A Challenge To Fate

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【静寂の光と影】灰野敬二/ナスノミツル/一楽儀光『静寂/LAST LIVE』『静寂の果てに』

2015年08月14日 02時36分09秒 | 灰野敬二さんのこと



静寂(灰野敬二、ナスノミツル、一楽儀光)『LAST LIVE』

灰野敬二(ギター、ヴォーカル、フルート、パーカッション、他)
ナスノミツル(ベース、エフェクト、ヴォイス)
一楽儀光(ドラムス、ヴォイス)

disc 1
1. Blue Eyed Doll (18:57)
2. Srijaku (14:21)
3. Don't Blame It On Anybody (6:06)
4. Showa Blues (15:56)
5. Iranai (11:16)

disc 2
1. Still Anyone Don't Notice (7:51)
2. Young People (10:34)
3. Use All Up The Body That Is Given To You (2:18)
4. Let's Make It Clear (6:27)
5. Look Over Here From The Other Side (7:38)
6. We Cut The Top Of Fate And Take a Look Inside (6:29)
7. Luck Of Prayer (2:19)
8. Imi-kuzushi (7:55)
9. 150 Tons Dynamite (9:16)
10. Want To Head Back (8:56)

recorded by Masami Sato (Club Goodman)
recorded on 24 December, 2012 @ Club Goodman, Tokyo
mixed and mastered by Yoshiaki Kondoh (GOK sound)
produced by Seijaku and Jun Numata
originator: Keiji Haino

濃厚なる静寂の静と動/陰と陽/光と闇を炙り出す二篇の実録音源。

静寂とは2009年8月~2012年12月活動したロック・トリオである。灰野敬二、ナスノミツル、一楽儀光で結成され「灰野敬二Blues Band」として2009年8月15日名古屋Tokuzoにてデビュー。翌年から「静寂」と名乗っり、全8回のライヴ活動を行い、2枚のアルバムをリリースした。2011年3月11日に高円寺Highで予定されていた初のワンマン公演が震災で中止になり、それ以降、その影響が演奏活動に反映されるようになった。5月12日のリベンジ公演ではメンバー3人が「いらない!」と叫ぶ曲を披露。8月15日に大友良英等が企画した福島での「フェスティバルFUKUSHIMA」に出演した時は、「最近の祭りには祈りが足りない」というMCで演奏をスタートし、震災後の世界への祈りを迸らせた。2012年一楽が病気のためドラマー引退宣言し、そのままフェイドアウトかと思われたが、2012年12月24日に、一楽のドラマー引退公演&ラストライヴが開催された。2時間を超えるその日のステージを全編収めたのが本作。

灰野の理想のロックの実践である不失者の秘技を伝授された静寂は、本質的に「ブルース(=哀歌)バンド」である。アルバート・キング、ザ・ドアーズ、ステッペンウルフに捧げられたアルバム「You Should Prepare To Survive Through Even Anything Happens」で判る通りレパートリーは多彩である。この日も「青い眼の人形」「昭和ブルース」「若者たち」「ダイナマイトが百五十屯」「あっち側からこっちを見ろ(ザ・ドアーズ)」「始まりに還りたい(ステッペンウルフ)」などが演奏された。かつての哀秘謡同様に、カヴァーでもコピーでもない。元の歌詞がいわばジャズにおけるテーマのように「素材」として使われるだけである。特にザ・ドアーズ、ステッペンウルフに関してはオリジナルの英詞を灰野が咀嚼し独自に解釈した日本語の歌詩(歌"詞"ではなく)で唄われる完全なオリジナル楽曲である。

演奏は正に「ブルース」としか形容しようがない。ここでの「ブルース」は演奏技法やスタイルではない。黒人たちが日常の幸せや憂鬱を歌で表現したというルーツ通り「心の底からの感情表現」という意識に基づく「ブルース」なのである。深いリバーヴに沈み込む演奏は透徹して泣き濡れている。哀感の発露たる楽器の響き合いと祈りを捧げ続ける歌。平易な言葉を使いつつ独特の言い回しが抽象性を併せ持つ灰野の歌は驚くほどの具体性と直情性を発揮する。その最たるものが「いらない!」であり、今回は「バカヤロー!」という激情直裁的な言葉が灰野の口から発せられ驚く。「いらない!」は進化して「もういい!」になった。それは諦観ではなく否定を超えて能動への前進であり、主体としての静寂=精神的独立宣言に他ならない。

後半ところどころでドラムが中断する。灰野とナスノが「まだ行けるか?」と気遣うように間合いをとるのが感じられる。アンコールで「始まりに還りたい」を演奏。明らかに一楽へ向けた言葉を叫び、鬼気迫る演奏の迫力が凄まじい。2008年8月岡山ペパーランドで灰野と一楽が共演し、この曲を演奏した後に一楽が「ブルース・バンドをやりたい」と言い出したのが静寂の始まりだったという。その曲で活動の幕を下ろすというのも(灰野は嫌うだろうが)「運命的」でありドラマティックな終焉だと言えよう。生み落とされた責任を見事に果たした訳だ。最後に「一楽に拍手を」という灰野としては異例のMCも収録されており、単なるライヴ音源ではなく、命のドキュメントと呼ぶに相応しいアルバムである。



灰野敬二、ナスノミツル、一楽儀光『静寂の果てに』

灰野敬二(エレクトロニクス、ギター、ヴォーカル)
ナスノミツル(ベース、エフェクト)
一楽儀光(エレクトロニクス、エフェクト)

disc 1
After Seijaku part 1 (52:37)

disc 2
After Seijaku part 2 (59:04)

recorded by Masami Sato (Club Goodman)
recorded on 21 November, 2014 @ Club Goodman, Tokyo
mixed and mastered by Yoshiaki Kondoh (GOK sound)
produced by Seijaku and Jun Numata

『LAST LIVE』の2年後に開催された「静寂の果てに(After Seijaku)」と題された公演。ドラマーを引退した一楽は「ドラノーム」や「レーザーギター」というオリジナルの電子楽器で演奏を続けており、ナスノもエレクトロニクスを多用したソロ演奏を実践。勿論灰野はずっと以前からエレクトロニクスを自家薬籠中の物としている。フライヤーには「Ambient Version」とサブタイトルされており、エレクトロニクス中心に「静寂」の一般的なイメージに近いクワイエットな演奏を聴かせようという意図に思えるが、ジャンルの「アンビエント・ミュージック」ではなく、灰野がよく言う「気配」に限りなく近い。ここに収められた111分ノンストップの演奏は、環境音楽などという生易しいものではなく、聴き手の周囲をネットリと包み込み、意識の中へ不穏な気配を注入する、極めて刺激的な実在音響である。静寂の闇は、余りにも濃く、余りにも重い。これもまたロック/ブルースと呼べるくらいの開かれたマインドを持ちたいものだ。

doubt music公式サイト

静寂と
静寂の果ての
挟間にて

 


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