甘酸っぱいということは(続)

 
 私のいた中学校では、公立高校に進学する生徒はほとんど、この高校へと進学する。私は、中学生のとき野球部の男子たちに受けた嫌がらせを、あまり気にしてはいなかったが、それでも彼らと関わる機会をそれ以上持ちたくなかった。だから彼らが追いかけてくることができないように、高校では進学クラスを受験した。
 高校の進学クラスには、昔の野球部員なんて一人もいなかった。私は彼らを断ち切ったのに、どうして今さら、野球部員のカスに声をかけられなきゃならないんだろう?!

 今、改めてオブーを眺めてみると、彼はあれから随分と背が伸びていた。野球部特有の坊主頭には、今ではふさふさと髪の毛が揺れていた。
 額が広く鼻が高くて、日本的な凛々しい顔立ちで、私の好みではないがハンサムと言っても通用する顔だった。

 昔のことさえなかったらね。私は相変わらず彼を無視して、校門のほうへとぶらぶら歩いた。

 だがオブーは、私の後から自転車をのろのろと走らせながら、なおも私に話しかけてくるのだ。
「俺、今から校門を突破して外に出るから、見てて、成功するように応援しててよ」
 はァ? なんで私が、あんたを見て応援してあげなくちゃいけないわけ? 

 けれどもオブーはやる気満々で、私を追い抜きがてら、「やっぱ、ガムやるよ。美味いよ、甘酸っぱくて」と、まだ未開封のガムの束を、いきなり私に投げてよこした。
 おい、ちょっと待て! ……が、私に拒否する隙を与えずに、彼は嬉々として、スイ~ッと校門まで自転車を走らせた。

 校門には教員が二人、立っていた。この高校は、その分、生徒の学力を伸ばすことに労力を使えばよいものを、ナンセンスな指導・管理にあれこれと力を裂いていた。で、昼休み、学校は生徒が勝手に外へと出て行かないよう、門番のごとく教員を二人、校門に立たせているのだった。

 To be continued...

 画像は、T.C.スティール「ベリーを摘む女」。
  セオドア・クレメント・スティール(Theodore Clement Steele, 1847-1926, American)

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