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煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

意外だった頑固な空咳の原因

2025-02-25 18:52:28 | 健康・病気

2025年2月のメディカル・ミステリーです。

 

2月22日付 Washington Post 電子版

 

 

Medical Mysteries: Her maddening cough had an unexpected cause

メディカル・ミステリー:ひどく苛立たせる彼女の咳には思いがけない原因があった。

For more than a year, coughing disrupted a violin teacher’s life and sleep.

1年以上もの間、咳がヴァイオリン教師の生活と睡眠を妨げていた。

 

(Illustration by Bianca Bagnarelli for The Washington Post)

 

By Sandra G. Boodman,

 

 

 Constance Meyer(コンスタンス・マイヤー)さんの hacking cough(空咳)は他の人たちをひどくイライラさせていた。

 1年以上もの間、それは彼女の soundtrack(背景音)となっていて、教えていたヴァイオリンのレッスンに支障をきたし、夜中に目を覚まされるだけでなく、多くの治療に反応しないことで家族や友人を苛立たせた。

 「あの咳で私は心臓発作を起こしそうだ!」と、幼い息子のレッスンに付き添った医師でもあった父親は皮肉を込めて言った。

 Meyer さんの主治医らは原因について意見の一致が得られなかった。ある医師は彼女の慢性的な咳は気管支喘息によるものだとした。別の一人は彼女の年齢(当時71歳)が関係していると考えた。 三人目の医師は胃酸の逆流が原因であるとした。

 その後、ある新たな生徒の母親が彼女の症状や病歴を詳しく調べて初めてその原因が明らかになった。その介入によって Meyer さんの命が救われた可能性がある。

 「彼女の関与がなかったらどうなっていただろうかとふと思うのです」と Meyer さんは言う。

 

Cancer threat がんの脅威

 

 映画『Dreamgirls(ドリームガールズ)』や『Ghostbusters(ゴーストバスターズ)』のサウンドトラック、Kirov Ballety(キーロフ・バレエ)や Tony Bennett(トニー・ベネット)との共演など、200以上の著名なパフォーマンスに関わってきたこのベテランのセッション・ミュージシャンは、何十年もの間、家族につきまとってきた病気を心配していた。

 Meyer さんの母親は卵巣がんで45歳で亡くなった。彼女の母方の祖母は乳がんで亡くなったがまだ35歳だった。Meyer さん自身は遺伝性の乳がんや卵巣がんを引き起こすBRCA遺伝子変異が検査で陰性だったので彼女の恐怖心は薄らいだが、全く消えたわけではなかったという。

 彼女の健康、体調維持、食事管理は優先事項だった。高カロリー低栄養のジャンクフードには手をつけず、1日最低3マイルは歩く菜食主義者の Meyer さんは、自身がコレステロール値と血圧値が低いことを誇りに思っていた。「7階までならエレベーターに乗ることなく階段を歩いて上るでしょう」と彼女は言う。

 そのため、2023年の春、カゼや他の呼吸器感染症の前兆がないまま、時々喘鳴を伴う乾いた咳がみられるようになった時、それはやがて治るものだと彼女は思っていた。

 

Constance Meyer さん(James Spottiswoode〔ジェームズ・スポティスウッド〕さん提供)

 

 しかしそれどころか症状はむしろ悪化した。

 約3ヵ月後、Meyer さんは長年かかっている内科医を受診、胸部X線検査を受けたが、異常はなかった。 『あなたの症状の原因となるような肺炎、瘢痕病変、あるいは他の病気の所見はない』と主治医は記載した。

 医師はマイヤーが喘息性気管支炎かもしれないと考えたが、彼女は気道の炎症と狭窄に起因する慢性肺疾患である気管支喘息と診断されたことはなかった。

 Meyer さんは、炎症を抑える経口コルチコステロイドである prednisone(プレドニゾン)と吸入薬を処方された。薬は効いたように見えたが、ほんの一時的だった。

 「咳は本当にひどくなりました」そう Meyer さんは振り返る。「夫は頭がおかしくなりそうでした」。彼もまた懐疑的だった。「彼は喘息持ちなので『これは喘息ではない』と言いました」。

