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科学と文芸を融合した仮説作品「風雅のブリキ缶」姉妹篇。街で撮った写真と俳句の取り合わせ。やさしい作品サンプルも追加。

ニュートンも青ざめた株の「大馬鹿者理論」

2006年01月19日 20時25分28秒 | Journal
 『バブルの歴史』(エドワード・チャンセラー著)を紐解くと、ライブドアショックのような風景は歴史に嫌と言うほど繰り返されてきたことが分かる。
 大体、株式会社とか株は、ローマ時代からあったというから驚きだ。帝政になる前のローマは、徴税から神殿建設まで、政府のさまざまな業務を資本家が作った企業(プーブリカーニ)に請け負わせていた。今でいうPFI方式だ。株式も大口、小口と2種類あった。それにしても、今日に残るローマの壮大な遺跡群の初期のものが株式会社によって建造されたとは、意外である。

 *日本政府の広報HPによれば、PFI(Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)」とは、公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う新しい手法とある。ローマ時代からあるのだから別に新しくもない。

 中世に、トマス・アクィナスが「物をその価値より高い価格で売り、低い価格で買う」行為は不公正だと唱え、バブルの歴史は一応抑え込まれた。ルネッサンス期に復活した投資熱は、オランダにおいて1634年頃に始まった「チューリップ狂」で一つのクライマックスを迎えた。一時は、球根1個に2500グルデンの値が付き、その金額で小麦27トン、ライ麦50トン、太った雄牛4頭、太った豚8頭、太った羊12頭、ワイン大樽2樽、ビール大樽4樽、バター2トン、チーズ2トン、ベッドとシーツ一式、ワードローブ1個分の衣装、銀コップが買えたという。

 1687年頃、イギリスに企業設立ブームが起った。後年、ロビンソンクルーソーの物語(1719年)を書いたダニエル・デフォーは、これを「企業熱」と呼んだ。さまざまなアイデア会社、今で言うベンチャー企業が誕生した。この年に、ウィリアム・フィリップ船長がカリブ海のイスパニオラ島沖に沈没していたスペインの装甲船から32トンの銀と宝石を引き上げた。出資者への配当は、出資金の1万%にのぼった。すぐに幾つか潜水会社が設立された。1682年にハレー彗星の軌道を計算した天文学者のエドムンド・ハレーは、「潜水鐘」なる円錐形の潜水装置を考案し技術特許を取り、そのパテントを持つ難破船引揚げ会社は初期の株価表に「ダイビング・ハレー」と書かれた。デフォーは別の潜水鐘会社に秘書兼財務役として雇われてもいる。科学者も作家も、企業熱に浮かれたのだ。デフォーは「株式会社、特許会社、潜水器具、事業会社の株価が、大げさな言葉で吹き上げられ」、ある潜水会社の株価が500%上昇したと書いている。そのデフォーは、自分の勤める潜水鐘会社に投資した200ポンドを失い、「特許を売り物にした会社についてなら、面白い物語を書ける。鴨にされたのは、わたし自身なのだから」と書くことになる。

 なお、ハレーは、潜水鐘を考案するかたわら、1693年にプロイセンのブレスラウ市の記録に基づいて、生命表を作成し、この表によって死亡率が計算できるようになって、保険数理学が確立され、生命保険産業の土台が築かれたという。小生の亡き父親は、日本生命の社員だった。

 株式取引における史上最初の有名なバブル崩壊劇は、1720年、イギリスで起った「南海泡沫事件」だ。イギリス政府は、国債を南海会社という貿易会社(南アメリカへの奴隷販売の独占権を与えられていた)の株式に転換する政策を取り、株価を高値に操作した。結局、南海株はピーク時の15%まで下落し、イングランド銀行株や東インド会社株など有力株も3分の2近く下落した。造幣局長官の地位にあった晩年のアイザック・ニュートンも、相場が上りきらないうちに南海株を売却し、相場の頂点で買い戻したために、2万ポンドの損失を被った。死ぬまで、南海会社が話題になると、顔が青ざめたといわれる。「天体の動きなら計算できるが、群集の狂気は計算できない」とは、後世に伝わるニュートンの述懐である。

 株の世界には、「大馬鹿者理論」というのがあるそうだ。もう少し、穏当に言えば、合理的バブル理論とかモーメンタム・インベスティング(勢いにつく投資)理論。これは、本来的価値を上回っていることを承知の上で、投資家が株を買う根拠に使われてきた。世の中には、自分よりももっと馬鹿がいて高値で買ってくれるから人気株を買っておけということらしい。まさに、一連のライブドア株と同じカラクリである。

 写真は、永代通りに面したライブドア証券(本店営業部)。この会社は、昭和10年に田丸屋田村新吉商として創設。昭和19年、株式会社に組織変更し、田丸屋證券株式会社を設立。 昭和24年、東京証券取引所正会員となる。昭和24年、偕成証券株式会社に商号変更。昭和40年、大興證券株式会社と合併。平成10年、日本証券株式会社、山加証券株式会社と合併し、商号を「日本グローバル証券株式会社」に変更する。平成16年7月 商号が「ライブドア証券株式会社」に変更された。つまり、新興ライブドアに買収された会社の一つである。

