。局長に、東京高裁から定塚氏就任。(4月)
16 井垣元裁判官、少年Aの審判書を共同通信の編集委員に提供。同委員が寄稿し、
    文藝春秋に掲載され、神戸家裁が抗議(4月)
17 ハーグ条約子供返還申立て、加盟1年間(平成26年4月~27年3月)で16
    件 (うち、9件で子供の移送を認める。)。
18 福井地裁、高浜原発3,4号機の再稼働差止仮処分を認める(4月)。異議審で 
    は取消し(12月)
19 鹿児島地裁、川内原発再稼働差止仮処分却下(4月)。
20 鹿児島地裁、志布志事件国賠訴訟(選挙買収無罪事件)で、1人57万円500
     0円~460万円の認容判決(4月)
21 広島地裁、白内障患者に原爆症認定。国の新基準を覆す。(4月)
22 政府有識者会議、司法試験の合格者数を年1500人以上とする案を了承(5月
     )
23 最高裁、打ち切り補償を条件に、労災受給者の解雇可能の判決。(6月)
24 改正裁判員法成立。長期間に及ぶ事件を裁判員裁判の対象外に。(6月)
25 アメリカ連邦最高裁、同性婚を憲法上の権利として認める判決。(6月)
26 松江地裁西郷支部(隠岐の島)で、新たに弁護士が事務所を開設し、弁護士ゼロ
  ワン地域が解消(7月)
27 裁判所の情報開示の不服審査について、最高裁に第三者機関設置(7月)
28 佐世保高一同級生殺害事件で、長崎家裁、少年(16歳)を医療少年院送致(重
  度の自閉症スペクトラム障害など複数の障害があると認定。逆送選択せず。7月)
29 銀行のシステム開発失敗について、IBMのスルガ銀行に対する41億円の賠償
  を認めた東京高裁判決が確定(最高裁、7月)
30 大阪地検特捜部、大阪弁護士会の久保田弁護士を業務上横領罪で追起訴、被害合
  計4億9000万円(7月)
31 後見人の不正、4年半で被害196億円。大半は親族。弁護士や司法書士など専
  門職による被害は11億円余り。(7月、最高裁調査結果)
32 東京地簡裁、10年前から切手返還を怠る。総額160万円。対象個人・法人は
  1万200にのぼる。(7月)
33 集団的自衛権、安保法案で法律家が意見表明
    憲法学者3人の衆議院憲法調査会での違憲の意見表明(6月)
    各地の弁護士会の反対表明、デモなど(6月以降)
    山口繁元最高裁長官の集団的自衛権違憲の意見表明(9月)
    濱田邦夫元最高裁判事の「(違憲判断はないとの意見に対し)司法をなめたら  
    いかんぜよ」発言(9月、国会の中央公聴会)
    元裁判官75人が意見表明(9月)
34 刑訴法改正案(司法取引、取調べの可視化、通信傍受拡大)が衆議院通過するも
  (8月)、今国会では成立見送り。(9月)
35 福島原発事故で、強制起訴。東京地裁、検察官役の弁護士3人(2弁の神山啓史
  氏ら)を指定。(8月)
36 明治大学法科大学院教授が教え子に、司法試験問題(憲法)を漏洩発覚(9月)
  。執行猶予つき有罪判決(12月)。
37 司法試験合格発表。1850人。合格率23.1パーセント。予備試験組は18
  6人。合格率は、一橋大、京大、東大の順。合格者数は、中大、慶大、東大、早大、
  京大の順。(9月)
38 最高裁、在外被爆者にも医療費全額支給の判決。厚労省も約4200人の在外被
  爆者全員に医療費支払の方針決める。(9月)
39 エイベックス、JASRAC離脱。4月の最高裁判決(JASRACと放送局の
  契約方式は、他業者の参入を妨げ、独禁法違反の可能性ありなど)を受けて。(10
  月)
40 日弁連の「死刑事件の弁護のために」と題する手引が話題に。被害者参加制度に
  消極、原則黙秘などの内容。反対声明も。(10月)
41 大阪高裁、東住吉放火殺人事件の再審開始決定(平成24年)に対する抗告棄却
  ・刑の執行停止。異議審でも維持。(10月)
42 来年の裁判員候補者23万人に対し、寺田最高裁長官名で、裁判員参加を呼びか
  けるメッセージ送付(11月、参加辞退が多いため)
43 裁判官ネットの恩人2人死亡。ファンクラブ会長石渡照代さん(2月)、漫画「
  家裁の人」の原作者毛利甚八さん(11月)。
44 東京高裁、オウム真理教元信者菊池直子被告に殺人未遂幇助などで逆転無罪(1
  1月)
45 最高裁、刑訴法改正前の強盗殺人事件に、時効撤廃適用は合憲の判断(12月)
46 最高裁、女性の再婚禁止期間100日を超える規定部分を違憲判断(12月)
47 最高裁、夫婦同姓規定は合憲の判断(12月)
48 韓国ソウル地裁、朴大統領の名誉を傷つけたとして起訴された産経新聞前ソウル
  支局長を無罪に。検察が控訴断念し、無罪確定へ。(12月)
49 韓国憲法裁判所、日韓請求権協定違憲の訴えを却下。合憲性については判断せず
  。(12月)



