9月26日6時半、毎週土曜日観るのを楽しみにしているテレビ番組が始まる。『満天 星空レストラン』である。最近私は、ほとんど新聞のテレビ欄を見ない。つまらない番組が多くて、テレビを観たくない。だからよほどのことがないとその日の特集が、どこの何なのかは知らないで観る。26日は、北海道のサケの特集だった。北海道の標津(しべつ)である。
サケ漁船が港を午前2時半に出て、標津川の河口に設置してある定置網に向かう。漁は9月から11月まで続くという。サケは、川上で誕生し、海に戻り、4年間海を回遊して過し、生まれた川に産卵のためにオスもメスも戻ってくる。戻ってくる率は、わずか4%である。サケは、河口に集まり、遡上の時期を調節する。その時期に獲るサケにしか商品価値はない。一旦遡上に入ってしまえば、サケは、オスであろうがメスであろうがボロボロに成り果てる。急流の流れに逆らい、石ころだらけの水の中をただひたすら川上に向かう。多くの河川には、橋、ダム、堤防、堰などの人造物がある。テレビ『満天 星空レストラン』では、その標津川の河口近くの海に設置された定置網を上げる様子が映し出された。りっぱなきれいなサケである。それもそのはずである。これから遡上するというので、栄養もたっぷり蓄えている。サケは本来白身の魚である。けれど成長の過程でだんだんに遡上産卵に備えて、長い時間アスタキサンチンを蓄える。これがサケの身を赤く見せる。このアスタキサンチンは、痴呆防止の効果があるといわれている。
テレビの受信が地デジになったせいか、画面が実物のようである。獲ったサケのメスの腹を割くと、筋子が出る。その筋子を網の上に置いて、軽く上から押す、筋子がバラバラになり赤く輝くイクラになって下のボールに落ちる。パラパライクラが落ち、テレビを観ている私の目からもポロポロ涙がこぼれる。鼻水がツーッと流れ始める。私は、突然サハリンの原野に戻った。リンさん(『サハリン 旅のはじまり』拙著参照)と行った北サハリンの名も知らぬ川でサケの遡上を見た日に戻っていた。長い時間川端に二人で並んで座り、1匹のメスに5,6匹のオスが迫る光景を見ていた。リンさんが、サケの腹から獲った筋子から見事な手さばきで、ボールにイクラにして溜めた。そこに塩を入れガーゼにいれ素早く攪拌する。一粒一粒がキラキラ光るイクラになった。それを中国や韓国から輸入した米を炊いて、ご飯の上にのせて食べる。ただそれだけのことだが、遡上を観た後のイクラご飯は、正直私の気持を重くしある種の罪悪感を持った。でもリンさんは、「美味しいですか?」と私に尋ね、私は「はい、とても美味しいです」と答えた。リンさんは、嬉しそうに微笑んだ。生きる厳しさを心底知っている者への、自然からの褒美に思えた。私のような軟弱な生き方をしてきた者には、まったく似合わない食事だった。それでもその場にいることを誇らしく思った。『満天星空レストラン』を観ている間、サハリンへタイプスリップしていた。
番組が終わった後、テレビを消して、サハリンで妻が経験できなかった鮭の遡上の物語を話した。
サケ漁船が港を午前2時半に出て、標津川の河口に設置してある定置網に向かう。漁は9月から11月まで続くという。サケは、川上で誕生し、海に戻り、4年間海を回遊して過し、生まれた川に産卵のためにオスもメスも戻ってくる。戻ってくる率は、わずか4%である。サケは、河口に集まり、遡上の時期を調節する。その時期に獲るサケにしか商品価値はない。一旦遡上に入ってしまえば、サケは、オスであろうがメスであろうがボロボロに成り果てる。急流の流れに逆らい、石ころだらけの水の中をただひたすら川上に向かう。多くの河川には、橋、ダム、堤防、堰などの人造物がある。テレビ『満天 星空レストラン』では、その標津川の河口近くの海に設置された定置網を上げる様子が映し出された。りっぱなきれいなサケである。それもそのはずである。これから遡上するというので、栄養もたっぷり蓄えている。サケは本来白身の魚である。けれど成長の過程でだんだんに遡上産卵に備えて、長い時間アスタキサンチンを蓄える。これがサケの身を赤く見せる。このアスタキサンチンは、痴呆防止の効果があるといわれている。
テレビの受信が地デジになったせいか、画面が実物のようである。獲ったサケのメスの腹を割くと、筋子が出る。その筋子を網の上に置いて、軽く上から押す、筋子がバラバラになり赤く輝くイクラになって下のボールに落ちる。パラパライクラが落ち、テレビを観ている私の目からもポロポロ涙がこぼれる。鼻水がツーッと流れ始める。私は、突然サハリンの原野に戻った。リンさん(『サハリン 旅のはじまり』拙著参照)と行った北サハリンの名も知らぬ川でサケの遡上を見た日に戻っていた。長い時間川端に二人で並んで座り、1匹のメスに5,6匹のオスが迫る光景を見ていた。リンさんが、サケの腹から獲った筋子から見事な手さばきで、ボールにイクラにして溜めた。そこに塩を入れガーゼにいれ素早く攪拌する。一粒一粒がキラキラ光るイクラになった。それを中国や韓国から輸入した米を炊いて、ご飯の上にのせて食べる。ただそれだけのことだが、遡上を観た後のイクラご飯は、正直私の気持を重くしある種の罪悪感を持った。でもリンさんは、「美味しいですか?」と私に尋ね、私は「はい、とても美味しいです」と答えた。リンさんは、嬉しそうに微笑んだ。生きる厳しさを心底知っている者への、自然からの褒美に思えた。私のような軟弱な生き方をしてきた者には、まったく似合わない食事だった。それでもその場にいることを誇らしく思った。『満天星空レストラン』を観ている間、サハリンへタイプスリップしていた。
番組が終わった後、テレビを消して、サハリンで妻が経験できなかった鮭の遡上の物語を話した。