日本裁判官ネットワークブログ
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 西原理恵子ファンである。「毎日かあさん」でブレイクし,にわかに「いいひと」化しているが,「黒サイバラ」時代からのファンである。
 個人的には「営業ものがたり」という単行本に収められた「うつくしいのはら」という短編が最高傑作だと思う(「営業ものがたり」自体は,サイバラ免疫のない人には,いきなりはつらいかもしれないので,「上京ものがたり」「女の子ものがたり」から慣らし運転した方がよいかもしれない)。それこそ,「むずかしいことをやさしく,やさしいことをふかく」描いた作品だと思う。西原をして,このマンガを書かせしめたのは,間違いなく元夫の戦場カメラマン鴨志田穣氏の存在である。
 昨夜(26日)はNHK「こころの遺伝子」に西原自身が出演して,鴨志田氏との出会いと別れを語り,西田さんを泣かせていた(「毎日かあさん」では4巻の書き下ろし部分)。偉大な師・橋田信介氏に戦場カメラマンになりきれないと指摘された鴨志田氏だが,橋田氏が命を落としたことが鴨志田氏の短い命の燃焼につながっていく。橋田氏が鴨志田氏に指示を出しながら撮影した映像と肉声の生々しさ。
 見逃した方は,本日(27日)夜中の再放送(近畿・北海道除く)か,5月3日のBS2午前11時の再放送を是非ご覧いただきたい。
 文部科学省,「うつくしいのはら」を教科書に載せなさい。
(くまちん)

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1 私は刑事控訴審について継続して勉強しており,このブログに続編を書くことにしているが,もう少し時間が必要である。そこでその合間に法律的でない雑文を書くという事態が続いている。

2 先日仕事の合間に,嘆息混じりにインターネットで遊んでいたところ,「高血圧改善プログラム」なるDVDの宣伝を見つけた。そういえば私も肥満が原因らしく,多少血圧は高目である。私は犬の散歩やテニスなどで運動量もある程度確保しているので,余り心配するほどではないが,血圧が下がるという話は魅力的ではある。数万円という結構高い金額なので迷ったが,一定期間内に購入すれば半額になるという。妻に相談すると,「欺されたつもりで買ってみたら」と言った。

3 早速衝動買い的に注文し,入手した。つぼを刺激するという「つぼ健康法」の話である。全身の10数箇所のつぼを,1か所を30秒ほど時間をかけて自分の指で刺激するというもので,つぼの位置が正確に記載されている。早速やってみると案外気持がよい。私は日頃から肩凝りなどのない人間なので,これまで余り体を揉んだこともないが,これは案外病みつきになるかも知れない。

4 いろいろと実験してみたが,朝と夜2度風呂に入ることにし,風呂の中で1回10分を目標に試みることにした。これまで私の入浴は電光石火の如く,「カラスの行水」よりも短いなどと,家族にからかわれていたが,突如長風呂になっている。しかも1日2回である。

5 長時間の入浴は一時的に血流が増え,健康法として優れているらしい。汗をかくので体重も減る。そしてジックリとつぼを刺激できる。一石三鳥とはこのことかも知れない。そういえば最近何となく体に活力が増しているような気がする。始めたばかりなので,まだ毎朝自宅で測定している血圧には変化はないが,血圧を下げるためだけでなく,全身の健康法として活用できそうに思える。仕事のストレス解消策にもなるだろう。

6 そこでいつものようにお節介病が出て,周囲の人に,健康によいからとうるさく押しつける事態となった。妻にも事務員にも友人達にも押しつけている。その結果妻は「実験台になってあげる」ということになり,つぼ以外も含めた全身のあん摩を命じられることになってしまった。私は一旦決めると案外継続するので,1か月,3か月,半年,1年と様子を見ることになるだろう。もう20年以上続けている「わがトレーニング計画表」に,朝と夜,キチンと「つぼ健康法」を実践したかどうかと,血圧値を記載することにした。きっとその内血圧も下がるだろう。
 私は密かに今年中に,健康に関する全ての数値を合格点にすることを決意しているが,この「つぼ健康法」は案外威力を発揮しそうに感じており,お勧めである。この文章は成果が出てから書くつもりでいたが,それまで待ち切れなかったものである。(ムサシ)


