MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

ケンタッキーの青い人たち

2012-02-26 21:48:15 | 健康・病気

100年以上もの間、
ケンタッキー・アパラチア山脈の集落で
青い皮膚を示す形質が
代々受け継がれてきたのだという。

2月22日付 ABCNews.com

Fugates of Kentucky: Skin Bluer than Lake Louise ケンタッキーの Fugate 一家:ルイーズ湖より青い

Fugates02
後から色がつけられた撮影時期不明のこの白黒写真にはMartin Fugate とその家族が写っている

By SUSAN DONALDSON JAMES
 産科医はBenjamin “Benjy” Stacy の皮膚の色―Lake Luise(カナダにあるルイーズ湖)のように青かった―を見て大変驚き、1975年の誕生後まだ数時間のうちに University of Kentucky Medical Center に急いで移送された。
 輸血が準備されていたが、その赤ちゃんの祖母は医師たちに対して、彼は“Troublesome Creek の青い Fugate の人たち”と同じだと伝えた。親戚たちはその少年の曽祖母の Luna Fugate を、“全身が青く”、“今まで見た中で最も青い女性”だったと表現していた。
 遺伝学と地理学に関係した珍しい例だが、隔絶されたアパラチア地方の家族全員が青色を帯びていた。彼らの先祖の血統は6代前のフランス人孤児 Martin Fugate に始まっている。彼は東ケンタッキーに定住した。
 今日、この稀な血液疾患はあまり見られなくなっているが、それは山に住んでいた人たちが分散し、この家系の遺伝子プールが多様化したためである。
 しかし、この Fugate 一族の物語は、University of Kentucky's Lexington Medical Clinic の血液学者 Madison Cawein III の探偵のような行動力と近代の遺伝病学によって解決されたメディカル・ミステリーを知る手がかりを与えてくれる。
 Cawein 氏は1985年に死去したが、彼の手による家系図と血液サンプルは、もし両親が共に欠損遺伝子を持っている場合にのみ顕在化する劣性疾患のより明確な理解につながった。
 Fugate の6代目の孫にあたる Benjamin “Benjy” Stacy が 1975 年に生まれたとき産科医は非常に驚いて、彼を University of Kentucky Medical Center に急送した。
 輸血が準備されたとき、Benji の祖母は医師たちに対して、彼は“Troublesome Creek の青い Fugate 一族”と同じ様であることを伝えた。親戚たちはその少年の曽祖母の Luna Fugate を、“全身が青く”、“これまで見た中で最も青い女性”であると表現した。
 最も詳細な記述“Blue People of Troublesome Creek”は University of Indiana の Cathy Trost によって1982年に発表された。彼女は Benjy の皮膚を“ほとんど紫色だった”と表現している。
 Fugate の子孫には methemoglobinemia(メトヘモグロビン血症)と呼ばれる遺伝的疾患があった。本疾患が劣性遺伝子を通じて受け継がれていて、血族結婚によって発症していたのである。
 「これは興味深い話です」と、Minnesota の Mayo Clinic の血液学者 Ayalew Tefferi 医師は言う。「この話は疾病と社会の交点を例示するものであり、誤った情報に基づいた汚名着せが生ずる危険性を表わしています」
 National Institutes for Health によると、メトヘモグロビン血症は、ヘモグロビンの1つの型であるメトヘモグロビンが異常に産生される血液疾患である。ヘモグロビンは酸素を身体に運搬する働きがあり、酸素がなければ、心や脳や筋肉は死んでしまう。
 メトヘモグロビン血症では、ヘモグロビンが酸素を運搬できず、正常なヘモグロビンも酸素を有効に身体の組織に遊離することが困難となる。Tefferi 氏によると、患者の唇は紫色となり、皮膚は青く見え、血液は、酸素化されていないために“チョコレート色”になるという。
 「今日では、ほとんど患者を見ることはありません」と彼は言う。「それは、医学部で学ぶ病気であり、あまりにも稀なため血液学の通常の検査では調べられることはありません」
 本疾患は Fugate 一族の例の様に遺伝する例もあるが、ベンゾカインやキシロカインといった麻酔薬など特定の薬剤や化学物質への曝露でも起こりうる。癌原性物質のベンゼンや、肉の混和剤として用いられる亜硝酸塩のほか、ダプソンやクロロキンなどの一部の抗生物質なども原因となる。
 Tefferi 氏によると、メトヘモグロビン血症の遺伝性のタイプは、いくつかの遺伝子欠損の一つで引き起こされるという。Fugate 一族は恐らく cytochrome-b5 methemoglobin reductase(シトクロム-b5 メトヘモグロビン還元酵素)という酵素の欠損があり、これが劣性遺伝性先天性メトヘモグロビン血症の原因となっている。
 酸化されることで変化し、そのため血中で酸素を運ぶのに役に立たないタイプのヘモグロビンであるメトヘモグロビンは、正常ではおよそ1%未満である。この濃度が20%を越えて上昇すると、心の異常やけいれん、さらには死に至ることがある。
 しかし、10%から20%の間のレベルであれば、他の症状はなく青い皮膚を呈するだけとなる。青い Fugate 一族の大部分は何ら健康への影響を受けることなく、80才代から90才代まで生きることができた。
 「もし1%から10%の間であれば、異常値であることを気付かれることはなく、その場合、多くの疑われることのない患者の一人となっている可能性があります」と彼は言う。
 鎌状赤血球性貧血、Tay Sachs 病、嚢胞性線維症など他の多くの劣性遺伝性疾患は致死的となることもあると彼は指摘する。「もし、私が稀な異常に関連する悪い劣性遺伝子を持ちながら結婚したとしても、子供はおそらく病気にはならないでしょう。なぜなら、(同じ)悪い遺伝子を持つ配偶者に遭遇することはきわめて稀だからであり、それゆえ、その最もよく見られる原因は近親交配ということになるのです」
 Fugate 一族のケースがそれである。
 Martin Fugate は1820年に Troublesome Creek にやってきたが、一族の伝承によると彼は青かったそうである。彼は Elizabeth Smith と結婚したが、彼女もまた劣性遺伝子を持っていた。彼らの7人の子供たちのうち、4人が青かったと伝えられている。
 地域の外に向かう鉄道はなく道路もほとんどなかったため、その集落は孤立し小さいままだった。Fugate の人々は、Coms、Smith、Ritchie、Stacy と名乗る近隣に住むFugate のいとこや親族と結婚した。

