MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

運動音痴の真の原因

2020-07-26 12:09:10 | 健康・病気

新型コロナウイルスの感染は広がるばかりだが、

市中での感染予防策は本当にしっかりとれているのか?

政府にはもっと指導力を発揮してほしい。

 

さて、全くコロナとは関係ない疾患で恐縮ですが、

7月のメディカル・ミステリーです。

 

7月18日付 Washington Post 電子版

 

A teenager’s apparent clumsiness foreshadowed a shocking diagnosis

十代女性の明らかな運動神経の鈍さは衝撃的な疾患の前兆だった

By Sandra G. Boodman,

 

 Judy Kalnas(ジュディ・カルナス)さんは、彼女の6人の子供の末っ子 Jessica(ジェシカ)さんが、柔らかい手足を持った漫画のキャラクター、 Gumby(ガンビー)に似ていると思っていたことを覚えている。

 彼女によると、Jessica さんはよく自転車で転んでは“笑いながら起き上がっていた”という。高校の時には、フィールドホッケーの練習中に転倒した。何年かの経過で彼女の最悪の怪我は足の指の骨折だった。家族のメンバーに米国のオリンピック選考会出場の資格を持つ砲丸投げの選手がいるほどの運動神経の発達した一家の中で彼女の明らかな運動神経の鈍さは際立っており、気まずい思いを彼女は抱いていた。

 しかし、通っていた高校の卒業式で数学の賞を受け取ろうと準備していたとき座席から Jessica さんが転げ落ちたとき、単なる運動神経の鈍さ以上の何かが原因となっているという否定しがたい現実が紛れもなく明らかになった。

 3年後、娘にショッキングな診断が下された時、Judy Kalnas さんは、自身の母親が何十年も前に、ある別の家族について語っていた言葉をすぐに思い出した。

 

自宅の庭で写る Jessica Kalnasさんと母親の Judy Kalnas さん。「私の最大の心配は『この病気とどうやって付き合っていくか?どのようにこの病気が進んでくるのを見ることになるのか?』です。重要なのは彼女を失うことなどあってはならないということです」と Judy さんは言う。

 

 その言葉は、自身の子供たち、特に現在31歳になる Jessica さんの状況を Kalnas さんが知ったあと、特別な響きを持つことになる。

 

A diagnosis discarded 撤回された診断

 

 Jessica さんが14歳の夏、彼女の大勢の親戚家族でノースカロライナ州の Outer Banks(アウターバンクス)の家を借りた。ある日の午後、Judy さんは、Jessica さんがビーチからの急な階段を両手と両膝で這い上がって来るのを目撃した。彼女が娘に何をしているのか尋ねると、Jessica さんは「その方が楽だから」と答えた。しかし Judy さんの姉妹の一人も同じことを言ったので、それについてはほとんど気にとめなかった。

 しかし翌年にかけて、Jessicaさんの動きがだんだんとぎこちなくなっていくようにみえた。約10年間彼女は応援をしてきていたが、高校1年生の年、チアリーディングチームに参加しなかった。メンバーに入れなかったのは笑顔が十分でなかった結果だと思うと Jessicaさんは両親に説明した。しかし実際には彼女がジャンプができなかったためであることを後になって母親は知った。Jessica さんは代わりにフィールドホッケーのチームに参加した。

 Jessica さんによると、当時、「かなり調子が悪かった」と感じていたという。しかし両親に心配をかけたくなかったし、自分の活動が制限されることを恐れて両親には何も言わなかった。

 「脚力を強化する努力をすればそれはいずれ消失するだろうと思いました。そのため、転倒しても大丈夫な風にいつも振る舞っていました」と彼女は言う。

 幼稚園の教師である母親は心配した。「フィールドホッケーの練習を見に行くたびにこう思っていました。『なぜ彼女は他の皆のように走らないの?』」と Judy さんは思い起こす。後に彼女は、練習中に繰り返す Jessica さんの転倒にコーチが危機感を抱いていたことを知る。