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 原田國男判事の退官記念論文集「新しい時代の刑事裁判」(判例タイムズ社)が刊行されている。刑事裁判の第一線を担っている裁判官が多く執筆しており,全33本の論文のうち,裁判員制度関係が21本,量刑関係が6本を占めているので,裁判員裁判に関心をお持ちの向きには必須の文献であろう。値段が14000円と高いのが玉にきずであるが,裁判員制度関係の論文のタイトルを見るだけでも,「裁判員裁判における科学的証拠の取調べ」,「裁判員が参加する刑事裁判における精神鑑定の手続」,「責任能力判断の基礎となる考え方」,「裁判員裁判における共犯者判決の取扱い」,「被害者及び被害者遺族の処罰感情と刑事手続上の表出方法」,「裁判員裁判における少年法55条による移送の主張について」,「裁判員との量刑評議の在り方 」と言ったホットな問題が並んでいる。量刑関係では,前田雅英教授が「死刑と無期刑との限界」について書かれている。
 そうした中に,「裁判員裁判と刑事裁判修習」,「司法修習生による評議の傍聴について―裁判員制度の実施を契機として」といった論考も載っている。今まで司法修習生は裁判官同士の合議に事実上参加して意見も言えるのが「特権」でもあり,実践的なトレーニングの場であったのだが,裁判員を交えた評議についてどう修習生を扱うかは実は厄介な問題となる。当初はそもそも参加させないという運用が考えられていたようだが,最近は評議室の中に入れるが「気配を消した」状態で傍聴するらしい。「気配を消す」というのは,裁判員の発言に対してうなずいたり首をかしげたりしても評議に影響を与えかねないからじっとしていろと言うことのようだ。意見を言えないという点では「補充裁判員」も同じだが,「気配を消す」のは相当につらい。
 閑話休題。今年の一月に退官直前の原田さんの講演を聴く機会があった。「裁判員裁判における量刑」というタイトルで,既に「量刑判断の実際」(立花書房)といった本を書いておられる方なので,学術的なお話をされるのであろうと身構えていたが,なかなか実務的で「やさしくふかい」話をしていただき,良い意味で期待を裏切られた。原田さんは,一度法廷で,起訴された事実を認めると言って席に下がった被告人が異様に喉仏を上下させているのを見て,もう一度起訴された事実について確認すると否認に転じたという経験を話され,そのせいもあってか,黙秘権の告知は,たとえ自白事件であっても「本当にやってないのならここで言わないと駄目だよ。控訴審や上告審,再審で言ったって駄目だよ」と言うそうである。この講演を聴いた途端,原田さんのファンになり,積ん読になっていた御著書を紐解こうと思ってまだ果たせずにいる。不勉強で怠惰なファンで申し訳ない。
(くまちん)


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6 カラオケでのK点超えを目指して,月1回夫婦でカラオケに行くことになったのをキッカケにして思案していたところ,少し考えが発展していろいろと面白いことを思いついた。

7 私は仕事上,車で片道40分ないし1時間半を要する裁判所の支部や警察署に,法廷や被告人などの面会に行くなど,長時間自分で車を運転する機会は案外多い。時に居眠り運転の恐れもないわけではない。しかしその往復時間は,多くの場合漫然とテレビをつけたり,音楽のCDを聞いたりする程度で,何か工夫が必要だとは感じていたが,格別な工夫はなされていなかった。このままでは時間がもったいないと思いながら,工夫する気力も湧かず,放置されていたということである。しかも県北などに出かけると,TVの受信状態が悪くなり,雑音が混じることも多く,TVを消すことも少なくないのである。音楽ばかり聴くのも疲れる。