Fugates01

 Benjy の父親 Alva Stacy は Trost 氏に家系図を見せこう言ったという。「お気づきでしょうが、私は自分自身と親戚なのです」
 Martin と Elizabeth の Fugate 夫妻の間に生まれた青い少年たちの一人 Zachariah は母親の妹と結婚した。その息子の一人 Levy は Ritchie 家の娘と結婚し8人の子供をもうけたが、その一人が Luna である。Luna は John E. Stacy と結婚、13人の子供ができた。Benjy はこの Stacy 家の子孫である。

Modern Fugates Still in Kentucky ケンタッキーに今も続く近代の Fugates 一族

 ABCNews.com は、Benjamin Stacy がまだ健在かどうかを確かめることはできなかった。生きていれば現在37才となっているはずである。彼は結局皮膚の青みは消えたと Trost は書いているが、それでも子供のころは、怒ったり冷たくなると唇や手の爪は青くなっていた。彼の母親で現在56才になる Hilda Stacy はケンタッキー州 Hazard で生存中のようだが、自宅にかけた電話には応答しなかった。他の親族はヴァージニア州やアーカンソー州一帯に分散している。
 この家族について科学者たちが知り得たことのほとんどは、ケンタッキーの桂冠詩人(Madison Cawein)の孫である Cawein によって発見された。彼はパーキンソン病の治療として L-dopa の先駆的研究を行った人物である。
 1965年の後半、彼は別の理由で有名となった。彼の妻が薬物中毒で殺害されたのである。しかし、この事件では誰も起訴されていない。
 Trost の記録によると、Cawein は Lexington clinic で働いているときに Fugate 一族の噂を聞き、“丘を歩き回り青い人々を探し”始めたという。
 Hazard の町にある American Heart Association clinic で、Cawein は Ruth Pendergrass という看護師と出会った。彼女は手伝いを買って出た。彼女は、あるひどく寒い午後、血液検査のために郡の保健所を訪れていた紺青色の女性を覚えていた。
 「彼女の顔と指の爪の色はほとんどインディゴ・ブルー(藍色)でした」と彼女は Trost に語った。「それには死ぬほど驚きました。彼女は心臓発作でも起こしているように見えたからです。そんな患者はそのまま保健所のその場で死んでしまうものだと思ったのですが、彼女自身は全く心配していませんでした。自分の家族は Ball Creek に住んでいる青い Combs 家だと私に言いました。彼女は Fugate 家の女性の一人と姉妹だったのです」
さらに親族が見つかった。Luke Combs、そして Patrick と Rachel Ritchie である。彼らは“実に青く”、自分たちの皮膚の色を恥ずかしがっていた。
 Cawein と Pendergrass は質問を開始した。「皮膚の青い親戚がいますか?」、そして家系図を作り、血液サンプルを採取した。
 この医師はメトヘモグロビン血症を疑い、1960 年に Journal of Clinical Investigation に報告した。Anchorage(アンカレッジ)にある Arctic Research Center の公衆衛生局で働いていた E.M. Scott 医師は皮膚が青色に変化する劣性遺伝形質をアラスカ人の中に認めていた。
