書く仕事

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「神はサイコロを振らない」大石 英司

2009年07月05日 18時33分42秒 | 読書


1冊の小説にこれほどまでにたくさんの人生を詰め込んだものがあっただろうか?

10年前に忽然と消息を絶った報和航空四〇二便YS‐11機.
必死の捜索にも拘らず,機体の破片ひとつみつからないまま,10年が経過したが...
そして10年後のある日、そのYS‐11は,突如羽田沖の空中に現れ,羽田空港に帰還した。
しかし六十八名の乗員乗客にとっては、時計は10年前のままだった.

戸惑いながらも再会を喜ぶ家族達.
しかし,乗客にとっては,単に機体のトラブルによる,一時的な着陸に過ぎなかった.

物語の設定は,一種のタイムトラベルものだから,SFですよね.
しかし,その中身は乗客一人一人と,その家族や恋人との壮絶な人生のるつぼでした.

乗客には,政治家,タレント,お笑い芸人,音楽家,そして謎の乗客ミスターX,自衛隊員,エンジニア,物理学研究者,そして,客室乗務員とパイロット.

一人一人が,仕事の苦悩,不倫の悩み,親への強烈な憎しみなど様々な荷物をしょっている.
それらが,10年後帰還してみると,さらなる苦悩へと変貌していることに愕然とする.
しかも,残された時間に限りがあることも明らかになる.

この物語は,死に面している人より,その人を取り囲む多くの人々にこそ,ドラマがあることを明示する.
死ぬ人は死ねばおしまい.
しかし,残された人は死んだ人の分も苦悩を背負い込まなければならないという悲痛な事実がさらされる.

読んでいて,楽しい本ではないかもしれない.

しかし,明日自分が死ぬとわかったときに自分に何ができるのか,さらに,自分の愛する人が明日死ぬとわかったときに,自分に何ができるのか?
考えて見ざるを得ない迫力がある.

考えたくないことですよね.

でも,それを突きつけてくる小説です.

読んでいて,痛みを感じる小説です.


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