団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

ひきわり納豆

2020年08月07日 | Weblog

 我が家の朝食に納豆は欠かせない。海外で暮らしていた時、どんなに食べたくても、よほどのことがない限り、食べられなかった。日本に帰国してからは、いつでもどこでも納豆を手に入れることができる。

 土日や妻が休みの日は、一緒にメモを片手に買い物する。納豆売り場には驚くほど多種多様な納豆が並べられている。それはまさに海外で夢見た光景である。妻が選ぶ納豆と私が選ぶ納豆は異なる。妻の選んだ納豆の中に『ひきわり納豆』が含まれる。私は豆が中粒でゴロっとしたものを好む。お互い違う家に生まれ、育って結婚して一緒に生活している。好みや価値観など違って当たり前だ。

 私が子供の頃、納豆の包みは三角形だった。確か“ヘギ”と言ったと思うが、木を紙のように薄く削ったものにくるまれていた。量も現在の発泡スチロールの容器に入ったものの3,4倍は入っていた。我が家では刻んだネギをたくさん入れ醤油もたっぷりかけて量を増やして家族6人に行きわたるようにしていた。ごくごくまれに生卵が入ったひにゃ、朝から食欲全開で我先にと、どんぶりから取り分ける母ちゃんの顏近くに皆がご飯茶碗を差し出したものである。手元に引き寄せた茶碗を見る。黄身と白身の割合をはかる。他の家族の茶碗を覗き、自分の茶碗の黄身、白身の比率と量を見る。一喜一憂して賑やかに朝食をとった。ほっぺが落ちそうなくらい旨かった。食べるものを選べる時代ではなかった。今の選択肢の多さには戸惑うこともある。

 ひきわり納豆が出た朝、私は疑問を持った。ひきわり納豆は、はたして製造前に大豆を切り刻むのか、それとも発酵させて製品化してから刻むのか。友人のN君は、発酵や醸造の研究者で大学教授でもあった。今までにも彼に多くの疑問を解いてもらっている。何事においても、私の良き相談相手である。さっそくメールで今回も尋ねてみた。温厚な性格で優しい彼なら、きっと私でも理解できる答えをくれると思った。

 私の質問:一つ疑問ですが、納豆の刻み納豆は、刻んでから発酵させるのですか、それとも発酵した納豆を刻んでいるのですか?今朝我が家で珍しく刻み納豆を食べたので、疑問がわきました。いつか答えを教えてください。(この時点で私は、刻み納豆とひきわり納豆の区別もついていない)N君の答え:先日の納豆の件も。以前はひきわり納豆でしたが、最近、それよりさらに細かくしたものをきざみ納豆としているようですね。ひきわり納豆は粒を破砕して、きざみ納豆は、ひきわりよりさらに細かく破砕したものに、粒納豆と同様納豆菌を噴霧して増殖させたものです。大豆の処理が異なるだけで発酵方法は同様です。ただ、破砕すると、当然粒大豆の場合より表面積が大きくなりますから、納豆菌の増殖量が異なります(破砕したほうが増殖量(菌数)が多くなります)。そのため、食感はもとより、発酵により生ずる成分量も少し異なる可能性があります(もちろん使われている納豆菌の種類により異なりますが。ひとくちに納豆菌といってもそれぞれ少しずつ性質の異なる菌株がありますので、会社により味も香りも異なることになります)。

 幼稚な私の質問にN君は懇切丁寧に返事をくれた。私は質問の多い人間である。でも誰に尋ねるかを決めるのにたけている。そして金持ちにはなれなかったが、時間持ちと良い友達持ちになれた。何か疑問を持った時、これは誰に尋ねようかとまず決める。答えをもらって後悔したことは少ない。それが私の人生の自慢である。

 コロナ禍で気が滅入る。そんな中、簡潔明瞭なN君の優しく聡明な答えに救われた。テレビに映る国や県のお偉方のコロナに関する記者会見での質疑応答を観ていると苛立つ。なぜなら“心”と“科学”のバランスも自身の中でとることができない、肩書だけの存在に自分を賭けている救いようのない目立ちたがり屋にしかみえないからだ。テレビに出まくる専門家しかり。世界中の人の目に触れることもない所で納豆のように粘り強くコロナと日夜懸命に闘う人々がいる。私は、その人たちに、このコロナ禍から私たちを救出してもらうことを期待している。

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