A Challenge To Fate

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【クラシックの嗜好錯誤】第八回:出会いと遺品と自然体~カールハインツ・シュトックハウゼンへの回想

2020年08月20日 01時44分13秒 | 素晴らしき変態音楽


1975年に中学に進学した頃から軽音楽や洋楽ポップスに興味を持つようになった。情報源は雑誌や新聞もあったが、なんといってもラジオ、特にFMの音楽番組だった。その頃はまだローカルFM局があるのは東京、大阪、名古屋くらいで、筆者が住んでいた金沢にはNHK FMしかなかった。平日夕方の「軽音楽をあなたに」夜の「クロスオーバーイレブン」、週末の午後の湯川れい子のポップス番組などをよく聴いていた。決まった番組以外にも、適当な時間にラジオをつけて流れてくるクラシックやジャズや民俗音楽を聴くのも楽しみだった。ある日居間のステレオのラジオのスイッチを入れたら、突然いろんな電波が混ざり合った雑音が流れてきて、ステレオが壊れたかと思ってヴォリュームやチューナーのつまみをいじったが、雑音は消えないどころか、勝手にチューニングが変わるように様々な音楽の断片が聴こえたり消えたりを繰り返した。その状態が5分くらい続いたので「ラジオが狂った!」と興奮して、証拠のためにカセットテープで録音した。やっと雑音が終わった時、当然トラブルに関するお詫びのアナウンスがあるだろうと思っていたら、何事もなく次の番組が始まった。いったいこれは何?と戸惑うばかりだった。今のようにSNSがあれば「さっきNHK FMが狂ってなかった?」などとツイートして反応を調べられたかもしれないが、その頃は何が起きたのか確かめようはなかった。翌月のFM雑誌(FMラジオで放送した曲のリストが載っていた)で確かめたかどうかは覚えていない。その一方で放送事故の証拠のカセットでこの音源を聴くと、不思議に懐かしいような魅惑を感じた。

高校、大学へと進学し、アヴァンギャルドな音楽を聴くようになり、ノイズや騒音が音楽になることを知るにつれ、自分が聴いたのが現代音楽の作品だったことが分かってきた。電子音楽かミュージック・コンクレートだったのだろう。とはいえ当時録音したカセットもとっくに失われており、具体的に誰の何という作品だったのかは35年近く経っても謎のままだった。

●Karlheinz Stockhausen ‎/ Hymnen

1969 / Germany: Deutsche Grammophon ‎– 139 421/22

その謎が解けたのはつい最近、中古レコード店で視聴した1枚のレコードだった。カールハインツ・シュトックハウゼンの『Hymnen』。世界各国の国歌を素材にして、短波ラジオ、チューニング音、モールス信号、あらゆる電子雑音の中に断片としてメロディを埋め込んだ電子音楽作品である。2時間もある大作なのでどの部分がFMラジオで放送されたのかは分からないが、中学時代の筆者を震撼させたのは間違いなくこの音だった。

Karlheinz Stockhausen - HYMNEN (Elektronische und konkrete Musik) Region 1 + 2



●Karlheinz Stockhausen ‎/ Studie I / Studie II / Gesang Der Jünglinge

1961 / Japan: Deutsche Grammophon ‎– LG-40

シュトックハウゼンにまつわるもう一つの驚きは、今は亡き父のレコード・コレクションに『少年の詩、習作』の10インチ盤を見つけたことである。父はクラシック・ファンだったが、主にベートヴェンやモーツァルト、ワーグナーといった古典的なクラシックばかりで、近代音楽はストラヴィンスキーやバルトークくらいしか聴かなかった。遺品の中に初期電子音楽の名作といわれる『少年の詩』を見つけた時は意外な気がしたとともに、同時代的な音楽を聴こうとした若き父の姿が目に浮かび嬉しくなった。

Karlheinz Stockhausen - Gesang Der Jünglinge ("Song of the Youths")


90年代のサンプリング・ユニットStock, Hausen & Walkman(ストック・ハウゼン・アンド・ウォークマン)のネタ元であり、クラシック、現代音楽ファンにも名前が知られるシュトックハウゼンは非常に多作な作曲家であり、「点の音楽」「群の音楽」「モメント形式」「直観音楽」「フォルメル技法」など技法を発展させ、声楽、器楽曲、室内楽、交響曲、電子音楽など様々なスタイルの作品があるので、どの作品が好きかは個人の感性に頼るしかない。筆者的には『若人の歌』『ヒュムネン』『テレムジーク』などの電子音楽が一押しだったが、最近気に入っているのがこのアルバム。


●Karlheinz Stockhausen - The Negative Band ‎/ Short Wave

1975 / US: Finnadar Records ‎– SR 9009

高円寺Los Apson?でこのレコードを見つけた時、エクスペリメンタル・ノイズ・バンド”Negativland”によるシュトックハウゼン作品!と思って大興奮したが、カウンターに持っていく途中で”Negative Band”だと気が付いた。念のため試聴すると、生楽器とエレクトロニクスによる比較的起伏の少ないアブストラクトなフリー・インプロヴィゼーションのナイス・レコード。Ngativlandよりも面白いと即購入。Nagtive Bandはパーカッション2名、サックス、ピアノ、シンセ、フルートからなる6人組で、曲によって楽器を持ちかえる。74年5月ロアンゼルスでシュトックハウゼンの直観音楽作品を演奏したライヴ録音。テキストの形で提示された方向性に基づく即興演奏の「直観音楽」作品には、シュトックハウゼン本人が参加したレコードも多いが、本人が参加しない演奏のほうが客観的で作品の魅力が引き立つように感じる。特にアルトサックスの非ジャズ的演奏が、インプロに有りがちな過度の肉体性・精神性を回避し、自然体の即興音楽を生み出している。正直言って地味だが、活動的になれない今の気分にはピッタリくる。

カールハインツ
音楽迷宮
ストックハウス

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