8 そこで,かねて頭にあったことを少し整理して,その往復時間の活用法を一工夫した。まず遠出の際は必ず新聞のTV番組を車に乗せておき,見たい番組をチェックする。また往路は仕事の前なので,多少緊張感を残しておく必要もある。そこでまずクラシック音楽をCDで20分程度聞く。これは案外好きなのである。その後実用英語を20分程度聞く。NHKの講座などで,主としてヒアリングの力をつけようというのである。更に人生論,名著の朗読,各種講演などを録音したCDやテープを聞く。往路は案外意欲的である。このようなCDやテープをいろいろと調査しているところである。

9 帰路は,一応仕事が終わっており,疲れや気の緩みもあり,居眠り防止の工夫も必要になる。居眠り防止策としては,種々実験した結果,有糖コーラがお勧めである。疲れた脳に糖分を補給すると眠気が覚めるような気がする。私は「覚せい剤」と呼んでおり,活用している。ガムよりも効果的であると思う。

10 帰路は賠償千恵子や小椋佳などの好きな歌を暫くCDで聴くことにした。一緒に歌うこともあり,そうなるとカラオケ教室を兼ねることになる。面白い落語も組み入れることにして,CDを数枚買い込んだ。そして最終コーナーは本格的なカラオケ教室となる。そのための新曲を10曲ほど選曲中で,有名過ぎず,よい歌を捜している。スナックなどで他人が歌っている曲で,持ち歌にしたいと思った曲名をすかさず,密かにメモしておく。かくして出張の往復は案外忙しく,貴重なトレーニングタイムとなる。

11 このマイカーカラオケ教室と月1スナックで歌唱力を向上させてK点超えを目指すのである。居眠り運転防止とわが不老長寿法を兼ねており,なかなかの名案である。この往復1時間半ないし3時間は案外人生の充実した時間に変貌しそうで,苦痛な出張が楽しみになりそうである。妻にもこの秘策を伝授してやろう。そのうち夫婦ともにK点超えが当たり前になり,きっと先輩弁護士が驚く時が来るに違いない。(ムサシ)


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1 先日妻とスナックでカラオケを歌った。考えてみると妻と2人でカラオケに行くのは,結婚後初めてのことのような気がする。妻も含めた大勢で行くことは案外ある。2人で結構沢山歌った。いずれも古い歌である。点数が出るシステムなので,K点(90点)超えを目指したが,2人とも89点止まりであった。いささか残念というところである。

2 かねてから,私より年上のある弁護士が,カラオケで歌うことを病気のリハビリだと称して,この店をよく利用しておられ,我々夫婦も,何かの機会に何度かお誘いを受けたことがあった。その弁護士は声がよくて,最高96点を出したと自慢しており,証拠写真まであるという人である。私は大体88点から85点位なので,「ムサシ君は今一歩だね。」などと,これまでからかわれてきた。

3 そんなことから,かねて妻と,月に1回夫婦でカラオケに行こうという約束をする事態となり,何としてもK点超えをしたいと考えていたのである。しかしそれからもう数か月が経過していた。そして先日,ある懇親会の後で,ふと夫婦でその店に出かけたのである。

4 我々夫婦は週1回,二人だけでテニスの練習をすることにしており,妻が帰省して別居が解消した2年前から,主として妻の仕事のストレス解消手段としての要望が強く,比較的熱心にテニスの練習を続けてきた。その後月1回,夫婦で映画に行こうとか,ハイキングなど様々な計画はするものの,実現できないでいたのである。このたびのことがキッカケになって,本気で夫婦で月1回カラオケに行く約束が実現することになりそうである。

5 カラオケは健康によいと言われているし,実際歌を歌ってみると気分も爽やかで,ストレスも解消されるようだ。今後月1回のカラオケを楽しみに,K点超えを目指すことにしよう。裁判官になったころ,今から30年以上も前に得意としていたカビの生えたような古い曲を卒業して,新しい曲を選んで,新レパートリーを開拓しようと思っている。余り有名ではないが,よい歌を見つけて,10局程度持ち歌にしようというのである。(ムサシ)



