ギリシャ神話あれこれ:夫に化けられたアルクメネ

 
 子供の頃、女性を籠絡する一番賢いやり方は、そのパートナーに化けることだと知って、関心したことがある。化ける能力持ってないと不可能だけど。
 こんなの、避けられっこないじゃん。そーか、世の女性はみーんな神さまたちのものなわけね。なら、目立たずにいるのがベターってことかあ。……

 英雄ペルセウスの死後、その領土は息子たちに分け与えられた。このうち、エレクトリュオンの統治するミュケナイで、ポセイドンの血を引くタポス諸島の王プテレラオスとのあいだに戦争が起こる。
 この戦争で、王エレクトリュオンの息子たちはことごとく戦死。王自身、娘アルクメネの婚約者アンピトリュオンの過失によって死んでしまう。

 アンピトリュオンとアルクメネは、ミュケナイを追われてテバイへ亡命。ここでアンピトリュオンはアルクメネに求婚するが、彼女は、では兄弟の仇を討って欲しい、と答える。

 で、アンピトリュオンはテバイの王に応援を求めるのだが、王は交換条件を持ち出す。……実はこのところ、テバイは人肉を喰らう牝狐に荒らされて困っている。追いかけられても絶対に捕まらない、という妖狐なのだが、これを退治して欲しい。と。
 アンピトリュオンが義勇軍を募ったところ、ケファロスが、妻プロクリスがクレタ王ミノスから貰った、追いかける獲物を必ず捕まえる猟犬ライラプスを連れて参上。何者にも捕まらない狐を、何者をも捕える犬が追いかけ、とうとうゼウスが双方を石にして、この矛盾を解決する。
 オリオン座の連れている大犬座は、この猟犬ライラプスだともいう。

 こうしてアンピトリュオンは、テバイの援軍を得て、タポスの王プテレラオスを攻める。
 プテレラオスはポセイドン神から不死の力を与えられていたのだが、アンピトリュオンに恋をした王の娘コマイトは、父を裏切り、父の頭から不死の印である金髪の毛を切り取ってしまう。王は戦死し、アンピトリュオンはタポスを征服し凱旋する。
 ギリシャ神話には同じパターンを取る物語があるが、これは、敵王ミノスに恋して父を裏切った、ニソスの娘スキュレと同じ。

 さて。
 
 アルクメネの美貌は並々ならぬもので、ゼウス神はこれまで何度も彼女に言い寄っていた。が、貞節な彼女は一向になびこうとしない。そこでゼウスは一計を案じて、夫アンピトリュオンの凱旋前夜、当の夫の姿に化けて、彼女のもとへとやって来る。
 夫の姿に疑いもしないアルクメネは、導かれるままにベッドへ。こうしてゼウスはようやく想いを遂げる(わざわざ夜ニュクスに頼んで、夜の長さを引き延ばして、存分に交わったという)。う~む。
 翌日、本物の夫が凱旋し、アルクメネは仰天(盲目の予言者テイレシアスに、ゼウスの仕業と知らされる)。

 その夜、アルクメネは本物の夫とも交わって、月満ちて双子を産む。この双子のうち、ゼウスの血を引く子が、後に数々の冒険を繰り広げる、ギリシャ神話最大の英雄ヘラクレス。

 画像は、ヴァーガ「ジュピターとアルクメネ」。
  ペリーノ・デル・ヴァーガ(Perino del Vaga, ca.1501-1547, Italian)

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