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歩くことが唯一の趣味ですから。

ゆいの森あらかわ

2023-08-05 | Weblog

先日(7月27日)東京新聞に目を通したら、作家の吉村昭の直筆展示をやっているというので後日いってみることにした。吉村昭の小説で最初に読んだのは『高熱隧道』だったと思う。今年の夏も高熱隧道のように暑いので、たくさん歩かないといけない場所なら涼しくなってからにしようと思って確認したら「ゆいの森あらかわ」という聞いたこともない謎の施設だった。

アクセスを検索すると都電荒川線の荒川二丁目停留場から徒歩1分らしい。熱中症の危険がある猛暑というか酷暑でも、1分ならギリギリセーフではないか。そう思って8月初めのある日、ゆいの森あらかわを訪ねた。どうやらそれは荒川区立図書館の美称であり、都電荒川線をさくらトラムと美称して何のことか理解できなくなるような一連のお役所仕事の過失らしかった。

吉村昭の書斎が再現されていた。荒川区立図書館を建て直す際、ゆいの森あらかわと称する図書館の2階と3階の一角に吉村昭記念文学館を設けて生前の書斎を再現したようだ。約6畳の書斎は天井まで達する書棚に囲まれ、窓に面した執筆用の長机には仕事の道具が整然と並べてある。吉村は毎日、朝食後に書斎に入り、18時ごろに執筆を終えて母家に戻ったというから書斎は離れだったらしい。

ちっこい字を書く人だな! 自分もちっこい字を書くけど、こんなにちっこくない。編集者生活25年のうち、自分よりライターとして腕がいいと思う人たちの書くメモは例外なく自分よりちっこい字だったのを思い出した。どうやら字がでかいのは取材執筆の能力に問題があるのかもしれないぞと、吉村昭の関東大震災メモを見物しながら考えずにいられなかった。

大正12年(1923)の関東大震災から、9月1日でちょうど100年になるという。東日暮里に生まれた吉村は、関東大震災を経験した両親から体験談を聞いて育ったので45歳のとき生存者の証言を集め、文献資料にあたって「関東大震災」の連載を始め、ちょうど50年前の昭和48年(1973)文藝春秋から単行本を出した。そのときの取材メモを50年後に展示する企画だった。

「新吉原遊廓仲之町猛火大旋風之真景」と題する石版画の帝都大震災画報をみると、大八車が猛火の旋風で宙に舞っている。吉村が『関東大震災』に記した小櫃政男、松木やすの証言と一致している。東京でまた震災が起きるのは確実らしいが、そのときは大八車のかわりに旋風でどんなものが宙を舞うのだろうか。

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