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「ジェノサイド」高野和明

2011年10月15日 11時30分36秒 | 読書



高野和明さんの小説はデビュー作の「13階段」以来.
「13階段」も面白かったけど,この「ジェノサイド」はその比ではありませんでした.

単なるエンタテイメントの枠を超えた,人類への警鐘であり,哲学であり,未来予測でもある.
そして,痛快なエンタテイメントしても超一級.
物語のスケールが全く違う.
舞台は地球,テーマは人類の未来.

根底に流れるのは,人間の「原罪」
今の人類という「種」がもつ自己破滅型の性質をするどく描きます.

また,我々の世界の指導者と呼ばれる立場が,その支配する国民にとっていかに重要であるか,逆にいうと,その指導者がカスだと,どれだけ多くの命が無駄に失われてしまうのかが,リアルに描かれます.

こういうテーマだと,だいたいある程度立場をぼかして,多少あいまいな役どころを作って,人間の愚かさを描くものですが,この小説でははっきりと,合衆国大統領,名前は「バーンズ」という架空のものですが,誰がどう読んでも,「ジョージ・W・ブッシュ」でしかありえない役が,如何に愚かな,如何に利己的な,如何に無慈悲な行為を繰り返してきたかを,本当にリアルに描きます.

イラクに大量破壊兵器(核爆弾)があるという,嘘の報告をねつ造し,それを大義としてイラクを攻撃したアメリカでした.
しかし,実際は,アメリカが欲しかったのは,莫大な埋蔵量を持つイラクの石油の利権なのです.
単に石油が欲しかったというなら,まだ米国の国益という大義も成り立つでしょうが,真の目的は?
ジョージブッシュはテキサスの石油一家の御曹司なわけです.
彼がイラク戦争を起こすことによって,先細りする米国内の石油資源の不足を,ブッシュ一族は心配することなく,将来にわたって確保でき,その利権で大もうけできることになったわけです.

それから,小説内で,進化した人類「ヌース」からあえなく爆殺される「チェンバレン副大統領」は,これまたディック・チェイニー副大統領のコピーですよ.
小説の中では,チェイニー,いやチェンバレンの一族の経営するエネルギー企業はイラク戦争における政府からの大量受注で大儲けしている.

これも,実際はチェイニー副大統領が世界最大の石油掘削機会社であるハリバートン社のCEOであり,イラク戦争後に巨万の富を得たことを揶揄していることは間違いない.
まず,進化した人類を殺すために,アメリカは,リモコン操縦の無人の爆撃ヘリを使うのですが,逆にハッキングされ,そのヘリが米国にいた副大統領を攻撃しててしまうのです.
その,爆殺シーンの後の文章が痛快であるので紹介すると,
「戦争で私腹を肥やした権力者は,自らの死体をもってアメリカ製殺戮兵器の優秀さを物語った.」

また,次の一節も同様.
「この史上稀にみる愚かな戦争を主導したアメリカの指導者たちは,いつか人生の終わりをむかえたとき,彼らが信じた神によって地獄に堕とされるだろう」 
この文章は,単なる小説のト書きではなく,高野さんの心からの怒りの発露に違いないものと思われます.

また,表題にもなっている,ジェノサイドは大量殺戮の意味です.

アフリカ大陸では,ザイールのフツ族とツチ族の対立が有名ですが,私などもその実態はよく知りませんでした.

この小説では,そのたぶん一部でしょうが,目を覆いたくなるような惨劇が描写されます.
小説で「目を覆いたい」というのはおかしいと思われるかもしれませんが,本当にそう思えるくらい,描写がリアルです.

人間の愚かさに関するエピソードはこれくらいしますが,その他にも,科学技術に関する最新の話題がてんこ盛りで,理系人間のcoollifeとしては本当にしびれます.

残念ながら,物語の中心テーマである遺伝学とバイオテクノロジーは私の専門外なので,「へー」としか言えませんが,IT技術に関するお話は専門に近くて面白かったです.

特に暗号解読に関する箇所は,ニヤニヤしてしまった.

そうなんですよ.

素数なんですよ.カギはね!

もちろん,専門知識なんか必要ありません.とにかく面白いです.

知的な好奇心を満足させてくれるだけでなく,コンゴの密林での手に汗を握る逃走シーンもすごい.
それから,ついにアフリカを出て,飛行機で逃げるとき,アメリカのF22ジェット戦闘機から,どうやって逃げるのか,ここはネタバレになるので控えますが,ここも,う~んと,うならされました.

また,ミステリーとしても面白い,進化した人類には意外な助っ人がいたのですが,これも読んでからのお楽しみ.

書きたいことは他にもいっぱいあるけど,是非直接読んでみて,その面白さを味わってください.

そうそう,この本を勧めてくれたのはお友達のもりちえさん.

ありがとうございました.

久々の星5つでした.


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