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 4月8日木曜日のクローズアップ現代は,名張毒ぶどう酒事件を取り上げ,木谷明・元判事も出演され,参考人聴取も含めた可視化の必要性を訴えておられた。事件に関与した裁判官にも取材していたが,「絶対、間違いないという証拠がある事件はむしろ少ない。(犯人である)確率90%が80%に下がっても有罪とする場合もある。」とまで言い切る裁判官がおられることには,いささか呆然とした。
 http://cgi4.nhk.or.jp/gendai/kiroku/detail.cgi?content_id=2873
 事件の詳細についてはこちらを
 http://www.enzaiboushi.com/600nabariz/
 何よりも驚くのは,この事件の発生が昭和36年3月であることだ。不肖私は昭和36年2月生。奥西・元被告人(マスコミ的に定着したこの呼び方も変なものだが,「死刑囚」と呼ぶよりはいいと言うことかもしれない。しかし,彼が依然として「確定死刑囚」であることには何の変わりもない。)は,49歳の私が物心つく前から半世紀近く拘束されているのである。
 この事件では,昭和36年当時に使用されていた農薬ニッカリンTに関する鑑定が問題となり,再審弁護団は当時流通していた農薬を入手するのに大いに苦労したそうである。幸い農薬に関するウエブページの掲示板に書き込みをしたところ,入手方法のヒントが得られ,当時の農薬が入手できたとのことである。私もさる再審事件弁護団の末席を汚しているが,やはり科学鑑定には悩まされており,その苦労が分かる。
 各都道府県警察本部には科学捜査研究所という付属機関があり,ここで多くの鑑定がなされる(「科捜研の女」というドラマもある)。もちろん警察の機関が行う鑑定全てに問題があるなどと言うつもりは更々ないが,足利事件のDNA鑑定や,時に報じられる鑑定資料の取り違えのようなことがあると,弁護側からのアクセスや条件設定要望も可能とする公正中立な鑑定機関が望まれるところである。かつて警察関係書の多い出版社から刊行されていた先輩刑事の自慢話には,死亡推定時刻とアリバイが問題となったときに,頼み込んで死亡推定時刻を警察側に有利に幅を持たせてもらってホシを逮捕できたなどという恐ろしい話が堂々と掲載されていた。本来であれば,将来的には法テラスあたりが鑑定機関的機能を果たしたり,少なくとも弁護側での鑑定を受託してくれる機関の紹介や,鑑定費用の援助をしていただきたいところであるが,現状ではその道は遠い。
 そもそも従来の弁護士は,文科系の法学部を出て司法試験に合格したものが大多数で,理科系の知識に疎いことは否めない。法科大学院によって目指した法曹養成制度の一つの目標は,理科系も含めた多様な人材を法曹界に迎え入れ,例えば弁護団の中に科学的鑑定の問題点を的確に突くことができる人材を置けるような状況を作ることだったはずであるが,現在では,そうした志願者が大幅に減少しかねない状況であることが悩ましい。

蛇足 間もなく「Q&A 見てわかるDNA型鑑定」発行:現代人文社 定価3780円(税込)という本が発売される。足利事件の誤鑑定を指摘された日本大学医学部押田茂實教授も編著者になっておられ,科学に疎い刑事弁護人の目から鱗が何枚も落ちる内容となっているそうである。鑑定書に添付されるチャート(グラフのようなもの)の見方も解説され,付録に手技が全てビジュアルにわかるDVDがついているのも嬉しい。このあたりが分からないから,弁護人は反対尋問がしにくいし,尋問もかみ合わないのである。
(くまちん)


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1 先日,学生のころ生活した学生寮の同窓会に出席した。上下3学年位の幅のある学年を含んでおり,30数名が出席した。40数年振りに会う友人が多く,みんな老人風の歳相応の風貌になっていた。

2 挨拶の話の際に,私は例の調子で,皆さんに「オリーブオイル健康法」を推奨した。「今からでも髪が黒くなるか?」などと色々な質問が出た。私は同時に,「人生の黄金期はいつか」という議論を展開した。我々の世代は,裁判官の定年年齢である65歳から75歳までの前期高齢者の世代であるが,この前期高齢者の世代こそが人生の黄金期ではないかという議論である。その年代の多くの人は定年退職し,時間的にも経済的にも余裕があり,人生で初めて好き勝手に生きることができる年齢になっている筈なのである。我々は今人生の黄金期の真っただ中に生きていることになる。この年代を,健康でかくしゃくとして楽しまないのは,余りにも勿体ないのではないか,という議論である。

