団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

爪の手入れ

2023年02月06日 | Weblog

ネットフリックスで観ている『警部ダリオ・マルテーゼ』の中の場面。ダリオが捜査である理髪店を訪ねる。そこで働く美容師の女性を調べるためにその女性を指名して椅子に座った。女性が尋ねた。「爪のお手入れをしますか?」

 私は、以前経験した恥ずかしかったことを思い出した。13年間海外で暮らした。帰国すると多くの事が変わっていた。テレビなどで『ネイルサロン』という言葉がよく出て来た。私は、子供の頃から、爪切りが苦手だった。よく深爪した。甘皮を強く剥きすぎて、血をだした。ササクレもよく手で取ろうとして、数日痛い思いをした。歳をとるにしたがって、体が曲がらないのと、目が良く見えないので足の爪切りに苦労していた。『ネイルサロン』に行けば、きっと専門の人が、爪の手入れをやってくれると思った。その頃、耳の掃除なども流行っていたので、爪の手入れもあるのだろうと思った。ある日、ショッピングセンターで『ネイルサロン』を見かけた。時間もあったので入った。私がサロンの中に入ると、中にいた人たちが一瞬固まった。女性ばかり。一人の体格の良い女性が「何の御用でしょうか」と言った。私は、「爪の手入れをしてもらいたいので…」と言った。女性は、私の頭からつま先まで目を這わせた。目はまるで宇宙人に遭遇したかのようだった。「すみません、うちの店は女性だけなんですが…」 恥ずかしかった。今でこそ男性も化粧したり、肌の手入れだ徐毛だと盛んになっている。爪の手入れも都会では結構専門の店があるようだ。

 以前九州かどこかの老人介護施設で、入居していた老人たちの爪を剥がすという虐待があった。老人介護で大変なのは、排泄や入浴の世話だと聞く。髪の毛も爪も歳をとっても成長を止めない。自分でできなければ、誰かが代わりにやらなければならない。介護は、大変な仕事だ。いやいや介護の仕事をしていれば、虐待する可能性はでてくる。

 英国の紳士は、身だしなみに気を遣うと聞いた。確かに英国の百貨店などで見た爪、鼻毛、髭剃りなどの道具は、良く考えられた使いやすいモノがたくさんあった。私も50年以上前に香港で買った英国製の爪の手入れセットを未だに使っている。私がどんなに英国紳士の真似をしようと思っても、無理だと分かっている。ただ身だしなみは、できるだけ良くしていたいという願望は強い。

 昨日の日曜日、前回に続いて、妻に足の爪の手入れを要望した。恐る恐る前回足の爪を切ってもらったのだが、なかなか巧く痛くもなかった。散歩を終え、午後に早い風呂に入った。まだ外は明るかった。窓際に椅子を出した。足の下に座布団を置いた。妻は、英国製の手入れセットから道具を選んで、慎重に手入れを進めた。爪の中のゴミをかきだす道具。少し肌に食い込んだ爪を起こす道具。固い爪を切る道具。甘皮を切る道具。甘皮や爪の周りの皮膚を押し込む道具。妻は、私にいろいろ解説しながら作業を進める。「ほら、ここにゴミが入っている」「見て、こんなにきれいに切れた」 残念ながら私の目から遠すぎて見えない。椅子に腰かけ、脚をまっすぐ窓際の桟に出しているので、体を曲げられない。

 爪の手入れを終えた。妻は、爪にも乾燥肌にも良いと尿素入りのクリームを丁寧に塗り込んでくれた。窓の外から差し込む陽ざしが、妻に当たって後光のようだった。


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