 昨今のインターネットを使った個人取引で業績もさぞ良いだろうなと、毎朝、地下鉄の茅場町駅から昇降口を出てきて、まず目に止まる看板を眺めながら、何度も多少の羨望を抱きながら思ったものである。詐欺事件発覚の翌朝は、どうかと、中を覗くと、顧客が座るフロントの椅子にコートが置き忘れられていて、一人の私服の地味な感じの女性社員がやや暗い顔で立ち上がって動く姿が見えた。まあ、社員に責任も何もないのは、当たり前である。

COMMENT:【ライブドアで人生が終わった人のスレッド】に、こんな「大馬鹿者」の笑えない書き込みがあった。
・「アダムスミスが間違ってたってことだな。 自由主義経済を貫けば、こうなるのは、ニューディール政策の昔から分かってたことだと思う。」←アダム・スミスは、宝くじの購入を「リスクを軽視し、根拠なく成功を期待する」例として挙げるなど、人間の投機的傾向に批判的だった。スミスは、『国富論』(1776年)に、「(南海会社の)株主はきわめて多かった。…したがって、その経営に愚挙、怠慢、贅沢が広がるのは当然のことと予想できた。同社の株価操作の不正行為と放埓ぶりは十分に知られており、…」と書いている。
・熱狂的堀江信者「私が思うに、税理士、弁護士、公認会計士など法律を扱う人々で真に優秀な人物というのは、 法律の隙間を抜ける方法論をクリエイトできる人。もしライブドアが負けるのなら、僕は新渡戸稲造著「武士道」をこよなく愛する日本人だからこそ、いまの日本を出て行く覚悟がある。腐りきった国家に見切りをつける。腐りきった日本国に日本人として見切りをつける。」
・上記の反論「今回のブタの件は武士道とはなんら関係のない策士策に溺れるというやつだろ。それ以上に文面から鑑みて、あなたが武士道を語ることこそおこがましい。武士道とは死ぬこととみつけたり。(18日に那覇市のホテルで自殺した)野口(エイチ・エス証券の野口英昭副社長=38歳)は武士だったんだ。」
・「まぁ、豚にもいいとこあったよな。豚証券の破格な手数料は正直インパクトあったよ。」←ライブドア証券には、ライブドアトレード・プレミアムトレードパス購入で、連続3ヶ月間の現物および信用取引での手数料を完全無料にする定額制サービスがあった。
・「ホリエモンの事叩いているやつ多いけどさ、リーマンだのGSだの外資の魑魅魍魎に比べれば数倍マシだろ。エグさの度合いから言えば外資の方が数倍エグイ。はっきり言って、今叩いているやつだってLD株持って無いから、豚だの詐欺だの叩いているけどさ、じゃあお前らは新興株とかまったく買ってないのかと、てめぇらがたまたまLD関連株持って無いから煽ってるだけちゃうんかと。ラッキーだっただけじゃねぇか、たまたま、あと一日遅ければお前らだってLD買ってたかもしれないだろ。わかったか、クズども、おまえらも他人事じゃないんだよ、明日はお前らの番かもしれないんだよ、煽ってんじゃねーぞ。ろくでなしどもだよ、おまえらは。…はぁ、でも、ここで愚痴ってもしょうがないんだよな…。すまん、興奮してた。もう寝る。」
・「世界は実はマンガだったというのはどうだろう? われわれは現実の人間ではなくて、経済マンガの中の登場人物なのだ。だとすれば万事解決。」
・「いえ、私たちの住む3次元宇宙そのものが実は4次元空間に住む勝者の子供たちのおもちゃなのです。がちゃがちゃの景品に私たちの住むような宇宙が入っていて子供たちは俺の宇宙のほうが優秀だぞ!などと言いながらカプセルの中身競争しています。飽きられたり、勝負に負けたカプセルはそのまま放置されたり踏まれて中身が壊れたりします。これはイコール宇宙の死を意味します。」
・「俺、美容整形医やってて年収6000万なのに今回の件で3500万も損した…。半年タダ働きするのと同じかよorz。チンコの皮切りのバイト増やすしかないな…。マジで地獄だ。」
・「ケインズが最終的に辿り着いた『投資の三原則』:1.将来性が高く、しかも本来の価値から考えると割安感が強い、少数の優れた株を注意深く選別する。2.こうして選別し投資した株については、相場が良い時も悪い時も、その見込み(当初考えた将来性)が実現するか、あるいは、その見込みが間違いである事が明らかになるまで、断固として保有し続ける。3.ポートフォリオは、同じ性質やリスクを持った銘柄ばかり選ぶのではなく、反対の性格やリスクを持つ銘柄を組み合わせ、バランスを考える。」←ジョン・メイナード・ケインズは、『一般理論』の中で、こう書いている。「投機家は、企業活動の着実な流れに浮かぶ泡沫であれば、害にはならないだろう。しかし、企業活動が投機の渦巻きに浮かぶ泡沫になれば、深刻な事態になる。一国の資本の発展がカジノの活動の副産物になったとき、資本を発展させる仕事はうまくいかない可能性が高い。」まさに、今回のライブドア・ショックの本質を言い当てた言葉ではないか。
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