書く仕事

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「下流指向 学ばない子供たち 働かない子供たち」内田樹

2012年01月07日 00時37分01秒 | 読書
「下流指向 学ばない子供たち 働かない子供たち」内田樹




内田樹さんの著書は初読.

ツイッターで的を得た発言が多いことから,ここ半年ほど注目していたのですが,ついに書籍にたどり着きました.
結果的には,林真理子さんの 「下流の宴」 の社会的背景を読んだ形になりました.

極めて深い内容なので,こんなレビューごときで感想を書くことには抵抗を覚えますし,本書を読まずにこの感想だけ読んだ人に,間違ったコンセプトを伝えてしまうことが心配です.

そういうことですので,もしこの内容に興味を持たれたなら実際にお読みになることをお勧めします.

一言でいうと(このまとめ方が実は危ない!),ニートと呼ばれる働かない若者がたどる幼児期から青年期までの,家族や世の中との関わり方を,文部科学省(文部省)のゆとり教育と呼ばれる国家施策の失敗と絡めて,するどい洞察で論考したものとなっています.
ほら,ちっとも意味が通じないでしょう?

やはり読んでもらうのが一番早い.

でも,このまま放り出しては,やはり申し訳ないので,僕が感銘を受けた箇所の要点を一つだけご紹介します.

小中高大学すべての教育現場で,生徒が教師に発する質問のうち,もっとも教師を悩ますのが,「先生,これを勉強するとなんの役に立つのですか?」

おそらく殆どすべての教師が,この質問に対して真摯に,かつ自分なりに解答を用意し,生徒たちに説明することを試み,そして失敗している.

この状況について,内田樹さんはこう宣言する.

『 何のために勉強するか?という問いには答えなくてよい 』
『 なぜなら,その科目の内容を理解し,あるいはその後しばらく時間が経過しなければ,その答えは理解できないからである.』
学問とはそういうものである,ということでその質問を突っぱねるべきであると.

子供たちが勉強しなくなった理由は,すべてを経済つまりお金の損得で判断する社会的風潮が影響している.
しかも,子供たちが教育に対して,「消費者(クライアント)」の立場で参加するよう,親や社会が後押ししている.
つまり,習う内容が役に立つなら勉強してやる.しかし,役立たないなら勉強はしないというスタンスです.
つまり,消費者つまりお客がお店に入って,品物の値段を店員に尋ねるのと同じだと論破する.
品物の質が良くて値段が安いなら買ってやる.高けりゃ買わないぞ.

もちろん,そのような精神構造が本人にとって,良い結果を招くわけはなく,結果的に学校の勉強に付いていけず,進学のメインストリートからはドロップアウトする.

ところが,大学全入時代の現在は,分数の割り算が出来なくても,大学を選ばなければ,進学できてしまう.

そのような子は勉強しなくても何とかなるという自信があるから,(実際,大学入試にも受かっているし,先ほどの質問さえ発していれば教師は恐れてくれる),世の中でも通用すると勘違いする.

しかし,当然のことながら 『 就職活動 』 で,つまづく.

そういうメンタリティの学生が面接に通るわけがない.

自分では,するどい質問を発して教師を困らせるくらいの「頭のいい」学生だと思っている.その自分がなぜ,就職できないのか?と悩むのでしょう.

上記以外に,そのようなメンタリティをもつ子供たちがなぜここ20年のうちに急速に増えてきたか?
自己責任ということばの危うさ.
格差社会がなぜ定着してしまったか?
出来ない子ほど,自信たっぷりである理由.
などなど,目から鱗の考察が続きます.

現在,読みたい本が3冊たまっているので,すぐには無理ですが,是非他の本も読んでみたいと思っています.


