気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

意味なき指紋 長尾幹也

2005-11-12 22:11:26 | 朝日歌壇
犯罪をなさざりしかばおちこちに今日も残しぬ意味なき指紋

ひと月ほど死に近づけるわれと逢う理容店この大き鏡に

スキャンダルの見出しひしめく吊広告朝夜に仰ぐこの磔刑(たっけい)を

気がつけばトマトにしょう油そそぎいつひとりの敵に心占められ

夕の橋渡りきるとき水面の影とわたしは行きさき分かつ

(長尾幹也 朝日新聞11月12日夕刊)

*******************************

朝日歌壇の常連の長尾幹也氏の歌をまとめて読む。こうして連作を読むのは初めてじゃないだろうか。
今までから中年サラリーマンの悲哀を歌って来られて、それを単発では読んできたがまとめて読むとなおさら味わいが深い。
5首目。長尾さんはペンネームなのか本名なのか知らないが、歌人というもうひとつの顔を持つことで、より深い人生を歩むという意味だろうか。
それとも、毎日古い自分と別れながら生きているということだろうか。
いや、中年サラリーマンという像をデフォルメして提示していると読むのが、短歌的読み方だろう。
(画像は加茂大橋/井上 捷之さん撮影)

たそがれの水面を跨ぐ御影橋暮れてかたへの灯は枇杷のいろ
(近藤かすみ)