昨日、MRIや胃カメラの検査を受けるために東京の病院へ行った。胃カメラの検査は、胃を空にしておかなければならい。朝食は抜きだった。糖尿病で恐ろしいのは、低血糖になることだ。食事に制限が多いのに、食べなければ食べないで、低血糖になる。考えてみれば、その関係は理解しがたい。低血糖状態に陥った経験がかつて何回かある。冷や汗が出て、意識もうろうとなって全身から力が抜ける。へたをすると命に関わる。ということで、妻の通勤時間に合わせて、付き添ってもらうことにした。
世界には、満足に食べ物を口にできない人が大勢いる。たった1食検査のために食事を抜くだけで、こんなに大騒ぎすることを情けなく思う。腹が空いていると、私は不機嫌になる。不機嫌になると妄想力が暴走する。電車の中で、妻が毎日こうして通勤している一部始終を体験しているのだと、感心して感謝の気持ちになった。一方、もし胃カメラで胃癌が見つかりでもしたら…と不吉なことを考えて落ち込む。東京で妻と別れた。
病院に到着した。これで何が起こっても安心。受付をした。まずMRIの検査。狭い着替え室で、壁にぶち当たりながら、病院の検査用のパジャマのような服に着替えた。まるで核シェルターのような検査室に入る前に、生ビールの中ジョッキぐらいの容器に入った造影剤を飲んだ。朝起きてから水も食べ物も口にしていなかったせいか、まるで砂漠で水に出会ったように、ゴクゴクと飲んでしまった。MRIのジェット戦闘機のコクピットのような装置の中に上向きで横になって押し込められた。検査が始まった。耳を被ったヘッドフォンから、削岩機のドリルのような「ドッドドドドドッドドド」。人の声で「息を吸って、吐いて、はい、そこで止めて」の繰り返し。約20分で終了。
着替えて、次は腹部超音波検査に向かう。子供の頃、人に体を触られると、くすぐったくてゲラゲラ笑ったものだ。検査はゼリーを塗って、その上から探触子を当てる。歳のせいか少し痛いだけで、まったくくすぐったいと思わない。これも20分くらいで終わった。
いよいよ胃カメラ。一番心配な検査。胃カメラで胃癌が見つかったら…。私の親族、祖父、叔父、胃癌で亡くなった者が多い。私は、彼等が亡くなった年齢を超えている。小さな紙コップに入った、胃の中の泡を消す薬とかを飲む。喉に麻酔を噴霧。腕から鎮痛剤を注入。口にマウスピースのような胃カメラを差し込む挿入口を入れた。ウトウトしてしまった。気が付くと終わっていた。麻酔と鎮痛剤でフラフラしながら休憩室のソファに座り込んだ。
主治医の診察を受けるころは、すっかり元に戻っていた。妻が朝準備してくれたオニギリを2個ペロッと食べた。美味い。食べ物はいい。水も妻が水筒に入れてくれた。ゴクリと飲む。喉や胃に違和感があるが、終わったという安堵感はそれ以上だった。
主治医の診察。受けた検査の結果を聞いた。胃カメラで撮った23枚の写真を見せてもらった。感動。自分の胃の内部を見られるとは。私が生まれて今日まで、胃は、黙々と私の食べ物の消化を担当してきた。その75年の働きに老化がみられるものの、まだ大丈夫そうに見えた。嬉しかった。もう少し生きられそう。
電車で帰宅。電話が鳴った。妻が駅から電話してきた。私は寝込んでしまっていた。正直、東京の病院に行くのは疲れる。バスで妻が帰宅した。私は、ゴメンと謝った。妻は「今日はご苦労さま」とだけ言ってくれた。