折々の記

日常生活の中でのさりげない出来事、情景などを写真と五・七・五ないしは五・七・五・七・七で綴るブログ。

イチローと他のプロを分かつもの

2008-01-17 | スポーツ
プロとアマを分かつもの、そして、プロ同士を分かつものは一体何なのだろう、ということに予てから興味を持っていた。

そして、プロとアマを分かつものについては、NHKのドキュメント<考える 石田衣良の場合>を題材にして、12月28日付のブログに私見を書いた。

今回は、同じように選ばれたプロ同士であっても、陽の目を見ずに消えてしまうプロもいれば、その才能を開花させ、脚光を浴びるプロもいる。
この両者を分かつものは、一体何なのかについて考えて見たい。

この命題を解く一つのヒントになりそうなテレビ番組がこの正月に放送された。

1月2日にNHKで放送された【プロフェッショナル仕事の流儀 イチロー・SP】という番組である。

このドキュメンタリーは「イチロー」という一人の人間を多面的に捉えて、これまで余り知られていなかった「イチロー」の素顔に迫るもので、イチロー自身から興味あるコメントが語られ、また、イチローの『本音』が垣間見られ内容的にも非常に面白い。

その中から、今回のテーマであるプロ同士を分かつもの、即ち、イチローと他のプロを分かつものは何かに焦点を絞って、イチローのコメントを中心に考えて見たい。


バッターボックスで集中力を高めるイチロー
(1月2日放送NHK【プロフェッショナル仕事の流儀 イチロー・SP】から)


イチローとその他のプロを分かつもの

その1 過去のイチローを捨てる~『成功体験』の否定

イチロー ー自分が過去もっていた形を思い返して見ると、よくあれで打てたなって今もそう思うんですよ。

これは終わりがないんですよ、今のところは。

日本で7年連続首位打者、大リーグで2回の首位打者、毎シーズン200本以上のヒット、そして1シーズンの262本の最多安打の大リーグ記録、そうした数々の輝かしい記録を残しているイチロー。

その偉業を成し遂げてきた自分の打撃を自らこう評するイチロー。

およそ人間も企業も一般的には『成功体験』の上に修正、改良を加えて進歩につなげていく。それが堅実で一番確かだからである。

しかし、イチローの場合、常人の発想と次元が異なっていた。

イチローにとって、栄光は常に過去のものであり、過去のイチローを捨て去ることで新しい自分を見つけようとしている。この場合、過去の成功体験が大きければ大きいほど、その成功体験を捨てるリスクは高くなるわけで、あえてそのリスクをおかして、新たなものに挑戦する勇気と決断力は、並のプロにはとても求められるものではない、と思う。


イチローとその他のプロを分かつもの

その2  究極のバッティングへのチャレンジ~完璧性を追及する『求道者』


イチロー -4割打ったから完璧なフォームかと言ったらそうではない。肉体の状態、精神の状態その中で自分の完璧を作り上げていく。

過去のイチローを捨て、あえて『成功体験』を否定する先にイチローが見据えているものは『完璧』を追及する『求道者』の道である。

イチローは、常に『高み』を求め、それを達成することの中にのみ喜びと満足を見出す。
上記コメントは『完璧主義者』イチローの面目躍如である。

イチローにとって、たとえ4割打てたとしても、自分がベストの状況を作り上げた結果での4割でなければ満足できないと言い切っているのである。
イチローにとって大切なのは、『結果』でなく、その『過程』であり『中身』である。

だから、結果が出てしまった時点で、イチローの達成感は消えてしまい、絶えず次の達成感を求めて新しい何かを求めざるを得ないのである。

先のコメントの『これは終わりがないんですよ、今のところは』とは、そういうことを言っているのだと思う。


それでは過去のイチローを捨てて新たな境地に挑んだ07年のイチローの目標は、何か。

カメラは07年、イチローが目指した新しいバッティングに迫るべくメンタル面、技術面の両面からアプローチして行く。


緊張感漂うインタビュー
(1月2日放送NHK【プロフェッショナル仕事の流儀 イチロー・SP】から)


先ずは、メンタル面でのイチローのコメント

イチロー -重圧に強いかって、弱いですよ。これまでは、この重圧をに何とか耐えてきましたが、重圧を克服したとは言えません。

プレッシャーはどうしてもかかる、それは避けることができない。ならば、こちらからかけにいこう、重圧から逃げずにそれと対決するバッティングを見つけよう、これが2007年のボクのテーマです。

そして、具体的なバッティングについてのコメント

イチロー -ストライクゾーンだけ、もし打つことができたら、ボクの右に出る人はいないですよ。

でも訳のわからないボール球に手を出したりね、ダメだ、これに手を出したらだめだといって手を出すのがいけないんです。でも、これなくせるんじゃないかな。

この感覚を得られれば、今までの技術は必要ない。普通に打てると思った球を打ちに行けば、ヒットが出るということですよね。

重圧を乗り越えていくためのバッティング面でのイチローの処方箋、それは上記コメントにあるような『悪球に手を出さずに、ストライクだけを打てればむずかしい技術はいらない』という、実に大胆極まる、恐るべきものであった。

それこそ野球人であれば誰しもが夢み、あこがれる究極の目標であるが、その実現が実は不可能であることを一番良くわかっているのも彼ら自身である。

勿論、イチローもそれがいかに困難なことかは百も承知で、そのむずかしさをイチロー特有の表現で次のように述懐している。

イチロー -あそこの空間でしかわからないことって必ずあると思うんですよ。バッターボックスでしか感じられない感覚、においだとか雰囲気だとかね。あそこでしか生まれないものってあるから厄介なんですよね。

バッターボックスには、選手の『平常心』を惑わす『魔物』がいるらしい。


しかし、イチロー選手は07年の1年のシーズン中、この夢のような究極のバッティングに挑戦し、実践し続けてきたのである。

そして、シーズンが終了した時点での彼のコメント

イチロー -自分が打席の中で感じている感覚、見えている景色、これは過去のものとは全く違ったものだと感じることができたので、ようやくスタートラインにつくことができたかなと思ってます。


2007年につかみかけた何かを2008年どこまで自分のものにすることができるか、今年のイチローから目が離せない。

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