 しかし、今となっては Meyer さんも説明するのがむずかしい理由から、時には咳がひどくて身をよじらせることがあっても再び治療を受けるまで9ヵ月が経過した。

 「私は他人の問題についてはキーキー言うけれど、自分のことについては違うのです」と Meyer さんは言う。「ある晩、友人を夕食に招いたのですが、私が異常に咳き込んでいたら、彼は『あなたのことが本当に心配だ』って言ってくれました」。

 父親が医師だった Meyer さんは、咳には付き合っていくしかないと思っていたという。それ以外の体調は良く指導を休んだ日はなかった。症状を和らげるために処方された薬を飲み、蜂蜜入りの紅茶を何杯も飲み、徳用袋に入った咳止めドロップを舐めた。

 

A trio of referrals 3人の専門医への紹介

 

 2024年3月、Meyer さんは主治医を変え、老年医学を専門とする内科医に診てもらうようになった。Meyerさんによると診察の間ずっと咳き込み、時々息切れがあることをその新たな医師に告げたという。その医師は心臓およびその弁を通過する血流を観察する超音波検査、すなわち標準的な心エコー検査を施行した。

 その老年医学専門医は Meyer さんに、エコーは“とても素晴らしく”、異常は見つからなかったと告げた。 彼女は Meyer さんに、もし症状が改善しないようならまた受診するよう助言した。

 しかし Meyer さんが6月に再受診したときその内科医は休暇中だった。代理の医師は Meyer さんを耳鼻咽喉科医と呼吸器専門医に紹介した。

 さらに、Meyer さんが自身のカルテにある事実、すなわち心臓病の家族歴についてなにげなく話したため、その医師は彼女に心臓専門医を受診するよう勧めた。Meyer さんの父親は3回の心臓発作のうちの1回目を58歳の時に起こしており、祖父は2人とも心臓病で亡くなっていて、1人は61歳の時だった。

 Meyer さんは最初に呼吸器専門医を受診したがコロナウイルスから回復したところだったためオンラインで受診した。

 「彼は彼女の1年にわたる咳に対してできることはすべてすると約束してくれました」と Meyer さんは振り返る。

 その呼吸器専門医は肺機能検査を依頼したが正常だった。しかし胸部CT検査では異常がみられた。それにより軽度の間質性肺疾患の可能性があることが示された。これは肺の瘢痕化と空咳を引き起こす進行性の疾患である。そして気管支喘息の処方にさらに2つの吸入薬を追加した。

 Meyer さんのCT検査では、さらに中程度の冠動脈の石灰化も明らかとなった。これは70歳以上の人によく見られる所見で、心臓病の危険因子となっている。彼女はコレステロールを下げて心筋梗塞や脳卒中のリスクを減らす statin(スタチン)という薬の服用を始めた。

 呼吸器専門医の数週間後に Meyer さんが受診した耳鼻咽喉科医は新たな点に注目した。彼女は胃酸の逆流が Meyer さんの咳の原因になっているのではないかと疑った。彼女は2種類の制酸薬を加え、酸度の低い食事を勧め、胃酸の逆流を抑えるために頭を高くして寝るよう Meyer さんに言った。

 “とんでもなく従順な患者”と自称する Meyer さんは、言われたことはすべてやったという。しかし咳は改善しなかった。

 

A pivotal encounter 重要な出会い

 

 Megan Y. Kamath(メーガン・Y・カマス)さんは2024年の夏、彼女の5歳の娘がヴァイオリンのレッスンを始めたときに Meyer さんと出会った。

 UCLA David Geffen School of Medicine(UCLA デービッド・ゲフェン医科大学の内科臨床助教授の Kamathさんは、「彼女はとても親しみやすく私が慕っていたヴァイオリンの先生を思い出させました」と振り返る。「私は彼女にそんな魅力を感じたのです」。

 Meyer さんの空咳は無視できないものだった。進行心不全および移植心臓病学専門医である Kamath さんは、このヴァイオリン教師が部屋を歩く時には咳き込むが、座っているときには咳き込まないことに気づいた。

 医療以外の場で知人に対して医学的な質問をしないという長年の個人的なルールを破って、Kamathさんは Meyer さんにいくつかの質問をし、この問題についてさらに話し合うために電話をかけることにした。

