ラムの大通り

愛猫フォーンを相手に映画のお話。
主に劇場公開前の新作映画についておしゃべりしています。

『縞模様のパジャマの少年』

2009-07-25 16:25:44 | 新作映画
(原題:The Boy in the Stripped Pyjamas)


----あらら、子供たちが戦闘機ごっこのまねしている。
この映画というと、鉄条網の塀の両側で向かい合っている絵が思い浮かぶけど…。
「それは確かにそうだね。
あのビジュアルは、この映画の内容をひとことで言い表しているものね。
でも、個人的にはこのシーンが好きだな。
彼ら少年のイノセンス、むじゃきさを出していて、
ちょっとジョン・ブアマンの『戦場の小さな天使たち』を思い起こさせる」

----そういえば『戦場の小さな天使たち』って、
戦争で学校がお休みになり、
少年たちが喜んでいるという、
ちょっと変わった視点の映画だったよね。
これもそんな感じ…なわけないか。
「そう。全く違う。
この映画はこれ以上はないと言っても過言ではないほどに重い。
観る前に、その予告などからぼくがイメージしていたのはこういう流れ。
第二次世界大戦中のドイツ。
収容所長となった軍人の父親(デヴィッド・シューリス)の仕事で
田舎に引っ越した少年ブルーノ(エイサ・バターフィールド)。
彼は家のすぐ近くに農場のようなものを発見。
ところがそこにいる人たちは、いつも縞模様のパジャマを着ている。
なぜ?
不思議に思うブルーノは、
やがて鉄条網の塀の向こうが収容所で、
パジャマ服の人々がユダヤ人たちだと知る」

----あれっ。そういうお話じゃなかったってわけ?
「いや。ここまでは想像通り。
しかし、クライマックスに向けての展開が
自分の予想を遥かに超えていた。
まさか、こんな結末が待ち構えていようとは…。
おそらくこれは原作を読んでいる人以外は、
だれも思いつかないエンディング。
いやあ、つらかった。
涙が出るとか出ないとかいう次元のお話じゃない。
でも、これについては語らない方がいいだろうな」

----あらら。じゃあ、今日のお話はここでおしまい?
「いやいや。
それじゃあんまり。
ちょっとだけ見どころを…。
この映画、いちばんの注目すべき点はドイツ人の描写。
ナチスはみんな悪いという、
これまでよくあった描き方とはちょっと違う。
主人公の少年のおばあちゃん(シーラ・ハンコック)は、ナチに批判的だし、
母親(ヴェラ・ファーミガ)も
いたってノーマルな心の持ち主。
収容所の中でユダヤ人たちが殺されていることを現地に来て初めて知り、
夫に食ってかかる。
このヴェラ・ファーミガの演技が実にうまく、
映画の冒頭の方から早くも、夫とその仕事、さらには引っ越しへの不安などを、
細かい表情の中に漂わせる。
また、一方では生粋のナチス軍人、コトラー中尉(ルパート・フレンド)の描き方もいい。
自分の父親がスイスに逃れたという負い目。
それが彼を極端なまでの思想と言動に走らせていることが
話が進むうちに見えてくる仕掛けになっている」

----そういえばライザ・ミネリ主演『キャバレー』に、
年老いた人々がナチス熱に浮かれる若者たちを
冷めた視線で見ているカットがあったよね。
「うん。ぼくもそれを思い出した。
ドイツの国民性を掘り下げて描くのはいいけど、
その中に属している一人ひとりを、みな同じというように描いてしまったら、
それは一種の決めつけ。
ナチスのユダヤ人に対する偏見と同じになってしまう。
そういう意味ではこれは良心的な映画。
でも、それにしてもラストがなあ…」



         (byえいwithフォーン)

フォーンの一言「よっぽどのラストだニャ。ニャにが起こるのかニャ」小首ニャ

ただただ絶句だ度

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14 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
重いけど。 (うめ)
2009-07-25 23:39:46
こんばんは。
これ、登場人物がそれぞれの葛藤をもっていて、そういう意味でも観ていて「あ~、つらい。」と思いました。
多感な年頃のお姉ちゃんのゆれまくる感じも、イタかった・・・。
無駄な人物が一人もいなくて、結構好きな感じでした。
確かにラストはキツかったですが。
無知・純真・無垢・・・って、・・・こわいです。