 Jessica さんは「膝がただ動かなかっただけ」と言ったが、2008年の卒業式の夜の座席からの転落は前に進むきっかけとなった。

 それから数日以内に、この母娘はかかりつけの家庭医を受診した。彼は近くの Camden(カムデン)の神経内科医に Jessica さんを紹介した。

 その神経内科医は Duchenne muscular dystrophy(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)を除外した。この疾患は、幼い子供、通常は男児が罹患する進行性の筋力低下を特徴とする遺伝性疾患である。その医師は筋肉が障害され、しばしば眼瞼下垂を引き起こす稀な自己免疫疾患である myasthenia gravis(重症筋無力症)の薬を処方した。

 Jessicaさんは1ヶ月間その薬を内服したが改善は見られなかった。そのため家庭医は、神経細胞が壊れる稀な遺伝性疾患である spinal muscular atrophy(脊髄性筋萎縮症)に関する専門知識を持った Baltimore(バルチモア)の神経内科医に彼女を紹介した。

 その専門医は Jessica さんと両親に、彼女が脊髄性筋萎縮症であると強く確信していると告げた;筋生検の結果がその診断を支持していたようだった。

 しかし一年後、MRI検査で、Jessicaさんの脳の一部が萎縮していることが明らかとなった。「みんなが悩んでいるようだったのを覚えています」と Judy さんは言う。

 その専門医は、彼女が脊髄性筋萎縮症であることに疑念があることを伝え、彼女を National Institutes of Health(国立衛生研究所)に紹介した。Jessica さんは遺伝性筋疾患の専門医の診察を受け遺伝子検査が行われた。何か月もかかったがその結果は家族に衝撃を与え彼らを当惑させた。Jessica さんは進行性の根治不能の遺伝子疾患 Tay-Sachs disease(LOTS;テイ・サックス病)の晩期発症型だったのである。

 「ありえない!」思わず叫んだことを Judy さんは覚えている。「私たちはユダヤ系ではないのに」

 

Fatal regression 致死的退行

 

 この神経変性疾患を初めて記述した二人の医師の名前にちなんでつけられたテイ・サックス病はおよそ一世紀の間、ほぼ例外なく中央から東ヨーロッパの Ashkenazi Jews(アシュケナージ系ユダヤ人)のみに発症すると考えられてきた。アシュケナージ系ユダヤ人の家系の27人に1人がテイ・サックス病を引き起こす遺伝子変異を持っているが、これは、一般人口より10倍高い率である。

 一般に小児に発症するテイ・サックス病は hexosaminidase A(HexA;ヘキソサミニダーゼA)と呼ばれる酵素の欠損によって起こる。この酵素は、脳や脊髄中に脂質が有害に蓄積するのを防ぐ。典型的な子宮内で罹患する赤ちゃんでは約6ヶ月までは正常にみえるが、そのころから退行が始まり、その後、失明し、知能障害や麻痺が起こる。本疾患は5才までに死亡するのがほとんどである。

 1980年代後半にテイ・サックス病を引き起こす遺伝子が発見されて以降、ユダヤ系社会ではスクリーニングプログラムや遺伝子カウンセリングが当たり前に行われるようになり、テイ・サックス病を持つ子供の数は急激に減った。

 現在、科学者らには、誰もがこの疾患を引き起こす遺伝子変異を持つ可能性があることが知られており、変異の数は100以上である。テイ・サックス病症例の集団は、アイルランド人、ケベックのフランス系カナダ人、ルイジアナ州の Cajuns(ケージャン人)など、他と混じらない非ユダヤ人集団においてもしばしば発見されていることを、NIHの専門家らは Kalnas家の家族に伝えた。晩期発症のテイ・サックス病は、最近発見されたが、HexAのレベルが低下していることに起因する本疾患の非重症の異型であり、思春期あるいは成人期に発症し表面化する。

 「それは驚くべきことでした」アイルランド人の祖先を持つ Judy さんは言う。「私が耳にしたことがあったのはただ、テイ・サックス病の子供がいることを私たちが知っていた家族のこと、そしてそれがどれほど恐ろしいかを語っていた私の母親の話だけでした」「私は子供の頃こう思っていたことを覚えています。『どうして母はこの話をするの?』と。私はそれを彼女に聞きたいと何度も思っていました」

 Jessicaさんに診断が下ってから、それまで知らなかった事実を Judy さんは知った:彼女の父方の祖父がルイジアナ州南部の出身だったのである。その地域では、“lazy babies(動作の鈍い赤ちゃん)”と呼ばれ、その多くがテイ・サックス病だと考えられていた小児の集団がとりわけ多くみられていた。

 以来、Jessica さんが生まれる何十年も前に自分たちの家族はこの病気に襲われていたのではないかと Judy Kalnas さんは考えるようになった。だからこそ母親はそのことを言い続けていたのではないだろうか?

