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経営分析入門第10回

2013年08月28日 | Weblog
総合評価と企業価値

 企業の買収や合併、すなわちM&Aにおいては対象となる企業の価値評価が重要となる。別にM&Aでなくとも、投資家向けアピールもあってか、株式の「時価総額」*17)が、国内外の企業との比較で話題になる。

 因みに東京証券取引所の第一部上場企業1,752社の時価総額は2013年7月31日現在で396兆5,067億3,600万円。国内企業のトップは勿論トヨタ自動車で、20兆5,845億円。続いて第2位は三菱UFJフィナンシャルグループの8兆5,103億円。以下ソフトバンク 、本田技研工業、NTTドコモ、三井住友フィナンシャルグループ 、みずほフィナンシャルグループ、KDDI、日産自動車、日本たばこ産業の4兆5,666億円までがベスト10となる。米国のGEやIBMも20兆円程度であるから、トヨタの健闘が光る。

 時価総額は株式市場の評価であり、株価は毎日変動するため、今現在はどうかという情報が必要で、ネットの時代の目まくるしさも付きまとう。8月27日現在トヨタの株価は6,160円、ソフトバンクは6,240円。銀行株はなぜか安く、三菱UFJフィナンシャルグループ596円、みずほフィナンシャルグループなど204円だ。もっとも三井住友フィナンシャルグループは4,445円である。高いのはNTTドコモで、162,100円。株価はもともと1株50円、100円でスタートした会社と万円単位で発行した会社で現在値も差がつくのは当然である。

 時価総額という企業価値の指標は、上場企業の話で一般の中小企業にはあまり縁がない。通常の企業価値評価は、貸借対照表の資産、負債に基づき純資産額を求めて企業価値とする純資産法がある。この場合、総資産を簿価で見るか時価で見るかで企業価値は変わってくる。企業が倒産という危機にあっては、その再生のために改めて資産評価が行われるが、資産をいざ売却して現金化しようとすれば、価値の著しい低下が免れないことも多い。在庫評価や売掛金の回収も額面通りに行かない。そのことが却って債権者にその時点での企業清算を思いとどまらせ、現状からの再建に向かわせることにもなる。工場や工場用地もそのまま将来も使い続ければ本来の価値があるものだ。

 その他の企業価値の算出方法には、収益還元法やフリーキャッシュフローと加重平均資本コスト(WACC)から求める方法などがある。

 経営分析の視点からの企業の総合評価のポイントをあげると、①財務上の安全性、②営業キャッシュフロー、③収益力、④資本の効率性(生産性)、⑤成長性と最初に返って経営分析のポイントの項目になる。但し、総合評価では加えて⑥人材や⑦ソフトな企業力、すなわちブランド力であったり知的財産力さらには明確な経営ビジョンを持っていることなども評価対象となる。

 長く企業に勤めて狭い範囲ではあるがその変遷をみるに、企業トップの資質、能力がより強く直接業績に反映される時代になったという気がする。大企業の末端の職場も所属長によって変わる。所属長を誰にするかを決めるその上の組織の長の器が順次問われているのだ。

 傾いた大企業が外国人経営者を招聘したり、落ちぶれそうな国や県や市は女性政治家をトップに据える。日産自動車のゴーン氏やイギリスのサッチャー女史などの成功例もあるが、概ね残念なケースが多い。人材を育てるに即席栽培はない。植物でさえ移植も簡単ではない。良い農作物を作るためには土壌から変えてゆかねばならない。その人が生まれ落ちた時、その土壌がリーダーを育て得るものであったかどうか。その人の関心が人というものへの洞察を強く持っていたかどうか。勿論リーダーの好ましいタイプは時代・環境によって多少の変化はあるが、いつの世にあっても「冷静な頭脳とあたたかき心」“cool head but warm heart”*18)を持った人でなければならない。少なくとも私利私欲ばかりの人はリーダーには向かない。



*17)発行済株式数×時価(一定日の市場価格)
*18)近代経済学の祖であったアルフレッド・マーシャル(1842-1924)が、ケンブリッジ大学の経済学の教授に就任するときに言った言葉。伊東光晴、佐藤金三郎共著「経済学のすすめ」筑摩書房1968年刊

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