書く仕事

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「朝のガスパール」筒井康隆

2010年06月19日 10時51分18秒 | 読書
「朝のガスパール」筒井康隆

筒井康隆氏による新聞連載小説.
朝日新聞に1991年10月から翌年3月まで連載された.

虚構の中の虚構.
単なる劇中劇ではなく,多層の虚構が混じり合い,影響を与えあう.
読者からの投稿意見や,パソコン通信 (懐かしい!)による読者の感想や主張が物語のストーリーに影響を与えるという仕組み.
そして,物語中に作家が登場し,その作家が,実際の作家である筒井を批判する.
誰が誰を批判しているのか?
読者は混乱に戸惑いながらも,筒井の術中に填っていく.
その作家は,読者の意見も実名入りで痛烈に批判する.
しかし,筒井から批判された読者はそれを喜々としてとして受け入れていることがわかる.
「俺って,あの筒井から批判されたんだぜ,小説の中で」
友達に自慢している姿が目に浮かぶ.

筒井独特のドタバタもあり,狂気の台詞もあり,もともとの筒井ファンを片手で満足させつつ,新聞読者という不特定多数の「一般人」にもう一方の手で筒井ウイルスを感染させていく.

私が筒井康隆氏を天才と賞賛するのは,ただでさえ読者を満足させるのが難しいSFという領域で,①虚構の多重構造という実験的な試み,②読者投稿意見を取り入れてストーリーを変えていくという試み,③読者や作家(ご自身)を劇中の作者が痛烈に批判するという発想,
これら,過去に例のない手法を取り入れつつ,新聞連載という強い時間的制限のもとで,なおかつ「とても面白い」ストーリーを書き上げるということを,やってしまうからである.
聖徳太子じゃあるまいし,これら,どれ一つをとっても難しそうな課題を一度にやってしまう人を天才と言わずにおれるものか.

感動というより,何でこんなことが出来るんだろうという,ため息をこめて...