 網膜に特徴的な cherry red spot(網膜の赤い斑点)が見られるテイ・サックス病の赤ちゃんと異なり、晩期発症例では診断がきわめて困難な場合がある。症状や重症度には大きなばらつきがあり、機能の低下はより緩徐である。本疾患は酵素測定と遺伝子検査によって診断される。

 「一般の人がこれを知らないだけでなく、神経内科の仲間でさえ LOTS を分かっていないのです」そういうのは、NYU Langone(ニューヨーク大学ランゴン医療センター)の神経遺伝学部門の副部長で神経遺伝学者の Heather A. Lau(ヘザー・A・ロー)氏である。晩期発症の中には、多発性硬化症や筋委縮性側索硬化症と言われている人がいると、Lau氏は言う。彼女は十数人の LOTS を治療しているが、そのうち数人は50歳代に診断されている。

 ボストンを拠点とする支持擁護団体 National Tay-Sachs & Allied Diseases Association(米国テイ・サックス病、および類縁疾患協会)によると、診断をさらに困難にしているのは、約40パーセントのケースで初発症状に躁病のエピソードや他の精神科的症状がみられていることだという。

 

 本疾患のすべてのタイプが、いずれも保有者となっている両親からそれぞれ変異遺伝子を受け継ぐことに起因する。その場合、一回の妊娠で、その子供が2つの異常な遺伝子を受け継ぐことで罹患する確率は25%であり、子供が罹患せずキャリアにもならない確率も25%である。他方、50%の確率で子供は典型的な症状を呈さないキャリアとなる。

 Jessicaさんが診断されてから、検査により彼女の2人の男兄弟がキャリアであることが判明したが、姉には異常はみられなかった。他の2人の兄弟には検査が行われなかった。

 

'An eye opener' ‘晴天の霹靂’

 

 NIHの医師はこの家族を Edwin H. Kolodny(エドウィン・H・コロドニィ)氏に紹介した。彼は先駆的なテイ・サックス病の研究者で、現在はNYU school of Medicine(ニューヨーク大学医学部)の神経内科の研究教授である。Judyさんは、彼女らにこれから先の事についての心の準備を指導してくれた Kolodny 氏が現実的な考えを持った人物であり頼もしく思ったという。彼は晩期発症型を記載した最初の科学者の一人である。

 LOTSの治療は概して対症的となる。Jessica さんは NIH の長期研究に登録され、Lau 氏によって NYUで行われている、テイ・サックス病の症状を緩和する可能性がある米国未承認の薬剤の治験に参加した。

 「Jessica は大変よく気が付く方です」と Lau 氏は言う。「彼女には物事をまとめていく手腕があり、自主性にあふれ雄弁です」この疾患にみられることのある判断力の低下の徴候は彼女には現れていないと Lau 氏は付け加えた。

 Jessicaさんは、もはや足の装具と2本の杖を使わなければ歩くことができない;もしそれらを使用しなければ膝が崩れてしまう。両腕の筋力は弱く、毎日エクササイズを行い、エアロバイクをこいでいる。晩期発症の患者でよくみられる呂律障害に対しては言語療法が役に立っている。

 母親にとって、テイ・サックス病の診断は“晴天の霹靂”だった。Jessica さんの兄弟には看護師が2人と救命士がいるが、これまで支えになってくれており助かっている。

 「私の最大の心配は『この病気とどうやって付き合っていくか?どのようにこの病気が進んでくるのを見ることになるか?』です。重要なのは彼女を失うことなどあってはならないということです」と Judy さんは言う。