 この支援に感謝した Meyer さんは、今や16ヶ月目に入った咳が非常に厄介であること、複数の専門医に診てもらっていること、そして翌月には University of California at Los Angeles(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の心臓専門医への受診予約を取っていることを Kamath さんに伝えた。

 「その予定を前倒ししたいんだけどいいですか?」と尋ねたことを Kamath さんは覚えていて「これはもっと早く検討される必要があると思います」と話したという。

 Kamath さんは、Meyer さんの咳は喘息や肺の病気からくるものではなく心臓に起因する咳であり、重篤な心臓病の兆候ではないかという疑念が彼女の心配に拍車をかけていると話した。Meyer さんのCT検査と家族歴は彼女が危険な状態にあることを示唆していた。

 Kamath さんが同僚に相談したところ、Meyer さんをすぐに診てくれることになった。その心臓専門医は、トレッドミルの上を歩いたり走ったりしながら行う負荷心エコー検査を施行した。これは通常の心エコー検査とは異なり、運動中に心臓がどのように機能しているかを評価するものである。

 Meyer さんは異常がみられたためその検査は早期に中止された。レッスンの最中に心臓専門医から結果を知らせる電話があり baby aspirin(小児用アスピリン)を開始するとともに、スタチンの量を2倍に増やし、冠動脈の詳細な画像が得られる画像検査であるCT冠動脈造影検査を受けるように言われた。

 「ちょっとショックでした」と Meyer さんは言う。「まさか自分に心臓の病気があるとは思いませんでした。私はずっとがんになるのではないかと不安な気持ちでいたのです」。

 血管造影検査の結果、心臓への血液の約半分を供給している Meyer さんの left anterior descending artery(LAD、左前下行動脈〔枝〕)が推定で 90〜99パーセントの高度狭窄を起こしていることが判明した。 他の動脈には異常はなかった。

 LADの高度の狭窄は、その致死率の高さから "widowmaker(寡婦をつくるもの=男性を死に至らしめる危険なもの)"として知られる心臓発作を引き起こすことがある。病院あるいはそれに準じる施設の外で発生した widowmaker の生存率はわずか約12%である。そして、その名前をよそに widowmaker は女性にも発症する。

 動脈閉塞(狭窄)の最も一般的な症状のひとつは狭心症あるいは胸痛である。しかし Meyer さんにはそれらはみられなかった。

 「彼女の空咳は狭心症に相当する症状でした」と Kamath さんは言う。「Constance さんはカチカチ動く時限爆弾だったのです。彼女は突然倒れて死んでいた可能性がありました」

 Meyer さんには angioplasty(血管形成術)の予定が組まれた。これは狭窄した動脈を拡張し stent(ステント)と呼ばれる小さな金属製のコイルを中に入れて動脈の内腔を開いた状態に保つ手術である。9月17日の手術の前夜、Kamath さんは彼女の幸運を祈りアドバイスをするために電話をかけた:もし Meyer さんの咳がひどくなったり、胸痛など何らかの症状が出たら、ただちにERに行くようにと伝えた。

 「彼女が私に3回繰り返し話したことを覚えています」と Meyer さんは言う。

 必ずそうすると Meyer さんは Kamath さんに断言した。40年前、親戚が予定されていた心臓手術の前夜にニューヨークの病院で重度の心臓発作で亡くなっていた。

 外来でのステント処置で、例の動脈に 85パーセントの狭窄が見つかった。医師らは、Meyer さんの心機能については正常であると結論づけた。彼女にはうっ血性心不全の徴候はみられなかった。うっ血性心不全は心臓のポンプ機能が低下したときに起こる、一般的で慢性的な、そして通常は不可逆的な病態である。

 手術から数時間後、Meyer さんと彼女の夫が車で家に帰る途中、自分が一度も咳をしていないことに気づいた。また咳の再発もみられなかった;その後のCTスキャンでも肺疾患の所見は認められなかった。

 複数の医師が心臓の疾患を疑わなかったのはなぜか?

