ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『キリマンジャロの雪』

2012-05-28 23:58:23 | 新作映画
(原題:Les neiges du Kilimandjaro)


----この映画って、
キリマンジャロは出てこないって、ほんと?
「うん。
キリマンジャロはおろか、
アフリカさえ出てこない」

----じゃあ、どうして
こんなタイトルに?
「それでは
いつものようにストーリーから説明しよう。
舞台は、フランスの港町マルセイユ。
主人公はミシェルとその妻マリ=クレール。
映画は、労働組合の委員長をしているミシェルが
次々と名前を呼ぶシーンから始まる」

----それって、何やってるの?
「人員削減のため
20名の退職者をクジで選んでいるんだ。
ところがここである思いもかけないことが起こる。
委員長の権限でリストラの対象から外せたにもかかわらず、
ミシェルは自分の名前もクジに入れていたのだ。
彼は妻に、自分がリストラにあったことを告げる。
それからしばらくして
ふたりの結婚30周年を祝うパーティーが行われる。
リストラされた社員も含めた多くの仲間が招待されたそのパーティでは、
孫たちの合唱『キリマンジャロの雪』と共に
夫婦の長年の夢だった、
アフリカ・キリマンジャロへの旅が家族から贈られた。
しかし、このサプライズプレゼントは
思わぬ事態を引き起こしてしまう…………」

----ど、どうしたの。
急に話止めちゃって。
「いや、
この映画、これ以上は喋らない方がいいのかなと思って…。
とは言ってもホームページを見ると、
すべて分かっちゃうんだけどね。
数日後、ミシェルとマリ=クレールの家に
二人組の強盗が押し入って
金品と共にこのチケットまで盗まれてしまうんだ。
ある偶然がきっかけで、
犯人は捕まるわけだけど…。
さあ、ここからがまた喋りにくい。
この映画、主軸はそんな“犯人捜し”じゃないとは言え、
やはり、ミステリの要素は観るまで残しておいた方がいいのは言うまでもない。
ところが、そこを喋らないと、
この映画の持つメッセージは伝えきれない」

----でも、このままじゃ
話、終わっちゃうよ。
「そうだね。
犯人は、あの日
クジでリストラにあった男のひとり」

----それっておかしい。逆恨みだよ。
クジという公平な形をとったワケだし、
第一、当のミシェルもリストラに遭っているもの。
「そう思うよね。
ところが、この犯人の言い分はこうだ。
ミシェルは、委員長でもあるし
長年の功績ですでに十分なお金を手にしている。
だが、自分は、生活苦にあえいでいる。
もっと、一人ひとりの事情を汲みこむべきだとね」

----へぇ~っ。
その言い分って今の日本じゃ
まったく受け入れられないよね。
「うん。
加害者に対しては徹底的に厳しく、
すべて自己責任で、個人の事情は後回し…
これが現代の風潮だからね。
それに対して、この映画では、
ミシェルもマリ=クレールも
信じられない、ある“行為”に出る。
その“行為”とは、
自分のことよりも、先に他人を思いやる…
そこから生まれたもの」

----ニャ~るほど。
同じ価値観を持つからこそ、
ふたりの結婚は30年も続いていったわけだニャ。
「うん。
ここに描かれるのは、
こうあるべき、あるいは、こうありたいという人間本来の姿。
でも、その夫婦の“行為”に驚いてしまう自分も
これまた、かなり、今の時代に毒されているんだろうな」

----ふむふむ…。
あれっ。今日は映画の魅力というよりも、
ストーリーやメッセージばかりを聞いている気がする…。
「そうだね。
これって、抑制された演出の映画が多い
クレストインターナショナル配給の作品では
きわめて珍しいこと。
まるでハリウッド映画みたいに、
起承転結は、はっきりしているし、
シャンソン『キリマンジャロの雪』を始め、
音楽や歌もふんだんに使われ、映画にメリハリを持たせている。
物語の背景となる、
家族の繋がりや市井の人々の日常ももきっちりと描き分けているし、
個人的には、とても好ましい映画だったね」



                    (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「リストラ後、ミシェルはパーゴラ作りに精を出しているらしいのニャ」気持ちいいニャ

※このパーゴラ、“東屋”と訳されていた。ガゼボに近いけ度…

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
昨日観てきました。 (rose_chocolat)
2012-06-12 07:17:22
まだ書いてないんですけどね。
心温まる展開がよかったです。
ジャン=ピエール・ダルッサンと、フランスの港町ということで、『ル・アーブルの靴みがき』のような味わいもどこかにありました。
返信する
■rose_chocolatさん (えい)
2012-06-12 11:01:37
『ル・アーブルの靴みがき』も
カウリスマキ映画ならではの空気感が
南フランスに展開されていた
異色の映画でしたね。
あれはあれで魅力だけど、
ケン・ローチを少しやさしくしたような、
正義感あふれるこの映画の素直な感動も好きです。
返信する
Unknown (KLY)
2012-06-30 22:44:22
驚きますよね。
観終わった後隣の夫婦が「自己嫌悪だわ~」っ
て言ってましたが気持ちが解る気がします。中々ああはできないし思えないですもん。
返信する
■KLYさん (えい)
2012-07-03 23:00:41
こんばんは。
昨今の日本の流れは
鍵社へ厳しく厳しく、しかもその家族にまで
責任を追及してゆく。
そんな中、この風ッは被害者でありながら真逆。
実際には、ありえないような聖人にも似た感じでした。
そのご覧になった夫婦の方の呟きもよく分かります。
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