団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

セカンドライフ問題 さぶちゃんのこと

2007年06月01日 | Weblog

さぶちゃんが92歳で死んだ。

東京の大会社の社長だったさぶちゃんは、老後を生まれ故郷で送ろうと奥さんと帰ってきた。さぶちゃんは戸惑った。ずっと田舎で暮らしてきた人達とどうもしっくりいかない。村一番、面倒見の良い、お人好しな欣ちゃんは、さぶちゃんの家の裏に住んでいる。欣ちゃんは、さぶちゃんの戸惑いを見て、提案した。「さぶちゃん、家からお宮までの道を毎朝、まだだれも起きないうちに掃いてみな。2.3箇月すればみんなさぶちゃんの友達になるよ」

 

欣ちゃんの言ったとおりになった。村の人達は、さぶちゃんがずっとその村にいたかのように、接するようになった。それからのさぶちゃんは、村人のよき相談相手となり、東京での経験を活かすことができた。さぶちゃんは、いろいろな相談にたいして的確にアドバイスした。

 

さぶちゃんの家には田畑はもうなかった。でもいつも野菜、果物、米が季節季節にたくさん届いた。さぶちゃんは、東京で食べたこともない美味しい三度の食事を毎日奥さんと楽しんだ。

 

欣ちゃんが埼玉のマラソン大会で走っていて心不全で急死した。そのあと、さぶちゃんも病気になった。寝たきりになってしまった。さぶちゃんの部屋から夕日が良く見える。さぶちゃんは孫の夏休みの宿題『日の出と日没しらべ』を手伝った。孫が東京に戻っても、さぶちゃんは部屋から見える日没の記録を自分で描いた図に書き込んだ。いつしか夕日に手を合わせるようになった。「欣ちゃん、ありがとう。おかげで良いセカンドライフを故郷で過ごせたよ。そろそろそっちへ行ってもいいかな」

 

さぶちゃんは大往生だった。眠ったまま死んでいった。

 

 

 

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