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1 脳の活性化や記憶力増進に関する本は順次沢山出版されており,私は安価で手軽な本は案外沢山衝動買いして読んでいる。簡単で参考になる努力項目は即座に採用して,トレーニング一覧表に書き加え,○印をつける対象になる。
2 脳の活性化に運動が大切であることは以前から指摘されている。1日1万歩目標が通説であるが,最近は8000歩説もあり,私も8000歩を確保することにしている。毎日万歩計を携帯しているが,最近は携帯電話にその機能が搭載されている。
3 最近は,近距離については自転車ではなく,できるだけ歩くことにしている。そして夕方事務員が帰宅した時点で万歩計をチェックし,5000歩以下となっている場合には,事務所の周辺の道路を長目に一区画,約1100メートルを歩くことにした。約2000歩である。
4 私は,基本的に歩くことが好きではないので,敢えて「自分は歩くことが大好きだ」と自分に言い聞かせて,自分を騙すという作戦 を採用している。案外効果があり,最近は歩くことが余り苦痛ではなくなっている。
5 ただ歩くだけというのも勿体ない。そこで「ながら族」になることにした。私は歩きながらイアホンで聞けるCD装置を持っているので,CDを聞きながら歩くことにした。カラオケの歌詞約10曲分や,カラオケ曲に採用されていないアカペラ曲(伴奏なしで歌う曲)数曲(自分で吹き込んだもの)など,10数曲を聴きながら完璧に記憶することにした。いずれクラシック音楽や文学作品や,英会話や英語のニュースなどを聴きながら歩くことになりそうである。
6 最近読んだ本では,顎(あご)を使う効果が強調されていた。脳の活性化という意味で,手と足を動かす効果が50パーセント,顎の運動効果が50パーセントで,ほぼ対等だというのである。よく噛むことが大切だということである。食事について,そのことを意識してシッカリ噛むということであれば,それは納得できることであるが,それ以外にどのような工夫ができるというのであろうか。固い煎餅などを食べるというのであろうか。そこで1日3回,食事の後で,ガムを噛むことにした。ガムを噛んだかどうか,トレーニング一覧表に記載する欄を作った。
7 私はスポーツは得意で,これまで色々とやってきたが,最近は散歩,水泳,自転車をベースにすることにした。これまで犬の散歩やテニスの壁打ち,ハイキング,ゴルフの打ちっ放しなど,人知れず運動量を確保する努力をしてきたが,犬も死んだし,膝や眼などに種々の障害も出てきた。しかし「呆けてたまるか」という思いも強いし,そのための研究と工夫をし,現代医学の最先端の知識を活用しようと思っており,これまで頭髪が黒いままでいることや血糖値が正常値であることなどで医師を驚かせてきたように,脳の活力でも医師を驚かせることにした。そして密かに新たな野望を抱いて生きることにしたのである。(ムサシ)



