気まぐれ徒然かすみ草

近藤かすみ 

京都に生きて 短歌と遊ぶ

箸先にひとつぶひとつぶ摘みたる煮豆それぞれ照る光もつ

題詠マラソン2005(95~97)

2005-11-19 08:08:41 | 題詠マラソン2005
095:翼
暮れいそぐ空より降りて川の洲に器用に翼たたむ五位鷺

096:留守
居留守にもそろそろ飽きて日の残る小庭にしげる猫じやらし引く

097:静
風の野に揺るるコスモス目になじみ静かにわたしの秋が深まる

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題詠マラソンのお題で作ることがなくなって、ほっと一息ついているのか、そのまま出来なくなっているのか。
題詠という方法から抜けて、自分の感動そのものから歌を作る方向に行かんとあかんと思うこのごろ。宝の山のようなみなさんの歌を読めないまま、宿題を残しているような気分だ。
↓この歌の数字が間違っていたら、あとで変更します。

時すぎて読めぬ歌うたわれを待つ題詠マラソン三万六千余首
(近藤かすみ)

狐の牡丹

2005-11-18 21:42:51 | つれづれ
ミスしても死者が出たりはせぬ仕事、そう思うしかない冬晴れに

ふたりの子生みたる妻は湯に座る 運がよかっただけかもしれぬ

歌人の名は歌人が憶えいたるのみ狐の牡丹に昼の雨ふる

(吉川宏志 海雨)

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吉川宏志は教科書関係の出版社に勤めておられるらしい。
一首目。あとで気付いて正誤表を入れなければならないような厄介なことになったのだろう。だれにでもミスがあるとはいえ、仕事は仕事。どこかで人の命に関わっていないだけマシと言い聞かせる気持ち。この「、」と一字開けが効果を持つ。
二首目。一字開けで読者が息をつく分、ほっとさせ想像させるものがある。上句と下句の微妙な距離。
三首目。そうなんだなあ。マイナーであっていいはずはないんだけれど。
狐の牡丹はさみしい花だ。
(歌集の中でまとまって出されたものから、ちょいちょいと拝借するのは失礼かと思いつつ、心に残った歌につれづれにコメントしています。画像は花の名前小辞典さまからお借りしました)

インフルエンザの予防接種、いちおうしたものの効果はあるのだろうか。
安心料として一回3000円。

枯れ葉色シャツのひだり袖そで山のした十五センチあたり這ふ虫
(近藤かすみ)

海雨 吉川宏志歌集 砂子屋書房

2005-11-17 20:43:20 | つれづれ
紙相撲たおれるように冬の日は終わってしまう机の上に

幼な子を寝かせておれば天井は黒い田んぼのように下り来(く)

影の山ひなたの山に隣りつつ左京の町は冬に入りたる

(吉川宏志 海雨)

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近所の図書館にリクエストして買っていただいた「海雨」を読みはじめる。
吉川宏志さんは、同じ左京区の住人。
京都でも左京区の北の方は、河原町あたりよりずっと冷える。
影の山ひなたの山の歌は、加茂大橋あたりの風景だろうか。
きょうはもう冬の気配。

珈琲に重ねてチョコを食(たう)ぶればしみじみ美味し灯火したしむ
(近藤かすみ)

今日の朝日歌壇

2005-11-14 21:02:33 | 朝日歌壇
八階の大食堂に心地よく埋没をしてカツ丼を食う
(群馬県 小倉太郎)

ローズマリーの細き青葉を摘みてより森のかおりの秋にさまよう
(アメリカ 西岡徳江)

おかえりモズ・ヒヨドリお食べ無花果をわたしは夏の間に食べたから
(刈谷市 朝居た江)

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一首目。デパートの大食堂で昼食を取る営業マンを想像する。それとも年配の方だろうか。しがらみのある人がそばに居ないことは、ほっとすることだ。値段もそんなに高くない。ここはカツ丼という言葉が生きている。親子丼では、親子という言葉がべったりする。鰻丼では贅沢そう。カツのカタカナに活力を感じる。
二首目。綺麗なうた。下句はあっさりした表現なのに心に響く。漢字とひらがな、カタカナの配合もよい。
三首目。作者の鳥への暖かさが伝わる一首。おかえり、お食べという呼びかけが美しい。下句の「夏の間」という言葉使いが音調を整えている。また「われ」「私」なら、固い感じになるから「わたし」がベスト。

デパートの八階家族食堂の座敷わらしはプリンをたのむ
(近藤かすみ)

澳門 本多稜

2005-11-13 19:47:40 | つれづれ
鳩ひとつ頭にとまりゐて聖人のかほを染めたるしろたへの糞

運命は薄つぺらいぞ現金をプラスチックのチップに変へて

澳門よりキューガーデンに運ばれし草木と旅の仕方を想ふ

賽銭にまみれて亀の数匹が観音堂の甕に生きをり

(本多稜 澳門 短歌人11月号)

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本多稜さんは、注目の歌人。お仕事柄、マカオに出張されたときの歌だろう。
この澳門をすぐにマカオと読めなかった。高校時代、世界史はじめ社会科をさぼって過ごしたままで惜しいことをした。基本的知識が足りない(笑)

