団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

うつむき加減

2022年08月29日 | Weblog

  暑さを避けて、このところ朝5時に家を出て、散歩をしている。

  コロナ感染者数は、世界で日本が今、一番多いとか。いったいいつになったらコロナ前の生活に戻れるのか。先日、妻が銀行行くと言うので、車に乗せて行った。銀行の用事を終えて、銀行の近くの魚屋で買い物を済ませた。駐車場から車を出して、裏道から本通りへ出ようとした。一旦停止の線で止まった。右を見た。車が止まって、運転手が私に向かって、出るよう手で合図してくれた。私は、左を見ることなく、車を発進させた。隣の助手席の妻が「アブナイ」と叫んだ。咄嗟に、私は、ブレーキを踏んだ。車の前に女性が目を大きく開いて、車の直前から飛びのいた。女性は、私を睨みつけて立ち去った。全身から力が抜けた。もしもあの時、ブレーキを踏まなかったら…。もしあの時、ブレーキとアクセルを踏み間違えていたら…。私は、書斎でパソコンを使う時、バランスボールを椅子代わりにしている。先日、座った時、ボールから尻が滑って、床に落ちた。全身と支えようとした手に痛みがあった。テレビを観ていても、アナウンサーやドラマや映画の登場人物が話していることを聴きとれない。妻が話しかけても、聞き取れないことが多い。妻は、都合の悪い時は、聴こえないと言い、自分の悪口は、良く聴こえると言う。

  散歩しながら、最近起こったことを反芻してしまう。人生を否定的に捉えている。だからどうしてもうつむき加減になる。散歩途中、他人とすれ違う時、相手がマスクしていても、下を向いてしまう。先日、いつものようにうつむき加減に道を歩いていた。歩道の上に緑色の虫が5,6匹転がって死んでいた。何なのだろう。何故この数の虫が、ここで死んでいるのだろう。それも全て同じ種類の虫が。立ち止まって考え込んだ。虫は、茶色の柱状のモノの周りに散らばっていた。もしやと思って、見上げた。茶色の柱状のモノは、街灯だった。確か多くの昆虫は、夜、光に集まると習った。光に集まった虫が、力尽きて落下したらしい。うつむき加減で散歩していた。上を見ること、遠くを見ることを避けていた。坂本九の『上を向いて歩こう』を思い出す。そうだ元気出そう。私は、久しぶりに空を見上げた。♪幸わせは雲の上に 幸わせは空の上に 上を向いて歩こう♪ 散歩コースの坂を登り切って、下り坂に向きが変わった。東の空が、赤く染まっていた。美しかった。

  土曜日、妻と一緒に5時過ぎから散歩した。先日、緑色の虫が5,6匹落ちていた同じ場所に、私が大好きなタマムシが落ちていた。すでに無数の蟻が集っていた。私は、タマムシをつまみ上げた。そして息を強く吹きかけて、蟻を飛ばした。妻にティッシュをもらって、丁寧にタマムシを包んだ。私のポケットにその包みを、優しく入れた。妻は、私の行動を不可解という顔をして見ていた。

  家で昆虫図鑑を開いて、緑色の虫を調べた。どうやらアオカナブンらしい。アオカナブンも緑色だ。でもタマムシとは違う。タマムシの美しさは、言葉で言い表せない。諸々の嫌なことも、ひとり静かにタマムシを包んだティッシュを開けて見ていると、別の世界に入り込める。うつむき加減で生きるのをやめよう。コロナになんか負けない。上を向いて歩くぞ。


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