MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

ベル麻痺の苦悩

2011-10-10 14:58:13 | 健康・病気

リポーター Lonnae O’Neal Parker 女史による
顔面神経麻痺体験談である。

10月1日付 Washington Post 電子版

Bell’s palsy disables facial muscles of about 40,000 Americans each year 毎年アメリカ人4万人の顔面筋を麻痺させるベル麻痺
By Lonnae O’Neal Parker
 その朝、私が最初に気づいたのは唾を吐けないことだった。私は歯を磨いていたが、歯ブラシの周りの唇を閉じることができず、自分の口がきちんと動かないように感じた。
 奇妙なことだと私は思ったが、とりあえずそのことについて考えないようにした。ワシントン・ポストの仕事をしていて、ノースカロライナ州 Prince George 郡から Greensboro までの徹夜の運転で恐らくかなり疲れていたからだろうか。2、3日前のワイン2杯のせい?それともカゼ?何にしろ、私はそれに割く時間がないのは確かだった。
 私が記事を書いている二人の男性とアトランタに向かっていた。そして、ドライブの第2行程に入る前に朝食を軽く摂っていたとき、奇妙な顔の感覚が強くなった。右眼が痛みだし、突然の不安で背筋が寒くなった。
 私はレストランの外に出て車の窓ガラスに写る自分の姿を見たが、見たことを頭の中で処理することができなかった。私は顔の右側を動かすことができず、右目を閉じることができないために右眼が痛かったのだ。
 「顔がおかしいの」私は男性たちにぎこちなく話した。「アトランタに着いたら緊急室に行かなくっちゃ」しかし、彼らは今すぐ Greensboro で受診すべきと主張した。ありがたく彼らの指示に従った。
 「顔が麻痺していてまばたきができません。脳卒中かもしれません」私は Moses Cone Urgent Care Center の受付の人に話したが、すべてはあまりに非現実的に感じられた。私はまだ44才、しかも健康なのに!
 「脳卒中あるいはベル麻痺のいずれかでしょう」受付係はそう言い、救命士が私を奥に案内した。そこでベル麻痺であることが判明する。
 年間4万人とみられるアメリカ人が罹患するベル麻痺は第7脳神経(顔面神経)の急性炎症あるいは損傷に特徴づけられ、顔面の一側の筋を障害する。これによって、それらの筋肉の軽度の麻痺から、時には片方の顔が溶けたように見える状態となるほどの完全麻痺まで様々な程度の障害を起こし得る。笑ったりまばたきできなくなるのが古典的症状である。
 ベル麻痺の原因は不明であるが、ヘルペスウイルス、細菌感染、神経への圧を上昇させる顔面の不均衡などの説がある。糖尿病の患者や妊娠第3期にある女性では頻度が高い。
 ベル麻痺の患者の85%は、しばしば治療しなくても完全、もしくは完全に近い回復が得られる。しかし軽度から重度まで永続的な障害を残す患者が15%いる。そして通常神経が再生し始めるのにかかる期間である3ヶ月間はどちらのグループに属しているかはわからない。
 すぐにその女性救急医は、神経の腫脹を軽減させるために高用量のステロイドを10日間分処方した。また、彼女は私の瞬きできない右目にパッチを当てた。これはもしカバーしなければ角膜に傷がつき永続的障害を残してしまう可能性があったからだ。私は口をすぼめたり十分に咬むことができず、睫毛までもが頬の方に垂れさがっていた(私にセサミストリートのキャラクター Mr. Snuffleupagus【スナッフィー】を思い起こさせた)が、私の顔は目に見えるほど垂れ下がっていたわけではなかった。ただ、欠かさず貼っていなければならなかった目のパッチは衝撃的だった。目は常に痛んだので、軟膏で目を満たし続け、毎晩遮蔽した。