一首目。聖人像の顔に図らずもついてしまったものを歌って秀逸。初句を鳩一羽にすると漢字が続くので、ここは鳩ひとつにしたのかなあ。
二首目。カジノのチップの薄っぺらさと軽い言い方が符合して楽しい。
四首目。甕のなかの亀を見る目の冷静さ。
(画像はマカオの聖ポール天主堂跡)

時代祭行列すすむ京都御所たしか五時限目現代国語
(近藤かすみ)

意味なき指紋 長尾幹也

2005-11-12 22:11:26 | 朝日歌壇
犯罪をなさざりしかばおちこちに今日も残しぬ意味なき指紋

ひと月ほど死に近づけるわれと逢う理容店この大き鏡に

スキャンダルの見出しひしめく吊広告朝夜に仰ぐこの磔刑(たっけい)を

気がつけばトマトにしょう油そそぎいつひとりの敵に心占められ

夕の橋渡りきるとき水面の影とわたしは行きさき分かつ

(長尾幹也 朝日新聞11月12日夕刊)

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朝日歌壇の常連の長尾幹也氏の歌をまとめて読む。こうして連作を読むのは初めてじゃないだろうか。
今までから中年サラリーマンの悲哀を歌って来られて、それを単発では読んできたがまとめて読むとなおさら味わいが深い。
5首目。長尾さんはペンネームなのか本名なのか知らないが、歌人というもうひとつの顔を持つことで、より深い人生を歩むという意味だろうか。
それとも、毎日古い自分と別れながら生きているということだろうか。
いや、中年サラリーマンという像をデフォルメして提示していると読むのが、短歌的読み方だろう。
(画像は加茂大橋/井上 捷之さん撮影)

たそがれの水面を跨ぐ御影橋暮れてかたへの灯は枇杷のいろ
(近藤かすみ)

きのこならぶさ

2005-11-11 22:12:27 | つれづれ
奥山のきのこならぶさわが食へばたくさんの嘘いひしこと思(おも)ふ

またたびの木の実でさへもあきがきていろづくごとく老に入るらむ

(小池光 短歌人11月号)

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一首目。奥山のきのこならぶさ・・・の「ならぶさ」の意味がわからない。
ならは植物のコナラつまりドングリで、それが房になったように集まっていることだろうか。「きのこ(が)並ぶサ」という口語の軽い言い方ではないだろうし。
二首目。老境にさしかかる姿を歌ったものと思っていいんだろう。ネコ科の動物はまたたびに興奮するらしい。

だが50代ではまだまだ老に入らない。NHK教育テレビでアンチエイジングの番組をやっていて、つい見てしまう。若いことが良しとされて、若さに固執するのもしんどいが、やはり生き生きしていたいのは本音。きのうビデオにとった「パパイヤ鈴木のエンジョイダンス」では、おやじダンサーズ、OBAジェンヌが踊りまくる。
小池さん、老に入らないでどんどん過激に攻め続けてほしい。ご自分のことじゃあないですよね。言葉は言葉として読まないとね。(画像はマタタビ)

あかあかとライトアップに照らされて紅葉散るまで咲かねばならず
(近藤かすみ)

題詠マラソン(92~94)

2005-11-11 01:42:13 | 題詠マラソン2005
092:届
地に足が届かないから思ひきり膝で漕ぎます秋のブランコ

093:ナイフ
キッチンの抽斗ナイフの鞘だけが残り対なすナイフはあらず

094:進
前向きに進めすすめと励まされ死ぬまで生き生きワーカホリック

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マラソンの終わり近く、息切れしている。
しかし諦めないのも芸のうち。

クリップ

2005-11-09 22:55:39 | つれづれ
床の上にこぼれていたるクリップにとめられて小さき今朝のひかりよ
(早川志織 短歌人11月号)

さかさまに鞄をふればしろがねのゼムクリップ出づ泣けとばかりに
(伊波虎英 題詠マラソン2005)

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短歌人11月号同人1欄の早川志織さんの歌から、題詠マラソンの伊波虎英さんの歌を思い出す。クリップという身近なものを歌にしてこそ歌人。
題詠マラソン、注目している歌人の作品を一気に読めるチャンスなのに、なかなか読み進まない。私はあれもこれも手を広げすぎ。

青焼きのコピーのレジュメそのかみにさびて幾年ゼムクリップの
(近藤かすみ)

向日葵

2005-11-08 21:35:26 | つれづれ
みづからに咲かせし花の重たさに向日葵が影うつむきてゐつ

秋の陽のなかやわらかに影揺れて柵のむかうにきりんの母子(おやこ)

とほざかる傘の紫紺は雨のなかそれより長く忘れ得ざりき

(春畑茜 中部短歌10月号)

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縁あって、贈っていただいた中部短歌で春畑茜さんの歌に出会う。
なんとなくの想像だが、ある情景を思って胸が締め付けられるように感じる。こういう歌の読み方は邪道なんだろうが・・・

今月も〆切に間に合うように、しかし粘って詠草を投函。原稿用紙に清書してコピーするのだがいつも途中で気に入らずに何度も書き直す。切手を貼ったか、様を書き落としていないか、何度も確認する。
郵便事故のないことを祈って・・・あとは知らない。

くれなゐのポストの口から異界へと行きて帰らぬわたくしの歌
(近藤かすみ)