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5 コメント

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納得の文です、ありがとうございます。 (ken)
2012-01-07 01:48:07
>『 何のために勉強するか?という問いには答えなくてよい 』
『 なぜなら,その科目の内容を理解し,あるいはその後しばらく時間が経過しなければ,その答えは理解できないからである.』

たいへん共感できる・・・そんな年齢に自分もなったのかなぁ、と思いました。答えのない問いに向けて勉強をしてみたい、と、やっと考えられるようになってきたからでしょうか。

本屋で「役に立つ数学」という本を立ち読みしていて・・・まさに「何の役に立つの?」という問いに答えるべくして書かれたもののようでしたが、正直言って魅力を感じませんでした。御著者の熱意がきちんと伝わる良書ではあるので、これもこれで、読まないで軽々に価値を決めつけるべきものではないのでして、単に私のベクトルと相反していただけなのではあります。

まことにもって本について述べるのは難しいですね。。。
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今、この本、読んでます・・・ (かこグランマ)
2012-01-08 00:45:40
>『 なぜなら,その科目の内容を理解し,あるいはその後しばらく時間が経過しなければ,その答えは理解できないからである.』
学問とはそういうものである

これ、ほんとに納得です!!
だって、学校で習ってる頃は、「こんなややこしいことを勉強して、社会に出て実際に役立つのかしら…」な~んて思ってましたが、実際に働くようになり、学校で勉強してきたことが役に立ったことが何度もありました。
因数分解で、商品の個別ごとの数量を割り出したり、現実の生活の中に、物理的法則を知ってた御陰で、危うく事故にならなかったり、いくらでもありますよね(^_-)-☆

>ところが,大学全入時代の現在は,分数の割り算が出来なくても,大学を選ばなければ,進学できてしまう.
これ、夫もそういう学生を見て嘆いていました。
「分数計算もできない生徒が、コンピューターの勉強しにきても、理解できるはずがない…」とね…(>_<)

チタは、小学校の頃から「何でこうなるんだろう…」といつも疑問を持ち、よく聞きに来ていたので、子供に解りやすく説明してやってたら、算数や、理科の物理的なことには興味を示していました。
なので、今(中2)でも、数学と理科(特に物理的な要素のもの)は好きみたいで、どうにか成績もついては来ていますが、英語とか国語がからっきしダメで、英語が最悪です!!(>_<)
今年の4月から3年生の受験生になるけど、相変わらず勉強嫌いで、机に向かおうともしないし、「英語は嫌いだ!」と決めつけ、手も付けない有様…
とっても好き嫌いが激しく、成績にもバラつきが多く困っています…(-_-;)
高校受験は、総合点で採るから、こんな子は損しますよね…
やっと塾には行くようになり、少しは勉強の習慣がついてくれればいいのですが…(-_-)

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勉強好きになるにはどうやればいいのでしょう・・・ (かこグランマ)
2012-01-08 00:51:15
チタは、小学校の頃から「何でこうなるんだろう…」といつも疑問を持ち、よく聞きに来ていたので、子供に解りやすく説明してやってたら、算数や、理科の物理的なことには興味を示していました。
なので、今(中2)でも、数学と理科(特に物理的な要素のもの)は好きみたいで、どうにか成績もついては来ていますが、英語とか国語がからっきしダメで、英語が最悪です!!(>_<)
今年の4月から3年生の受験生になるけど、相変わらず勉強嫌いで、机に向かおうともしないし、「英語は嫌いだ!」と決めつけ、手も付けない有様…
とっても好き嫌いが激しく、成績にもバラつきが多く困っています…(-_-;)
高校受験は、総合点で採るから、こんな子は損しますよね…
やっと塾には行くようになり、少しは勉強の習慣がついてくれればいいのですが…(-_-)
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>tadaさん (coollife)
2012-01-08 18:08:54
確かにそうですね.
教師と生徒の関係を,売り手と買い手の関係で説明することは無理なんだと思います.
そのような質問を突っぱねる気概が,教師には求められると思います.
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>かこグランマさん (coollife)
2012-01-08 18:13:30
チタ君のように素朴な疑問から数学や物理を好きになってくれれば良いなあと思います.
何か一つでも得意科目があれば,それを思い切り伸ばしてやれればそれで良いと思いますね.

年を経れば歴史や地理にも自然と興味がわいてくると思います.実は僕自身も学生時代は社会系の科目は大嫌いでしたが,今は好きです.
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