鉛が、脳炎、痴呆などの神経系の障害、貧血や腎障害を
引き起こすことは以前よりよく知られていた。
しかし、過去何年にもわたって体内に蓄積されてきた鉛が
歳をとってから起こる認知能の低下に関与している、との
最近の知見が物議をかもしている。
(1月27日付ワシントン・ポスト紙から一部、ウェブ魚拓)
ジョーンズ・ホプキンス大学のブライアン・シュワルツ博士らは
過去の鉛による体内汚染が、高齢者の脳機能の加齢を
約5年間進行させる可能性があると報告している。
「正常の加齢現象と考えられていたものの一部が、
実際は、鉛のように遍在する環境汚染物質により
生じている可能性がある」と同氏は言う。
また、「鉛はほんの一例であり、水銀や殺虫剤など
その他の汚染物質も同様の影響をもたらすかも知れない」とも。
殺虫剤の場合、最近の研究によると、
その曝露から十年以上経ってからパーキンソン病になる
危険性が高くなることが報告されている。
ニューヨーク、マウント・サイナイ医科大学の
フィリップ・ランドリガン博士によれば、
「若年期にある特定の物質が脳細胞を障害した場合、
当面は予備機能により代償可能であったものが、
年齢を重ねて多くの細胞を失うようになると、
そこでようやく物忘れや手足の震えなどの症状が現れてくる、
という解釈は可能である」という。
若年動物を用いた実験でもPCBやダイオキシンによる
遅発性有害事象が実証されている。
ヒトの場合、ある物質の遅発性有害事象の研究は、
長期間の追跡を要することから、なかなか困難だ。
しかし、鉛の場合、その人の体内蓄積量が
下肢の脛骨で測定できるため、累積被曝量が
推測できるという。
一方、血中の鉛濃度は最近の曝露度を反映する。
米国民の血中鉛濃度は近年低下傾向にあるが、
それは、1976年から1991年にかけて行われた
ガソリン中の鉛削減によるところが大きい。
しかし、前出のシュワルツ氏とミシガン大学のハワード・フー博士は
鉛高濃度時代の長期の影響はまだ続いていると提言する。
2006年、シュワルツ氏らは1000人の50才から70才の
バルチモア市の住民で調査した。
対象者は1960年代から1970年代の、
ガソリンから鉛が消えるまでの排気ガスや
その他の汚染源からの汚染大気を吸引することで、
かなりの量の鉛を取り込んだはずの年齢層である。
脛骨中の鉛量を測定し、生涯被曝量を推計するとともに
一連の知能テストを行った。
結果、鉛の生涯被曝量が多い人ほど、言語性および視覚性
記銘力や言語能力など多岐にわたる知的機能の低下が
認められた。
同年齢の場合、被曝量の多寡で2才から6才分に相当する
認知能の開きがあったという。
一方、フー氏らは、2004年、
平均年齢67才の466人の男性を対象に
知能テストを平均4年の間隔で2回行った。
この結果、高量被曝の群では低量被曝の群に比べ、
知的能力の低下度が大きく、
鉛の影響は約5年の加齢促進効果があることが示された。
鉛が加齢に伴う認知能低下の唯一の原因とは言えないが、
この金属の関与が、高血圧、糖尿病、脳卒中、精神的ストレス、
あるいは教育レベルといった、これまでに指摘されている
要因の一つに今後、追加される可能性がある。
これまでの研究は、
認知能低下に鉛の関与があることを示唆するものではあるが
関連を証明するものではないと研究者は指摘する。
いまだ、多くの謎が残されているのも事実だ。
たとえば、
実際に鉛はいつの時点で脳に実害を及ぼすのか?
脛骨中の鉛濃度で、鉛の慢性曝露によるハイリスク者を
同定できるのか?
骨中の鉛は、血中に染み出て連続的に脳を障害するなど
生涯にわたり悪影響を及ぼし続けるのか?などなど…
また、鉛が脳機能を障害するメカニズムについても不明である。
鉛が酸化ストレスを上昇させ、神経細胞のアポトーシスを誘導、
神経伝達物質の異常をきたすのではないかと推察されてはいるが…。
それではすでに多くの鉛を蓄積した人々を救うため何ができるのか、
という問題にも答えはない。
キレート化と呼ばれる方法は、体内から鉛を除くことはできるが、
このようなケースでは役に立たないだろうと専門家は言う。
ただ、若年者においては今後の鉛曝露の予防が重要であるとフー氏。
職場における鉛曝露に対して、
より厳格な連邦基準を定めるよう求めている。
塗装、ラジエター、バッテリーなど、依然として、
住環境に鉛は多く存在している。
発展途上国での曝露量はさらに高いだろうとの指摘もある。
また、鉛が胎盤を通過し得ることから、1970年代に成長期にあった
女性では胎児への移行が懸念されるという。
徐々に環境鉛の影響は低減されてくると予測されてはいるが、
まだまだ手放しで楽観できない、とフー氏は言う。
…以上が、記事の内容だ。
ニッポンの高度成長時代、排気ガス、工場の排煙などからの
汚染大気を大量に吸いながら働いてきた、
団塊の世代を中心とする現在の中高年。
いよいよ彼らも老年期に突入しようとしている。
現在でも、周りでは昔に比べると認知症患者が急増しているように
思えるのだが、今後さらに激しく増加するのだろうか?
記事中になかったが、水道管にも鉛が使われていて
水道水からの鉛摂取も心配なところではある。
前エントリーの水銀と同様、
日本でもきちんとした調査、報告をしていただきたいものだ。
ここにきて、ただただ思うのは、
憧れだった(?)あのスモッグに包まれた東京で
一時たりとも生活してなくてよかった…(あ、そっ)
田舎万歳っ!(勝手に自己満足)
ガソリンが無鉛化される前なんて、それほど交通渋滞も無かったですし。
ずっと昔は女性のおしろいにも鉛が入っていたみたいですね。なんでも、中毒により死に至る事故が続発し製造が禁止になった後でも、鉛白入りのものの方が美しく見えるとされ、依然かなりの需要があったとか。
昔から女性の美に対する意識ってすごいなぁと感心。私は・・まあ・・その、なんですね。
普段は化粧っ気ないということで(>_<)
毒と言えば、殺虫剤入り中国ギョーザ。十把ひとからげで見てはいけないんでしょうが、もう中国製かんべんしてよ、って思っちゃいますね。