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石油化学工業第5回

2013年02月13日 | Weblog
続、EOGプラント

 夢には見たが、プラント在籍5年間に致命的な火災・爆発事故はなかった。それでも数々の危険には遭遇した。初めての職場での仕事は、プラント運転条件などもそうだけれど、出来事の多くを結構鮮明に覚えているものだけれど、公にしていいかどうか疑わしい事例は書かないでおく。

 今年の冬も寒かったけれど、私は夜勤で、マイナス6℃を経験した。山口県の瀬戸内側ではめったにない気温である。この時、オキサイドプラントのエチレンフィード量を測定する流量計オリフィスの検知管に巻かれたスチームトレースがまず凍りつき、検知管に溜まっていたドレン水も凍って測定不能となり、プラントは自動的に緊急停止した。

 岩国は、岩の国と書く通り岩盤がしっかりしているため地震の被害は少ない所で、そのことは石油化学コンビナートの好立地ともなったのだけれど、それでも地震でオキサイドコンプレッサーの安全装置が作動して緊急停止したこともある。

 反応機の破裂版が劣化によって破裂し、猛烈な音と共にプラントは緊急停止したこともある。ローカル監視所に居た担当者は腰を抜かさんばかりだったが、速やかな対応に抜かりはなかった。これら予期せぬトラブルがそれ以上に拡大することはなかった。

 年月が過ぎて、私が管理職に登用された時の昇格者研修は、社外施設で教育・研修専門のコンサル会社の下で行われた。多くの方が一度くらいは受けたと思われる、例のタイタニック号沈没事件に模して、船長の採るべき対応の手順を問う問題が出た。開けて見れば、われわれの答えがあまりにばらばらで講師に呆れられた。講師は、先に大手○○会社でも同様の研修を担当したが、この問題は全員正解であったと言うのである。確かにQCストーリーにも似たトラブル対応の定石くらい、大企業の管理職なら一応知っておくべきもので、大手○○会社の新任管理職に比べて、われわれの能力の欠如は確かである。しかし、その話を聞いて私にはその○○会社に一抹の不安を抱いた。

 元々想定外という言葉自体が言い訳に過ぎないのだけれど、そのような大きなトラブルが仮に起こったとしても、けっして致命的に拡大しないような知恵を持った人材が古来我が国の企業には結構いた筈なのだ。それは当然に優れた現場のリーダーであることは多いのだけれど、日頃冴えない風体の窓際的人物やいつも問題を起こすようなトラブルメーカーの人物が却って変化球には強いかも知れず、彼らこそ緊急時のヒーローとなることは現実にもあることのように思える。

 日本の教育制度は団体行動向きの人材を大量に作ってきたが、そのために各人の個性が削がれ、創造性に乏しい人材ばかり輩出したようには良く聞く話だけれど、学校教育においては通常そこまでの強制力はない。実は勤務した職場の影響力が大きいのだ。何といっても生活の糧としてのサラリーを貰う所だから。独占的事業を行う大企業は半ば以上に官僚化し、確かに習ったことは良く覚え、過去に起こった問題の対応には優れるのだけれど、自分達が敢えて想定しなかったトラブルには誰も歯が立たない画一化された人材しか育っていない恐れを感じる。

 このところ石油化学コンビナートでも連続的に大きな火災・爆発事故が起こっており、先般NHKの「クローズアップ現代」にも取り上げられていた。石油化学が興って50年余り、日本のインフラ同様装置の老朽化もある。収益性の悪化で規制されない部分までの点検補修に手が回っていない。などの要因が指摘されるけれど、管理の効率化が進み従業員の多様性を許容する企業風土が後退している恐れはないだろうか。

 入社して5年間を一緒に過ごしたEOGプラントの個性的な先輩同僚を思い出しながらそんなことを想う。



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