The novelty wears off 目新しいことはなくなってゆく

 数日間は目新しいことが私に訪れていた。私のPOV(考え方)は劇的に変化していた。人はみな、そのパッチに対して好奇心や同情を持って反応した。友人、同僚、タクシーの運転手らは皆、自分たちの知っている人の話を伝えようとした。例えば、結婚を間近に控えた若い男性教師の顔が突然垂れ下がったことなど。さらに小さな子供たちはじっと見たが、私は気にしなかった。奇妙なやり方だが、自分の容姿について気にしないことが逆に心配を和らげることになっていた。それでもなんとか見苦しくないようにし、冷静さを取り戻していたが、目のパッチは、美しくあるいはセクシーであろうとする責務から私を解放してくれた。
 しかし、数日が週を越えくると毎朝を涙で迎えるようになった。ベル麻痺はわずか一晩で劇的に訪れたので恐らく同じようにある夜のうちに消え去るだろうと考えていた。そんな時、私は笑って、今日1日は麻痺が続くのだと覚悟するのだった。私は今の私自身と “以前の私” である Lonnae とを比べ、もはや元の彼女は戻ってこないのではないだろうかと思った。決して完全に顔が元にもどらない15%の中の1人に自分がなってしまうのではないかと思った。しかし数分後にはいつも涙を拭いて、新しい謎めいた中途半端なモナ・リザ・スマイルをする短い時間を鏡の中で過ごすのだった。(モナ・リザがベル麻痺だったのではないかという推測があることが知られているが、一度ベル麻痺にかかった人は、奇妙なスマイルをする人はみなそうなのではないかと思ってしまうだろう)
 「私たちの患者の90%がここにやってきますが、最も多い訴えは笑うことができないということです」と、Rockville にある National Rehabilitation Hospital (NRH) clinic の地域管理者 Jodi Barth 氏は言う。彼女は10年以上ベル麻痺患者に取り組んできた30年のキャリアを持つ理学療法士である。「それは悲惨です」彼女と同僚の Gincy Stezar 氏は一日にそれぞれ11人の患者を診るが、その80%はベル麻痺である。顔は個性や伝達を伝えるものであるため、患者の中には人目をひどく気にしながらやってきて、顔にスカーフを巻いたり、個室での診察を希望するものがいると Barth 氏は言う。
 Barth 氏によると、正確な原因は不明だが、彼女の患者の大多数はベル麻痺の発症前に“多大なストレス”を経験していたと訴えているという。ストレスにさらされている人は歯を食いしばり顎関節周囲の筋肉を過度に使用し、同領域の圧が上昇する、というが彼女の説である。私もまた、困難な個人的な問題や業務上の問題に取り組んでいて、顎の痛みで目が覚めたりしていたので、私についてはこの説明がぴったりだと感じた。

