団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

カバンの中の怪奇現象

2015年10月01日 | Weblog

  地下駐車場に車を止めた。後部座席に置いたバッグを取る。後部ドアを閉めロックしようとしたとき、耳に会話のような人の声のような音が飛び込んできた。辺りを見回す。誰もいない。駐車場はいつものように静まり返っている。ここに住んで10年になるが、駐車場で人に会ったことはほとんどない。駐車場から集合住宅の上部階が見える。どこかの家のベランダで人が話しているのだろう、と思った。しかしそれにしても音はどうにも変な音なのだ。話しているのとは違う。人間の声であることは確かなのだが。

 凶悪事件が日本のあちこちで起こっている。この駐車場は左右2箇所に出入り口があり、住民各自が所有するリモコンで開け閉めする。以前管理組合の理事になった人々が駐車場の出入り口ゲートの片方を開けたままにすると決めた。私は猛烈に反対した。実施するなら理事全員で何か事件が起きたらその責任を負うと言う誓約書を作成してからゲート開放を実施するよう訴えた。他にも反対する住民がいて結局それは廃案となった。それ以後近くで殺人放火事件も起き、町全体に警戒ムードが拡がった。マンション管理会社も駐車場ゲートの閉め忘れや各家のドア窓の戸締りの注意喚起を書面で配布した。それでも時々駐車場を開けたまま外に出てしまう住民はいる。

 今回異音に過度に反応したのも埼玉県熊谷市の住宅街でペルー人の男が3軒の住宅に侵入して6人を次々に殺した事件があったからだ。ネパール、セネガル、旧ユーゴスラビア、チュニジア、ロシアで暮らした時、周りにいつも人がいた。当時はそれを煩わしく感じた。今になって思えば、周りに大勢の目があったのは防犯上役に立っていた。今住む日本の家のようにほとんど他住民と顔を合わせることもなくひと気を感じないのは不気味でさえある。治安の悪い国では警備会社と契約して警備員を雇ったこともある。ネパールで泥棒に入られた時は日本から連れて行ったシェパード犬が子犬だったので役に立たなかった。セネガルでは親娘の2匹のシェパードが鉄壁の守りをしてくれた。

 他人の目を気にしないで静かに生活できるのは望むところだ。一方あまりに閑散としていると身に危険を感じてしまう。最近の人口減少のせいか、不景気のせいか、映画館、スーパー、駅、デパートのトイレで他に誰もいないと不安というより恐怖を感じる。静かで他の住民と隔離された環境に慣れてしまった。この集合住宅の階段は踊り場で向きが逆になる。上から降りてきた人と下から上がって来た人が踊り場で鉢合わせする。「キャッ」とか後ずさりする。私も相手を驚かせ、自分でも冷や汗をかくほどびっくりする。

  私は小心者である。その上おっちょこちょいときている。しばしば自分で自分をドッキリさせている。今回も御多分に洩れずヘマを犯した。時間をかけてやっと究明した。いつも持ち歩いている肩掛けカバンの外側ポケットに入れてある録音機のスイッチが突然入ったのだ。忘れっぽい私はメモを取り録音機を使っている。「この電車桜木町行きとなっていますが、本日は東神奈川止まりとさせていただきます・・・」 電車の車内放送だった。人気のない駐車場、コンクリートの壁にこだまする車掌独特の節回しの車内放送。原因がわかっても不気味であった。気が抜けた。

  相も変わらずこうして心臓が悪い私はハラハラドキドキと自業自得の日々を送っている。


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