3 私は,人生の黄金期をピンピンと元気に生きて,颯爽と人生を楽しもうではないかと述べた。もっとも,簡単には颯爽と生きることなどできはしない。しかしピンピンと生きて,家族に余り迷惑をかけずにコロリと死ぬ。「ピンピンコロリ」すなわち「ピンコロ人生」こそが目指すべき人生ではないかと言ったのである。いかに生き,特にいかに死ぬかは,人生の達人のメルクマールでもあるだろう。

4 この話は結構受けたが,私は更に次のように付け加えた。『以前に私が高校の同級生と飲む機会があって,「ピンコロ人生論」をぶったところ,口の悪い友人が,「君は(「まるでブタのように太っているから」とは言わなかったが,)ピンピンコロリではなく,トン(豚)コロリだろう。」と言われてしまった。』という話である。寮の同窓会の会場は爆笑の渦となり,暫く騒然となった。

5 更に私は大学の同窓会で,「高校の友人のアッパーカットで,私は見事に一発でノックアウトされてしまった。」と述べ,「ヨーシ見ておれ」と思って,その後私は人生の最終戦争と称して,本気で減量に取り組むことになったことを話したのである。

6 かくしてもはやどう見ても,私には大幅減量の道しか生きてゆく道はないような気がするのである。(ムサシ) 

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 先日再放送されたETV特集「死刑囚永山則夫」のディレクター堀川惠子さんが,「死刑の基準」(日本評論社)という本を出されている。再放送の後に読了したが,番組をご覧になって永山事件に関心を持たれた方には是非手に取っていただきたい。若い法律家の方々にも読んでいただきたい。
 1時間半のドキュメンタリー番組というのは,テレビ的には決して短いものではない。しかし,番組の主旋律となった永山死刑囚の元妻和美さんに関しても1時間半では伝えきれなかったエピソードが一杯あることに,この本で驚かれるだろう。テレビドキュメンタリーという表現形式の難しさも感じさせられる。あの番組を作るために膨大な永山死刑囚の書簡に全て目を通され,色んな方に会われた堀川さんの努力にも頭が下がる。
 この本で注目されるのは,番組ではわずかにしか触れられていないこの事件に関与した元裁判官たちに対して,堀川さんが綿密に取材されていることであり,また,元裁判官側も取材に応じておられることである。
 高裁無期懲役判決の船田三雄裁判長について,当初弁護人からかつてチッソ川本事件で「弁護人抜き裁判」を強行したタカ派裁判官として警戒されていたこと(「弁護人抜き裁判って何?」というそこのお若い法律家の方,是非読みなさい),若い時期に経験した二つの事件から死刑判断のあり方について疑念を抱いていたこと,永山判決直後に別の事件で永山判決との均衡にも触れながら死刑を言い渡していることなど,世評言われたのとは異なる複雑な実像が描かれている。主任裁判官であった櫛渕理裁判官が,退官後の弁護士人生を引き受け手の乏しい外国人の国選弁護に費やされたこと,何より元妻の和美さんを自宅に招いて対面されていたことに驚かされた。
 私が感銘したのは,一審死刑判決に関与された豊吉彬・元判事,最高裁差戻判決での担当調査官であった稲田輝明・元判事が堀川さんの取材に丁寧に応じておられることである。稲田さんは刑事裁判官から民事裁判官に転じた理由まで,堀川さんに率直に語っている。稲田さんの「9つの量刑因子だけを取り出して,これをもって『永山基準』と呼ぶのは判決の精神を理解しないものではないでしょうか。」という指摘は重く受け止められるべきであろう。
 高裁判決当時,船田判決に激怒したという土本武司・元検事が,今日,死刑についての裁判官の全員一致を要求することを示唆した船田判決を再評価すべきであると考えておられることも注目される。
 惜しむらくは,やや誤植が目につくところが残念である。
(くまちん)


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