Cheers all around いたるところでの元気づけ

 私は、救急医、(ライム病を除外してくれた)かかりつけ医、そして神経内科医にかかったが、彼らは皆、同じことを言った:私は軽症だ、そして恐らく4から6週間で改善するだろう。そのことは私の気分を楽にした。しかし、それ以上に希望を与えてくれたのは、私とまさに同じような他の患者がいるNRHの待合室の中だった。家族や友人は素晴らしかったが、誰も私がどれほど孤独で不安かを十分に理解してはくれなかった。Barth 氏は初めて私を診察しこう言った。「あなたは立派になさっています」。私はほとんど感極まってしまっていた。
 NRH の広い治療室の中で、8年ぶりにろうそくを吹き消すことのできた女性や、12才の時にベル麻痺になったが6ヶ月前に吹けるようになった口笛をみせびらかしている15才を見た。そしてみんな明るかった。私たちは顔のしわやえくぼが再び現れたことや、眉毛が少しでも動くたびにそれに対して喝采を送った。損傷した顔面神経を再生させるために、Barth 氏のようなリハビリの専門家たちは、バイオフィードバック、マッサージ、あるいは機能する方の顔の半分ガイドとして用いて患者に顔をしかめる訓練(私のお気に入りは歯をむいてうなることだった)をさせる “ミラーブック” と呼ばれる器具などを使う様々な治療法を用いている。非対称性を補正したり、顔面の麻痺側に起こりうる(食べるときの瞬目など)不随意的な筋運動を抑えるためにボトックスを使う医師に患者を紹介することもある。
 Barth 氏のチームでは15年ないし20年間この病気で苦しんでいる患者でも顕著な回復が見られたと言う。しかし、回復の最も大きな初期の要因はステロイドであると彼女は言う。最近の研究もそれを支持している。
 「もし朝起きたとき顔のどこかに麻痺が見られたら医師のもとかただちに ER に行くことです」と、Barth 氏は言う。「24~48時間以内にステロイドを内服することが重要です。顔面神経の炎症であり、ステロイドには抗炎症作用があるからです」Bell’s Palsy Information Site によると、ベル麻痺の再発は全体の5~9%しか見られないという。私の神経内科医 Brian H. Avin 氏は、このことを同じところに二度落ちる雷に例えた。
 Northwest Washinton の Temple Sinai 礼拝堂の主唱者 Laura Croen 氏は3年前に彼女の息子と朝食をとっていたとき「自分の口がうまく動かない」ことに気がついた。息子は彼女の顔がおかしいと言った。「その夜私は目を閉じることができず、顔が全体に垂れ下がっていました」6週間後、彼女は Barth 氏と Stezar 氏のもとを受診することになった。
 彼女は集まった人々、祈りを唱える人たちの前に立ち続けることができるだろうかと思った。「私は本当に落ち込みました」と、彼女は言う。「私は奇怪なものであるように感じました」。現在、彼女の顔はいくらか非対称ではあるが、そのころとはまるで違っている。「私は未だに少しずつ変化をしています」と、Croen 氏は言う。そして彼女によると、治療の組み合わせたことで実際に彼女の声はよくなってきたと彼女の歌の指導者が言っているという。
 今回最初から、私はベル麻痺日記を続けており、病気の奇妙なできごとや上向いたこととかをすべて書き留めていた。5日目、私はぴくぴく鼻を動かすことができなかった。11日目、半瞬きをゆっくりすることはできた(自分の目が別々のタイマーでセットされているかのように動くのを見るのは実に奇妙である)。18日目、かすかな微笑に数本の歯を見せることはでき、睫毛の先端を巻き上がるようになった。ついにベル麻痺になってほぼ4週間となり、瞬きはほぼ回復、目のパッチもはずした。ほほ笑みは大きくなって、再発がなければとても良い状態だと思った。誰かが私の顔を十分近くで観察して何かに気付いてくれるということは恐らくとにかく私を愛してくれているってことなのだ。
 発症後何日かで私の顔は常に動くようになり、目は健側と連動してまばたきし始めていた。笑うとすべての歯が姿を現し始め、微笑みを投げ掛ける頻度も増した。2週間後に Barth、Stevar 両氏に会ったとき、私は以前の私自身に戻っていた。それはまさに私の担当医や医学文献が予測した通りだった。私はかなり典型的な回復を示した代表的ケースだったのだ。
 アトランタへの車の長旅からほぼ3ヶ月が経っていたが私はラッキーだった。それは単に、私がほぼ完全に回復した(とはいえ私の微笑はまだ少し曲がっているようにみえる)ということだけでなく、自分自身で学び、専門家と話すことができ、理解してくれる人たちのコミュニティーを見つけることができたからである。もし集中的なストレスが私のベル麻痺をもたらしていたのだとしたら、そんな人間のつながりがそれを治す助けとなっていたのは確かである。
 一方、私の学んだポイントはシンプルではあるが意味深い:身体に注意を払いなさい、そしてもしどこか調子が悪かったり、“疼いたり”するような直ちに助けを求めること、そして、もしひどくストレスを受けているなら、より良いやり方を見つけるべきだということを知ることだ。なぜなら緊急の兆候が時には皆さんの顔面に現れることがあるからである。

顔面神経麻痺の原因には脳卒中、脳腫瘍、外傷、
耳下腺腫瘍、ライム病、サルコイドーシスなどがあるが、
明らかな原因が確定されない場合、ベル麻痺と呼ばれる。
初めてこの疾患を報告したスコットランドの解剖学者、
チャールズ・ベルにちなんでこの名前がつけられた。
人口10万人に約23人の頻度で発症。
脳卒中(ただし脳幹梗塞を除く)では麻痺が
顔の下半分に生ずるのに対し、
ベル麻痺などの末梢性元年神経麻痺では
顔の半側全体に麻痺が認められるため区別できる。
Ⅰ型単純ヘルペスの関与も示唆されていたが、
抗ウイルス薬の大規模臨床試験では有効性が認められていない。
早期のステロイド治療が最も重要である。
顔面の麻痺というのは心理的にきわめて負担が大きいので、
本疾患の誘因と考えられている病前からのストレスとともに
精神的なサポートがきわめて重要と言えそうだ。

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