MrKのぼやき

煩悩を解脱した前期高齢者男のぼやき

息のできない病気

2012-07-27 13:55:02 | 健康・病気

Shuster さんとおっしゃる
フリーライターご自身の息子さんの医療体験談である。

7月24日付 Washington Post 電子版

Long-ago asthma diagnosis didn’t explain boy’s difficulty breathing 昔の喘息の診断では少年の呼吸困難を説明できなかった
By Janice Lynch Schuster,

Boysdifficultybreathing
 それは、5月上旬のことで、11才未満の少年がサッカーの試合をするには蒸し暑い金曜日の夜だった。10才の私の息子が呼吸困難を起こし競技場で倒れた。コーチは他の子の吸入器をつかみ、それを Ian に吸わせた。(通常量の2吸入ではなく)6吸入すると、彼は正常の呼吸に戻り立ち上がることができた。
 私はその試合には居合わせなかったのでそのできごとを夫から聞いた。夫は最も劇的な場面にあっても落ち着いていた。「ああ、そうだった」私たちが床に就こうとしていたとき、その夜のことを彼は話した。「試合中に Ian が喘息発作を起こしたんだが、大丈夫だったよ」そのぎょっとする話の全貌をコーチから聞いたのはずっと後になってからだった。
 数年前、上気道感染の後 Ian は気管支喘息の診断を受けたことがある。数ヶ月の間、彼は時折吸入器を使ったが、その後発作は治まり、そのうち吸入器を持ち歩くこともやめた。今回、残念なことに、再び喘息の診断を受けるに至った。
 土曜日の朝、私たちは彼を小児科の診療室の上級看護師の元へ連れて行った。彼女はスポーツ誘発性気管支けいれんと診断し、Ian に吸入器を使わせる(練習や試合の前に2吸入)ことにするとともに、彼が起こしている可能性のあるアレルギーに対処するために抗ヒスタミン薬を用いた。彼女はそれが何か深刻な疾患であるとは思っていなかった。毎日何百万の子供や大人が抱えている状況のように思われた。
 そのため水曜日の夜に起こったことに対して心の準備ができていなかった。Ian はその日何事もなくサッカーをした。彼が夜遅くまで私のラップトップで“ The Miracle ”を見ていた時、私はソファーの上でうたた寝をしていた。夜10時30分ころ(就寝時間をかなり過ぎていたが、夫は市外に出ていたので私たちはゆっくり過ごしていた)、Ian が私を起こした。
 「息ができない」と、彼は喉を押さえながら言った。「息ができない」
 私は吸入器をつかみ、処方通り2回の吸入を行った。しかし改善しない。さらに2吸入。彼は涙で頬をつ濡らしながら小さな声で言った。「息ができない」囁くことができたという事実は彼が呼吸できていたことを示していた。しかし、彼の唇は青色に変わっていた。私は911に電話した。

To the hospital  病院へ

 数分のうちに救急救命士らは家にやってきた。彼らは酸素を投与、ネブライザーを開始し、ストレッチャーの上に彼を固定し、私たちを病院に急送した。病院では、医師が彼の肺音を注意深く聴いたが喘息発作に特徴的な音である明らかな喘鳴は聴かれなかった。しかし、彼の他の症状から、彼が喘息発作を起こし、パニック状態がその症状を悪化させていることを示しているように思われた。そこの ER の医師は大量のステロイドの内服薬と別のネブライザーを処方した。
 その後 Ian の肺音を聴いた二人目の医師は、依然として呼吸困難があり喉が詰まった感じがして胸が苦しいという彼の訴えを聞いた。胸部レントゲン写真では肺はきれいだった。その医師は Ian に少し不安がみられることに気付き、それが呼吸困難の一因となっていると言った。そこで彼を落ち着かせるために抗不安薬を0.5mg 投与した。午前4時ころ、彼らは私たちを自宅に帰した。
 木曜日、Ian には学校を休ませ、かかりつけの小児科医を受診した。正午ごろ、彼が水を一杯飲んだあと、再び息ができないと訴え始めた。2吸入行ったが軽快しなかった。そこで再び911に電話した。
 救急隊が到着するまでには Ian は過呼吸となっていて、手足がしびれていた。ER では別の医師が彼を診察し、喘息発作を起こしていたようにはないと判断した。彼女によれば、恐らく不安発作であり、私がやらなければならないことは彼を落ち着かせることであり、911に電話することではないということだった。彼の頸部の軟部組織レントゲン撮影では気道の閉塞はなく、構造的な異常も見られなかった。
 その後の数日間、私たちは ER を訪れては帰っていた。その都度 Ian の肺はきれいであり、喘息の形跡は見られなかった。医師たちは当惑し、私たちは怯えていた。
 この間、私は 地域の喘息の専門医への受診予約を行った。彼は Ian に対して管に息を吹き込んで仮想のろうそくを吹き消すなどの検査を行った。その機械で彼が息を吸うときと吐くときの肺機能を測定した。Ian の病歴を集めているうちに、その喘息専門医は胃酸の逆流のことを問題視した。そして Ian が幼児にしてはひどい胃酸の逆流に苦しんでいた事実と、一年以上も Prilosec(胃酸の分泌を抑制する制酸剤)を内服していたことを私は話した。
 「ご承知のように彼には喘息の症状がありません。喘鳴も咳もありません。肺もきれいです」とその専門医は言った。「彼には胃酸の逆流によって引き起こされた喉頭けいれんがあるのだと思います。それで彼の症状のすべてが説明できます」彼は Ian のかかりつけの小児科医とこの点について話し合うことを勧め、その日のうちにそこを受診した。その小児科医も喘息専門医の意見に賛成し、Ian を胃酸逆流として治療することを考慮するが、治療は効果を発揮するまでに少し時間がかかるだろうと言った。
 そしてまさにその翌朝、私たちは再び ER に行き、さらに別の医師にその病歴を説明した。この医師は Ian の胸や肺音ではなく喉の音を聴診した。そしてそこで喘鳴が聴取されたのである。

