痒みの原因はヒスタミン、とかいうレベルの話ではなく、
これはずっと根本的な発見らしい。
神経に痒みの信号を送らせる分子が特定されたそうである。
Scientists Discover 'Itch' Molecule 科学者たちが“痒み”の分子を発見
痒みの原因が科学者たちによって発見された
By SYDNEY LUPKIN
科学者たちは痒みの発生に関与する物質を発見したが、それでただちにリストから問題が“掻把”されることにはならない。
National Institutes of Health(国立衛生研究所)の研究者らはマウスの痒みの分子を同定し、この分子を阻害する薬を用いることで、痒み刺激(皮膚刺激物質や痒みを起こすことが知られている抗マラリア薬=クロロキン)が与えられてもマウスは掻かなかった。
「痒みはありふれた問題であり、実に多くの患者にとって深刻です」と、NYU Langone Medical Center(ニューヨーク大学ランゴン医療センター)の皮膚科学教授 Jennifer Stein 博士は言う。「人では鎮痛薬の選択肢は非常に多く様々ありますが、痒みに対する治療はきわめて限られているのが現状です」
ほとんどの人たちは痒みから虫刺されやアレルギーを連想するが、たとえば甲状腺疾患やリンパ腫のまれな例など他の疾病によっても引き起こされると Stein 氏は言う。
抗ヒスタミン薬はしばしば痒みを止めるのに用いられるが、すべての痒みに効くわけではない。さらに、もし患者が掻き始めたら、しばしば痒みはさらに増悪し、悪循環に突入する。
件の分子はb型ナトリウム利尿ポリペプチド(natriuretic polypeptide b, Nppb)と呼ばれるもので、脊髄内の神経細胞に“はまり込む”ことで作用し、信号を中枢神経系の他の部位に送り、遅れて脳内で痒みとして認識される。この研究は5月24日に Science 誌に発表された。
「Nppb 欠損マウスを、痒みを誘発するいくつかの物質に曝露したところ驚くべきことが観察されたのです」と同研究の筆頭著者であるSantosh Mishra 氏は言う。「何も起こらなかったのです。マウスは掻こうとしませんでした」
これは報告された初めての痒みの研究というわけではないが、それは掻痒感の創出に関連する複雑な一連のイベントの開始スイッチを示しているようである。
科学者たちはこれまでに、GRP(MrK註:gastrin-releasing peptide)と呼ばれる別の痒みの原因となる神経伝達物質を発見している。Mishra 氏らにはこの物質も該当することがわかっているが、NIH のプレス・リリースによると GRP は Nppb の後にそのプロセスに加わってくるのだという。
Nppb がヒトでも同じ機能を持っているかどうかはさらなる研究によって示されるのを待つしかないと指摘するのは Johns Hopkins School of Medicine の神経科学の教授で、痒みの専門家である Xinzhong Dong 氏である。
"Basically, they laid out a good foundation," Dong said. "Any medical research is still a long way to go to really come up with a workable drug to block this peptide and mitigate itch transmission."
「おおむね、彼らはすばらしい基礎事実を用意してくれました」と Dong 氏は言う。「このペプチドを阻害し、痒みの伝達を弱めるのに有用な薬剤が実際に見つけ出されるのは、いかなる医学研究にとってもまだまだ先の話です」
つまり、脳に痒いと感じさせる信号を発する分子である。
痒みのトリガーを与えると、
普通のマウスでは痒みを感じて掻き始めるところが
このB型ナトリウム利尿ペプチドの遺伝子が欠損したマウスでは
全く平気ということらしい。
この特殊なマウスは痛みや熱さの感覚には通常通り反応したという。
痒みの黒幕の存在を示唆する発見である。
とはいえ、齧歯類におけるこの発見が
果たして人間にも当てはまるかどうかは不明である。
ただし人間は齧歯類と似通った神経系を有しているため、
人間においても類似のメカニズムが成立している可能性は高い。
B型ナトリウム利尿ペプチドは心臓から分泌されるホルモンで
心不全患者で増加することが知られている。
体循環・体液調節に関わるこのホルモンが
痒み感覚の創生に関与している意味については
さらなる研究によって明らかにされるであろう。
将来的には、今回の発見が、
痒みに対する効果的で根本的な治療法の開発に
つながっていくものと期待される。
人間の身体、まだまだわからないことだらけである。
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