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1 このブログの「毛利甚八さんを悼む」という追悼文を読んで,種々の感慨が湧いてきて,私も少し書きたいと思うようになった。漫画「家栽の人」は私の愛読書であり,何度も繰り返して読んだ。テレビでも「家栽の人」がドラマ化されて放送され,俳優片岡鶴太郎が主人公の桑田判事を演じた。これらは全てビデオに録画した。
2 私が鳥取地家裁米子支部に勤務していた平成5年ころ,毛利さんが私を訪ねて下さったことがある。毛利さんは検察関係の取材で鳥取地検米子支部長にお会いしたとのことであった。私は格別取材を受けたわけではないが,楽しくお話しした。そのとき毛利さんは色紙を書いて下さり,わが家の家宝として額に入れて,客間に飾ってある。
3 私は裁判官のころも弁護士になってからも,離婚調停などの家事事件や少年の非行事件などを多く担当してきた。そして弁護士になってからは,「家栽の人」の漫画をコピーしてお母さんに渡して,「これを読んでいただけませんか。」と言ったことが何度もある。もっともその事件の状況に応じた内容のものを選んでいることはいうまでもない。
4 私が好きな「家栽の人」の漫画に「ホウセンカ」(「家栽の人」第4巻CASE7)がある。母が自分を捨てて家出したと誤解して,母を恨んでいたある少年が非行に走り,その鑑別所の心理テストに,「私はホウセンカが好きです。」と書いているのを目ざとく桑田判事が見つけたことがきっかけとなって調査した結果,少年が3歳のときにお母さんと一緒に種を撒いたことから,今でも家の庭にホウセンカが沢山咲いていることが判明した。「ホウセンカが好きです。」と少年が書いたのは,少年が今も母を恋しく思っているためではないかと見抜いた桑田判事が,審判の日に審判廷の隣室に母を待機させていたことから,母を「絶対覚えてねえ」と言い張る少年が,隣室に母が待機しており,希望すれば会うことができると知って大泣きし,母への誤解も解けて更生するという話である。この話は何人ものお母さんにコピーを配布した。
5 また私は以前このブログに,「家栽の人」がテレビで放送された「スイセン」を取り上げて,「水仙の 香(か)に君がいる 暖かさ」という俳句を巡る一文を書いたことがある。ある裁判所長が転勤されることになり,夫婦裁判官であった私たちがご挨拶に伺ったところ,所長の奥さんから,丁度所長官舎の広い庭に咲き誇っていた日本水仙を一抱えも切って下さったときのささやかな会話を書いたもの(2008年(平成20年)2月1日「水仙のこと」)である。所長を少し慌てさせてしまったという笑い話であるが,このたび久しぶりに読み返して,毛利さんを忍んだ次第である。
6 毛利さんが書かれた本で,まだ読んでいないものも多いので,少しずつ読むことにした。それにしても若過ぎるご逝去であり,甚だ残念な思いが強い。心からご冥福を祈りたいと思うのである。(ムサシ)



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  去る11月21日、漫画「家栽の人」の原作者、毛利甚八さんが亡くなった。享年57歳、あまりにも早すぎる死である。

 「家栽の人」といえば、家庭裁判所の裁判官を描いた異色の漫画で、昭和63年から平成8年まで小学館のビグコミックオリジナルに連載され、一世を風靡した。多くのファンがいたと思われる。並外れた洞察力をもった主人公の桑田判事に対しては、そんな裁判官は理想型にすぎないと思いながらも、できればそうなりたいと密かに思っていた現職の裁判官は案外多いのではなかろうか。漫画における桑田判事の活躍は次第に話題となり、弁護士会だけでなく裁判所も毛利さんを講演等の講師として招くようになった。漫画の単行本が資料室に入った裁判所もある。私も、司法修習生のころから「家栽の人」の愛読者で、裁判官になってからも後輩の司法修習生などに読むことを勧めていた。

  そんな毛利さんと、私の間に個人的なご縁ができた。平成5年に私が書いた司法改革の論文を毛利さんが読んで、小学館を通じて、当時私の勤めていた裁判所に「論文を漫画に使ってもいいですか?」と連絡してきたのである。連絡を受けた裁判所職員の人が、私に対し、どうしますかと聞いてきた。私は、もちろんその連絡に驚くばかりであり、あの話題の漫画に自分の拙い論文がどう使われるのだろうとどぎまぎしたものである。ただ、その漫画は裁判所と裁判官を決して敵視するような感じではなかったと感じていたので、おそるおそる承諾をしたところ、漫画には、桑田判事とは対照的な石嶺裁判官が私の論文を読み、桑田判事が去った裁判所の目黒支部長判事と私の論文を議論する場面が出てきたのである。この場面を目にして、穴があったら入りたい気分になったものであるが、話題の漫画に引用をしてもらって、正直名誉なこととも感じたものである。

