A Challenge To Fate

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【魅惑の軽音楽 その4】コマンド・オールスターズ~スペース・エイジの騎手イノック・ライトによる「サウンドを解放する試み」

2022年01月13日 02時25分41秒 | こんな音楽も聴くんです


イノック ・ライト(Enoch Light)は1940年代からヴァイオリン奏者、バンド・リーダー、録音エンジニア、レーベル・オーナーとして活躍し、アメリカのイージー・リスニングを語る上では欠かせない重要人物。彼が1959年に設立したレコード・レーベルがコマンド・レコード(Command Records)である。78回転のSPレコードから33回転・45回転のLPレコードが主流となり、録音がモノラルからステレオへと進化する中、イノック・ライトのプロデュースによる「サウンドを解放する試み」として革命的なステレオ録音技術を駆使したレコード・シリーズを発売し、全世界のオーディオ界に大きな話題を投げかけた。1959年の『Persuasive Percussion 邦題:コマンド・ステレオの革命(打楽器の説得力)』と『Provocative Percussion 邦題:コマンド・ステレオの新境地』はビルボード・チャートに入るヒットとなった。Enoch Light And The Light Brigade、Terry Snyder And The All Stars、The Command All-Starsなどいくつかの名前を使っているが、メンバーの多くは重なっており、実在の楽団というよりイノック・ライトが集めたスタジオ・セッション・グループと考えたほうがいい。日本ではキング・レコードが配給しており、ほぼすべてがコマンド・オールスターズ名義による日本編集盤としてリリースされていたようだ。

●コマンド・オールスターズ『SANYO STEREO RECORD』(三洋電機株式会社/キング・レコード KSL-3)


オーディオメーカーSANYOが制作した10インチLP。価格表示がないので、おそらくSANYOのステレオ機器購入者に配布されたものだと思われる。A面1曲目「ステレオ装置の調整」は左右のスピーカーのバランスを取るための楽器の音や効果音。時代がかった女性ナレーションが妙に生々しくていい。それ以降はミュージカルやジャズのスタンダードやシャンソン、ラテンのナンバーで、サウンドの分離がよく、左右の楽器が入れ替わったり、音が移動したり、実験的な録音技術によるステレオ効果が楽しめる。90年代のモンド・ミュージック・ブームの文脈でこの手の音楽がSpace Age Popと紹介されていまひとつピンとこなかったのだが、アメリカとソ連の宇宙開発競争と同時代の技術革命の産物と考えれば、確かに宇宙時代の音楽だと納得した。

●コマンド・オールスターズ『コマンド・ラテン大全集』(コマンド・レコード/キング・レコード SET-31/32)


ステレオ効果を最大限に引き出すのはパーカッションをフィーチャーしたテンポのいい音楽、つまりサンバやルンバ、タンゴやカリプソといったラテン・ミュージックと言える。特に60年代の日本の大人の間では、ロックンロールやポップスよりも、ラテン音楽の人気が高かったのだろう。コマンド・レコード原盤のラテン音楽を集めた日本独自のコンピレーションが何種類も発売されていて、この2枚組のそのひとつ。同じタンゴでも哀愁たっぷりのアルゼンチン録音に比べて、イノック・ライトによるキレのいいアレンジとクリアな録音は、タンゴに内包された希望に満ちたポジティヴ・パワーを感じさせる。あまりにベタ過ぎるジャケット写真(日本制作)も、ラテン音楽の陽気なノリをアピールするのに効果的。

とはいうものの、米コマンド・レコードの初期のジャケットが、バウハウスで学び芸術大学で教鞭をとったドイツ出身の現代美術家ヨゼフ・アルバースによるモダンアートで統一されていたことを考えると、行き過ぎた日本的アレンジに複雑な思いを禁じ得ない。

The Command All Stars - Provocative Percussion (full album) 1960


宇宙時代
聴くべき音は
軽音楽

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