 それは、何世代にもわたって受け継がれてきた近親交配系の存在を示唆していた。その病気になるためには、両親のそれぞれから1つずつ、2つの遺伝子を受け継がなければならない。両親がその形質を持っている場合、彼らの子供がその病気となる確率は25%である。
 Scott はそれらの人では赤血球中の diaphorase という酵素が欠損しているものと推測した。正常では diaphorase はメトヘモグロビンをヘモグロビンに戻す作用がある。
 彼が検査した 青い Fugate 一族のすべての人がこの酵素の欠損を持っていた。それは Scott が観察したアラスカ人とまさに同じだったのである。
 彼らの血液は非常に多くの青い分子を蓄積していたため、正常ならほとんどの白色人種で皮膚をピンク色にする赤いヘモグロビンを凌駕していた。
 一族のうち最も青かったのは Luna だったが、彼女は健康な生活を送り、84才で死亡するまで13人の子供をもうけた。1912年に石炭鉱業がケンタッキーに入ってきて、Fugate 一族が Troublesome Creek の外に移動するようになると、青い人たちは姿を消し始めた。
 Benjy は恐らくメトヘモグロビン血症の遺伝子を1つだけ持っていただろうと医師は言う。というのも彼は結局正常の皮膚の色調となったからである。彼が同じ劣性遺伝子を持つ女性と結婚した可能性は低かったであろう。
 この疾患についての報告がメディアに登場すると、Stacy 一族はアパラチアの僻地の既成観念を形成させることになった近親交配についてのほのめかしに動揺した。
 「臨床検査ではわからない苦悩がある」と Trost は書いている。「それはほとんどが黒か白かの世界において青い存在であることの苦悩なのである」

メトヘモグロビンはヘモグロビンに配位されている
2価の鉄イオンが酸化されて3価となっているものである。
この状態のヘモグロビンは酸素の結合や運搬能力が
失われる。
本稿にあった遺伝性メトヘモグロビン血症は
常染色体劣性遺伝疾患であり、
メトヘモグロビンをヘモグロビンに還元する酵素、
NADH依存性シトクロムb5 還元酵素(ジアフォラーゼ)の
欠損によると考えられているが、きわめて稀である。
また異常ヘモグロビンを原因とするMヘモグロビン血症でも
メトヘモグロビン血症を来たす。
臨床上問題になるのは後天性で
虚血性心疾患治療薬イソソルビドや局所麻酔薬、
解熱鎮痛薬フェナセチンなどの医薬品の副作用や
さらにはベンゼンや硝酸性窒素などの環境物質への
曝露などが原因となる。
特に地下水などに含まれる硝酸性窒素の摂取により
重大な集団発生を招いた事案が報告されている
(特に乳児)。
メトヘモグロビンが15%以上になると
チアノーゼ(唇や指先が紫色になること)を生じ、
40%以上では呼吸困難や意識障害が出現、
70%以上では死亡する。
遺伝性の場合には
硝酸を含む食物の摂取を制限する以外に対処法はない。
急性期の治療には3価の鉄を2価に還元する作用のある
メチレンブルーを投与する。
青くなった患者に青い物質を注射するとは
意外な治療法である。
患者数はきわめて少ないと思われるが、
“ デスラー総統 ” や “ アバター ” を思わせるような
皮膚の色を持ち、
それによって苦しんでいる人たちがいることを
忘れてはならない。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ねぇ、ど~して…涙が出ちゃう... | トップ | 2012年4月新ドラマ »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

健康・病気」カテゴリの最新記事