  そんなご縁のできた毛利さんと、初めてあったのは平成12年のことである。司法改革を目指す裁判官で設立し、私も参加している「日本裁判官ネットワーク」のシンポジウムに毛利さんが来てくれたのである。「家栽の人」のご縁もあり、お互い、古い友人に会うような感じで笑いながら挨拶をしあった。以来、毛利さんは、「日本裁判官ネットワーク」はもちろんのこと、裁判員制度や司法制度改革を随分応援してくれたと思っている。インタビュー本「裁判官のかたち」(現代人文社、平成14年)、漫画「裁判員の女神」1~5巻(実業之日本社、平成21年~)はその表れであるが、日本裁判官ネットワークが開いた裁判員制度実施を控えた時期に行った模擬裁判でも、参加して鋭い尋問をしてくれた。私の著作「裁判所改革のこころ」」(現代人文社、平成16年)にも、毛利さんが「刊行によせて」を書いてくれた。そうした毛利さんの応援に対し、私は、心から感謝していた。 

  その後、私は大分地方裁判所に赴任した。毛利さんは、大分県豊後高田市に居住していたので、正直とても喜んだ。毛利さんにメールで異動を連絡したところ、「オオッ」などという返事をいただいた。裁判所のある大分市と豊後高田市は、少し離れているが、同じ県内だから気軽に会えると思っていた。しかし、お互い忙しくて、随分すれ違いがあった。飲もうと連絡してもなかなか日程があわず、会いたくても会えない期間が随分長かった。でも、会えた時には、「家栽の人」のこと、少年審判のこと、裁判員制度のこと、司法改革のこと、それに意外と私との趣味のあった民俗学者「宮本常一」さんのこと、日本の民俗学のこと、九州の民俗学のこと、それに毛利さんの故郷、佐世保の歴史や毛利さんの佐世保時代のことをよく話し合った。今でもとてもよく覚えている。毛利さんは、「家栽の人」で一億円儲けたけれど、宮本常一さんを始め、民俗学の取材で全部使ってしまったと言っていた。その使いぶりにびっくりしたものである。

 でも、最近は、毛利さんと随分疎遠となっていた。住むところが離れ、司法改革も一段落して会う機会もなかったためであろうか。でも、毛利さんが、中津少年学院で篤志面接員として活躍されていることや、漫画「のぞみ」(毎日新聞社)が出版されていることを耳にしていた。相変わらずご活躍中だと嬉しく思いながら、恥じるべき不明があった。昨年、毛利さんが食道がんの事実を公表していたことは知らなかったのである。そのため、最後まで豊前高田に会いに行けなかったことは返す返すも残念である。闘病生活はつらかったのではないかと思うが、そんな毛利さんに何の恩返しが何もできなかったことはどれだけ後悔してもしきれないことである。

  振り返ると、毛利さんの思い出はいろいろあるが、その中でも毛利さんの言葉として忘れられない言葉が一つある。「僕は、人に会うと、その人を好きになってしまうのです。」という言葉である。おそらく、「家栽の人」のほか、毛利さん原作の漫画や毛利さんがかかわった活動にはこの言葉がどこかで生きていたのではないかと思われる。毛利さんは、時には驚くほど辛辣だけれど、人懐こくて、どこかで人間好きなところが垣間見えた。それだからこそ、立場や意見の違いを超えて、作品が愛されるのではなかろうか。また、司法改革にかかわっていただいたのも、人間を扱う司法の仕事にどこかで期待を持ち続けた結果ではないかと考えている。非行少年であっても、いつも最後まで更生を期待して、篤志面接員を続けられていたのではなかろうか。もしそうした推測が少しでも当たっているとしたら、毛利さんの期待や思いは、司法にたずさわる者が是非応えなければならないと思うのである。でも、毛利さんが司法に関与した原点ともいえる少年事件について、最近の動きを毛利さんはどうみておられたのであろうか。いろいろ推測するところはあるが、亡くなってしまわれたのであれこれいうことは差し控えたいと思う。しかし、遺言となったと思われる「「家栽の人」から君への遺言 佐世保高一同級生殺害事件と少年法」(講談社、平成27年10月)を是非読んでみたいと思っている。もし読んだ方がおられたら、感想を是非コメントしていただきたい。

 最後になってしまったけれど、毛利さん、今まで本当にありがとうございます。亡くなられたのは本当に残念で仕方がありませんが、亡くなられてからも、天国からいつまでも、司法に期待を持ち続け、見守っていただきたいと思います。心からご冥福をお祈りいたします。         合掌                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                          

                                                                   

                                                         



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