‘This isn’t asthma!’  『これは喘息ではない!』

 「これは喘息ではありません」と彼は言った。「これは奇異性声帯運動( paradoxical vocal cord motion: PVCM )と呼ばれるものです」そこでは脳から声帯に混乱した信号が送られる。Ian が息を吸う時に声帯が開かずにピタッと閉じてしまっていた。そのため、彼の喉には息苦しさと閉塞感が生じていた。その医師はただちに耳鼻咽喉科の専門医に電話をかけた。その専門医はその日の午前中に Ian を診察することに応じた。
 私たちは診察室で3時間待ったが、その間も Ian は呼吸の発作を起こし続けていた。
 その耳鼻咽喉科医が私たちを診るとすぐに、Ian の鼻から内視鏡を入れた。彼が投与した少量の麻酔薬で喉頭けいれんが誘発され、それが内視鏡のカメラで捉えられた。果たして実際に Ian が息を吸うとき声帯がピタッと閉じそのままになっていた。やはりPVCM だったのだ。
 その耳鼻咽喉科医は彼を落ち着かせ、呼吸ができること、大丈夫であることを伝え安心させた。
 その耳鼻咽喉科医の説明によると、この疾患の原因は明らかではないが、時に、運動や環境刺激因子だけでなく、ストレスや不安がそれを増悪させるという。私は、Ian がバスクラリネットを演奏していることが彼の症状を引き起こすのに関係があるかどうか尋ねた。Ian がやがて正常な活動を取り戻せたならその間はバスクラリネットの演奏は差し控えるべきだろうとその医師は言った。
 私たちがその翌日から開始した治療プランには、Ian の症状にうまく対処できるよう呼吸テクニックを教えてくれる言語療法士と連携することが含まれていた。私たちの最初のミーティングで、彼女は、声帯を滑らかに空気が通過できるようゆったりとした規則正しい呼吸をするために横隔膜で呼吸することを身につけることがいかに重要かを彼に説明した。さらに彼女はけいれんがいつ起こっても大丈夫であると考えるよう再認識させた。私に対しては、この病気は多少謎めいているけれども稀ではないことを彼女は教えてくれた。実際、一見喘息と思われる症状に対して行われた治療に反応しない人を PVCM と診断すべきであると指摘する研究者もいる。
 Ian に勝算はある。適正な支援と配慮によって当たり前の笑いと快活な自分を取り戻してきたように思われた。けいれんが起こった時には、深呼吸運動を行い、耳鼻咽喉科医と言語療法士の安心の声を心に描いた。
 私たちの2週間半の経験は、医療のプロフェッショナルたちがいかに思いやりがあり粘り強い存在となり得るか、また彼らが患者を楽にするためにどれほど一生懸命に働くか、そして患者の症状に思いもかけない答えを追求する医療の手腕がいかに難いものであるかを私に思い起こさせてくれたのである。

正常の喉頭では、声帯は吸気時に外転して声門を開き、
呼気時には内転し声門の開口部を一部閉じる。
この吸気時の声帯の外転は迷走神経に支配される。
奇異性声帯運動(PVCM)では、
呼吸時に声帯が内転し呼気時に外転する。
喘鳴が聴取されることからしばしば喘息と誤って診断される。
喘息に有効な吸入ステロイドが効果を示さないので
注意が必要である。
PVCM の原因は明らかになっていないが、
迷走神経の異常によるとされ、
何らかの心因性要因が関わっていると考えられている。
精神疾患の他、ストレス、激しい運動、周術期の気管内挿管、
神経損傷、胃食道逆流、咽頭喉頭逆流、副鼻腔炎、
刺激性気体の吸入曝露、上気道感染症、
タバコの煙や大気汚染などとの関連も指摘されている。
診断は、肺呼吸機能検査と喉頭鏡で行う。
発作時に喉頭鏡で声帯運動の異常を確認すれば診断できる。
治療法は喘息とは全く異なる。PVCM では、
言語療法によって声帯をリラックスさせたり、
腹式呼吸法をマスターさせるほか、
発作時の適正な呼吸の仕方を訓練する。
精神心理療法を行うこともある。
どうやらPVCM の発症には
精神的要因がかなり大きなウエートを占めているようだが、
いまだ謎の多い疾患のようである。

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