 Jessica さんの視点からは、病気と付き合っていく上で最も辛いことの一つは運転できないことだという。「最も重要なことはあきらめないことです。前進を続けるのです」と彼女は言う。

 

テイ・サックス病の詳細については下記サイトを

ご参照いただきたい。

 

小児慢性特定疾病情報センター

厚生労働科学研究難治性疾患制作研究事業

 

β-ヘキソサミニダーゼA(HEXA)の欠損により発症する

テイ・サックス(Tay-Sachs)病、

β-ヘキソサミニダーゼAとB 両方(HEXA、HEXB)の

欠損により発症するサンドホフ(Sandhoff)病、

GM2活性化蛋白(GM2A)の欠損により発症する

GM2ガングリオシド活性化蛋白質欠損症の3病型を合わせて

GM2-ガングリオシドーシスと総称する。

いずれも常染色体劣性遺伝形式を示す遺伝病である。

これらの遺伝子変異により細胞内小器官である

ライソゾームにおける糖脂質GM2 ガングリオシドの

加水分解が障害され、主として神経細胞のライソゾームに

GM2 ガングリオシドが蓄積する。

GM2 ガングリオシドは脳の神経組織に多く存在し、

細胞膜の主要な構成成分であるが、

分解されずライソゾーム内に蓄積すると神経細胞の機能が

障害される。

 

Tay-Sachsの名前は、1881年に最初に網膜の

Cherry Red Spot(チェリーレッドスポット)を記載した

イギリス人眼科医 Warren Tay と

1887年に細胞変化と東ヨーロッパの

アシュケナージ系ユダヤ人に高頻度に発病することを報告した

アメリカ人神経科医 Bernard Sachs の名前からつけられた。

 

テイ・サックス病の遺伝子変異は一部の人口集団において

高い頻度でみられる。

東欧(アシュケナージ系)ユダヤ人を祖先に持つ正常成人では

25~30人に1人にみられる。

その他、一部のフランス系カナダ人およびケイジャン人などの

集団でも認められる。

本邦におけるテイ・サックス病の発症頻度は、

8~10万人に1人で、

サンドホフ病、GM2ガングリオシド活性化蛋白質欠損症は

さらにまれである。

発症時期と臨床経過により、乳児型、若年型、成人型に

分類される。

乳児型は生後3ヶ月ころまでの発達は正常な場合が多いが、

6~7ヶ月までに発達の遅れが顕著となり、

精神発育遅滞や退行がみられる。

筋緊張低下、音に対する過敏症がみられ、

けいれん、視覚や聴覚の障害、嚥下困難などが出現する。

眼底黄斑部にチェリーレッドスポットを認める。

若年型は2~10歳頃に発症し、臨床症状は乳児型に類似する。

進行性の運動失調と協調運動障害の症状みられ、

けいれんも伴い退行が見られる。

成人型(晩期発症型)は発達は正常で20~30歳で発症する。

症状や経過は多様で、チェリー・レッドスポットは

認められないことも多い。

歩行障害、運動失調、構音障害が初期症状として多く、

ジストニア・アテトーゼなどの錐体外路症状を呈する。

知的障害は軽度である。

 

テイ・サックス病の診断は、末梢リンパ球や皮膚線維芽細胞の

ヘキソサミニダーゼAおよびBの活性測定が有用である。

また、遺伝子診断としてはHEXAの遺伝子変異を検出する。

成人型では臨床症状や経過が多様なため、脊髄小脳変性症など

他の神経疾患との鑑別が重要である。

 

治療は現段階では対症療法に限られる。

乳児型の患者は3~5歳までに死亡することが多い。

若年型は、10~15歳くらいで寝たきりとなり死亡する。

成人型は錐体外路症状、精神障害などで徐々に生活が困難となる。

現在、酵素補充療法、遺伝子治療、細胞療法などが

考案されているが、いまだ実験段階にとどまっている。

現状では有効な治療法がないため、

高リスク集団中の妊娠可能年齢の成人に対する

スクリーニング(酵素活性測定および遺伝子変異検査)で

保因者を同定し、それに伴って遺伝カウンセリングを

行うことが重要となる。

 

本病の可能性を頭の片隅に置いていなければ

診断は相当困難となりそうだ。

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