奇妙な小説です.
いや,小説かな?
物語?
しかし,物語という呼び方もなんだかなあ?
物語って,誰かが誰かに語るものですよね.
この小説は,いったい,誰が誰に語りかけているのか?
語り手と聞き手が錯綜する多次元的な雰囲気.
しかし,そのような物語の「場」の異様さにも関わらず,不思議な感動がある.
非常にシュールな雰囲気を持った物語です.
出だしはホラー的ですらある.
でも,ホラーではない.
むしろ,純愛に近い,しかし,痛みを伴った純愛.
ストーリーを追いかけていく読み方も悪くはない.
面白さにやられて,一気読みでしょう.
しかし,できれば,場面が変わるごとにいったい,この物語は誰が誰に語っているのかを自分に問いかけてみると面白いかもしれません.
そして,最後は,やはりミステリーでした.
ミステリーといっても,犯人が誰かとか,動機は何かと類のミステリーではない.
そう,「誰」が「誰」に語りかけていたのかが,最後に明かされるのですよ.
騙されること自体が感動的な謎解きでした.