 「女性は、男性が訴える腕のしびれ、胸痛、象が胸の上に乗っかってる感覚などとはまったく異なる症状を示すことがあります」と Kamath さんは言う。

 また、そういった彼女らの症状は「無視され、あるいは調べられることさえない」ことがあまりに多いと彼女は付け加える。

 その心臓専門医によれば、医師たちが時間的な制約がある中で働いていることも一因かもしれないという。

 「これが心臓由来だと考えるようになるまでしばらく彼女としばらく膝を交えて話し合う必要がありました」と Kamath さんは言う。「予約の時間が10分しかない人だったら、今回のようにはなっていなかったかもしれません」。

 Anchoring bias(アンカリング・バイアス)とは、医療ミスの一般的な原因となっていて、医師がプロセスの初期にその後のデータを考慮することなく単一の情報に焦点を合わせてしまうことだが、これが一役買っていた可能性がある。

 「多くの場合、医師はある特定の診断経路に集中してしまうのです」と Kamath さんは指摘する。

 さらに、不可欠な臨床的手段である綿密な観察を妨げる telemedicine(遠隔医療)が関連している可能性がある。あの呼吸器専門医は Meyer さんを直接診察していなかった。すべての診察はネットワーク上で行われていたのである。

 Kamath さんによると、彼女は患者に 「良い理学的検査に代わるものはありません。だから皆さんには来ていただかないといけないのです」と話しているという。

 医師から伝えらえたことを疑うことなく受け入れていたことも Meyer さんには不利に働いていたようである。

 「彼女は物事を最小限に評価していたと思います」と Kamath さんは言う。「私は患者が自分のケアに積極的になるよう勧めるようにしており、Constance さんにもそのことを強調しました」

 Meyer さんによると、彼女は自身の体験に衝撃を受けたという。彼女は、男性の病気だと考えていた心臓病のリスクが自分にあることを知らなかったと話す。そして、自分からそれを提起するまで医師らが彼女の家族歴のその側面に焦点を当てなかったことにいまだに驚きを隠せないでいる。

 その結果、Meyer さんは人生の他の局面と同じように医療に際しても自己主張をするように心がけているという。

 ステント留置術から1ヶ月後の10月、彼女は、咳が胃酸逆流によるものであるとした耳鼻咽喉科医に予約している受診に行くべきかどうかで悩んでいた。

 受診予約を中止することで「彼女の気分を害したくなかったのです」と Meyer さんは言う。 「夫はそんなの全く馬鹿げていると言いました。だからキャンセルしました」。

 

 

 

医学的には咳の持続期間が

3週間以上8週間未満であれば遷延性咳嗽、

8週間以上続く場合を慢性咳嗽と呼ぶ。

また痰を伴う咳を湿性咳嗽、

痰が絡まない咳を乾性咳嗽(空咳)と呼んでいる。

 

慢性咳嗽には以下の原因が挙げられている。

①咳喘息(気管支喘息と異なり喘鳴を伴わない)

②気管支喘息

③アトピー咳嗽(気管支のアレルギー性炎症による)

④慢性閉塞性肺疾患(COPD)

⑤感染後咳嗽(感染後の気道の過敏状態から)

⑥胃食道逆流症(GERD)(胃液の逆流で起こる)

⑦副鼻腔気管支症候群(上気道と下気道に炎症が起こる)

⑧心不全

⑨肺結核・非結核性抗酸菌症

⑩肺がん

⑪間質性肺炎

⑫気管支拡張症

⑬慢性気管支炎

⑭降圧薬(ACE阻害薬)の副作用

(上記のうち乾性咳嗽は①~⑤, ⑪, ⑭でみられる)

 

慢性心不全で肺のうっ血を来たし咳が引き起こされることは

容易に想像できるが、

主症状が咳のみという場合、その原因疾患として

狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患は想起されにくい。

今回のケースではおそらく運動時に心臓のポンプ機能が低下し

肺に血液がうっ滞することで症状が出現していたものとみられるが

定かではない。

 

治療抵抗性の長引く咳が単独でみられるのはまれかもしれないが、

それが心臓由来である可能性も頭の片隅に置いておく必要がある。

 

それにしてもステント治療を日帰りで行っているとは

さすが米国である。

 

 

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