文中の『キャバレー』って1972年ですか??
観たことなくて、観たいのに、レンタル屋さんに無いんですよ~(泣)。
返信する
■うめさん (えい)
2009-07-26 20:47:54
こんばんは。

おおっ。この作品、ご覧になられましたか。
そうそう、本文には書き漏れましたが、
あのお姉さん。
背伸びして、中尉を好きになるんですよね。
おそらく年齢もサバ読んでいることは、
弟の言葉と、それにちらっと反応する中尉の表情でわかっちゃう。
こういう表現もうまいなあ。

『キャバレー』は1972年の作品。
ライザ・ミネリがオスカーを受賞。
ボブ・フォッシーの傑作です。
返信する
重かったですね・・・ (maru♪)
2009-08-04 02:09:18
こんばんわ。

ラストの衝撃は本当にすごかったです。
あまりのことに涙も出ませんでした。

どのシーンでも明言しないで、こちらに想像させる演出。
それは自然に導き出されてしまって止められません。
煙突が2本映るだけとか・・・
それだけでその意味が分かって「あぁ・・・」ってなってしまう。
それが辛かったです・・・

出てくる人達がまた完全に"悪"じゃないのも辛かったです。
全部自分の中にもある感情だったので・・・

子供たちの無邪気な友情が、後に奇跡を生む話を想像していただけに、あのラストは・・・(涙)
返信する
■maru♪さん (えい)
2009-08-04 21:26:38
あのラストは畳みかける演出でしたね。

ぼくも、この映画に出てくる人たち、
ドイツ人の描き方が類型的じゃなかったところに引かれました。
でも、確かにそれが返って、
映画を辛いものにしていた気がします。
返信する
絶句です・・・ (となひょう)
2009-08-09 20:30:23
こんにちは。
『バーダー・マインホフ』参考にさせていただいたので、文中リンクさせて頂きました。
事後報告で失礼いたしやす・・・

そして、コチラの作品。
もう、ラストに言葉が出てきませんでした。
まさか、あんな終わり方をするなんて。
ショックを受け過ぎて、涙腺も停止状態です。
とっても辛い描写だったけど、いい映画だったと思います。
でも、次は軽いのが見たいな。
よそ見してても問題ないような大作。
何とかジョーさんとか
返信する
参りました。 (KLY)
2009-08-10 00:26:27
余りの衝撃で席が立てなかったです。その時に
は涙は出ませんでしたが、エンドロールで勝手
に涙が出てました。
ユダヤ人とそれ以外を分けるのは薄汚れた囚人
服の薄っぺらな布切れ1枚に過ぎないのに。
ちょっとショックが大きいです。
返信する
■となひょうさん (えい)
2009-08-10 14:33:51
こんにちは。

『バーダー・マインホフ』、見ごたえありましたね。
この映画、ほんと絶句でした。
もう、クライマックスは畳みかけるその演出に
完全に持っていかれたという感じでした。

これは子供には見せられないなあ。
トラウマになってしまう。
返信する
■KLYさん (えい)
2009-08-10 15:39:33
こんにちは。

KLYさんもレビューで書かれていたように、
少年が、大人に怒られるのが嫌でついた嘘、
それがきっかけとなり
自責の念からあの悲劇につながってゆく。
そのことがつらかったです。
収容所内が出てくるのがぎりぎり最後まで抑えられていたこともあり、
これはナチスに限った話ではないという気もしました。

思えばこの監督には『シーズンチケット』という名作があって、
そこでも子どもと親の関係が涙を誘ったものでした。
返信する
言葉も出ないくらい・・・ (ノルウェーまだ~む)
2009-08-13 06:52:28
えいさん、こんばんわ☆
重く辛いラストに、言葉もありませんでした。
それまでが、純真で無邪気だっただけに、より辛さが強調されてしまいました。
来年には息子をアウシュビッツへ連れて行って、見せたいと思っています。
返信する
いつも犠牲は… (オリーブリー)
2009-08-13 15:30:56
>涙が出るとか出ないとかいう次元のお話じゃない。

そうなんですよね。
そんな事も忘れるくらい(?)ショッキング…
綺麗ごとで終わらせなかったからこそ意味があるのですが、やはり罪深い行いにはそれ相応の代償が付きまとうのだと。
私は母親が廃人のようになるのではないかと…気の毒すぎます。
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