「スナップ写真のルールとマナー」と「エドさんのピンホール写真教室」

「スナップ写真のルールとマナー」(日本写真家協会編 朝日新聞社 2007)

朝日新書の一冊。

友人が“FLEX LIFE”というタイトルのブログをやっている。
毎回写真を載せているのだけれど、これがいい。
で、いつぞや、スナップ写真を撮るうえで、被写体にどんな配慮をしたものか悩んでいるようだったので、読んでないけどこんな本があるよと、この本を紹介したところ、
「えー、読んでないのー」
と、いわれた。

まあ、たしかに読んでいないのにひとに薦めるのは無責任。
でも、本というのは、ちゃんと読まなくても、ぱらぱらやれば、だいたいのところはわかるものだ。
とくに、実用書はそう。
とはいうものの、それでは説得力がないので、ちゃんと読んでみることに。

結論としては、この本はオススメできるものだと思う。
新書なのでハンディだし、肖像権や著作権についてもわかりやすく書いてある。
Q&Aは、質問の設定が非常に具体的だし、回答も穏当。
どういう構成か、目次から引いてみよう。

・「楽しく写真を撮るために」 田沼武能(日本写真家協会会長)
・「「肖像権」とはなにか」 松本徳彦(日本写真家協会専務理事)
・「Q&A スナップ写真と肖像権」
 
 1.こんな場所で撮っていいの?
 2.撮った写真を公表したい
 3.パブリシティーがらみの写真
 4.写真を撮ってトラブルに
 5.そのほかのケース

・「鼎談 スナップ写真はこう撮ろう」 松本徳彦・毛利壽夫・山口勝廣
・「写真の著作権」 毛利壽夫
・「参考文献」
・「法的視点から見た「肖像権」について」 北村行夫
・「法的視点から見た「著作権」の基本について」 北村行夫

中心になっているのは、5章に渡る「Q&A スナップ写真と肖像権」。
見開きで1例ずつ、全66例が挙げられている。
その質問については、たとえばこう。

「歩行者天国で大道芸をしている人を撮りました。まわりには、たくさんの人が写っています」
「大道芸に見とれていた女の子のスナップをブログで公表したい」
「よく出かける公園で、保育園児のスナップ写真を撮りました」
「背景にあったポスターに写っている女優から掲載使用料を請求された」
「他人の犬を撮ったら「この犬はプロだから謝礼を払えといわれた」
「テーマパークで撮った家族写真をブログに載せたい」

などなど。
さて、回答によくでてくるのが「暗黙の了解」ということば。
でも、このことば、「暗黙」だけあって、いまいち意味がはっきりしない。
被写体と挨拶をかわすことで、被写体から撮影の許可を得たと判断することを、こういうふうにいうらしい。

たとえば、あるとひとが素晴らしい表情をしていたとする。
事前に撮らせてくださいと許可をもらえれば一番だけれど、それをするとカメラを意識して素晴らしい表情が消えてしまう恐れがある。
そのため、なにもいわず写真を撮る。
撮ったあと、被写体に挨拶をする。

これで「暗黙の了解」が成立するらしいのだけれど、問題はこの「挨拶」。
黙礼や会釈ていどなのか、お礼をいったのかで「暗黙の了解」の強度が変わってくるらしい。
それから、「暗黙の了解」は撮影のことだけであって、公表は認めていないという考えかたもあるという。
このあたりはややこしいけれど、被写体ひとりひとりの感じかたのちがいだから、ややこしくもなるだろう。
この微妙なところを、さまざまなケースを用いながら説明しているところが、この本の美点。

事前に公表することがわかっている場合は、相手にそれをつたえ、なおかつ相手の住所を教えてもらって、写真を送ったりできればいい。
でも、住所を教えてもらえるとはかぎらないし、大勢写っていて、全員に許可をとるのが不可能な場合もある。
そんなときはどうすればいいか。

回答者のひとり、松本徳彦さんは、ある回答でこんなことを書いている。

「写真家が肝に銘じておくことは「撮る行為、発表する行為、すべて自分自身に責任がある」ということです。この「責任がある」ということを念頭に置いて、撮ったり発表したりすれば、問題は起きないはずです」

つまり、最終的には覚悟の問題らしい。
こそこそせず、堂々と撮り、事前や事後には挨拶をし、場合によっては撮影意図を説明できるようにして…、やることをやったあとは覚悟の問題。
この考えかたは、わかりやすくていい。
さらに、松本さんはこうもいっている。

「気持ちのよい美しい作品であれば、誰も文句は言わないでしょう」

ところで、公表について。
雑誌に応募したり、展覧会に出品したりするよりも、ブログにアップするほうが敷居が高いのだそう。
ネットではだれもがみられるし、勝手に書き換えることもできるから、より注意が必要だと本書にある。

具体的な事例を知り、復習し、そのあとは覚悟を新たにする。
それが実用書としての、本書のつかいかたかもしれない。

この本には、回答者が撮ったスナップ写真もいくつか載っている。
せっかく載せているのだから、どんな状況で、どんなふうに相手に断ってこの写真を撮ったのかも書いてあるとよかった。

写真つながりでもう一冊。

「エドさんのピンホール写真教室」(エドワード・レビンソン 岩波書店 2007)

副題は「スローライフな写真術」。
翻訳は鶴田静。
著者は日本で暮らしているカメラマン。

本書は、実用書でもあるけれど、それよりはピンホールカメラをめぐるエッセーといったほうがいいかも。
ピンホールカメラのつくりかたがあり、撮影のコツがあり、ワークショップ参加者の作品への評があり、自作の解説がある。

ピンホールカメラは露出にとても時間がかかるものだから、スナップ写真は無理だろうと、かってに思っていたのだけれど、本書を読んだら、そんな思いこみは完全にくつがえされてしまった。
素晴らしいスナップ写真がたくさん載っている。

まず気に入ったのは、これはワークショップに参加したかたの作品だけれど、昼寝している犬を至近距離から撮った写真。
この写真に、著者はこんなことばをつけている。

「まどろんでいる犬を見ると、僕はいつも嫉妬を感じる。犬はスローダウンする方法や、望む時には世の中を無視する方法を知っているのだ。しかし彼らは、何かが起こりそうだと、一瞬のうちに気付いていつでもそちらにいく用意ができている」

著者が撮った、川にむかい彼女を肩車している高校生のカップルの写真や、団地の女の子を撮った写真も魅力的。
団地の女の子の写真は、たまたまあらわれたその子に、「30秒間でいいからそこにそのまま立っててくれませんか?」とお願いして撮ったものだそう。

あとできっと彼女は知らない人と話してはいけないと叱られたに違いない、と著者は書いているけれども、この作品をみたら、親も叱るのをやめるんじゃないだろうか。

ピンホールカメラで撮ったスナップは、普通のスナップ写真とは趣が異なる。
写真にこめられた時間の量がふつうの写真よりも多いぶん、一瞬をより強く意識させるようになる。
それがピンホール写真の魅力のひとつだろう。

著者の作品はEdophotosで見ることができる。

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