団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

最低賃金

2022年08月03日 | Weblog

  8月1日厚生労働省の中央最低賃金審議会の小委員会が、全国加重平均で31円(3.3)最低賃金(自給)を引き上げて961円とする目安を発表した。

 

 私は、最低賃金という言葉に強い拒否感を持つ。この制度の意義も目標も知らない。拒否感は、おそらく“最低”という言葉が原因だと思う。私の過去の経験が影響している。テレビのニュースの画面に厚生労働省の小委員会の会議の模様が映っていた。まず私は、この委員全員のこの会議への参加報酬を知りたいと思った。とても961円とは思えない。テレビでニュースを読み上げるアナウンサーやワイドショーの司会者やコメンテーターが、「最低賃金」と口にするたびに違和感を持った。あなたたちの時給はいかほど?現在日本で、どれほどの人が最低賃金で働かなければならないのか。新聞もテレビもラジオもネットのニュースも、私が知りたいことを伝えてくれない。

 

 私は、中学生の時、オープンリールの録音機が欲しくて2年間、新聞配達をした。100軒くらいの配達で月千円くらいだった。ある日、配る新聞を自転車に残して、狭い小路の奥の家に新聞を届けた。帰ってくると自転車が倒れていて、新聞が道路わきのドブに落ちていた。新聞販売店に戻って新しい新聞と交換した。2カ月間配達料がなかった。天引きされたのだ。高校生の時、カナダの高校に転校留学した。1ドル360円の時代だった。夏休みに学校に残って仕事(窓のガラス取り替え、花壇の手入れなど)をすると次年度の学費寮費が免除された。学校が始まっても希望者は、学校内で数時間に限り、時給25セント(当時のレイトで約120円)で働くことができた。外国人で働けるビザのない私には、選択の余地はなかった。

 

 セブンイレブンやマクドナルドやケンタッキーの店に行くと、アルバイト募集の貼り紙を見る。「時給1030円」などと書いてある。中央最低賃金審議会の961円より上だが、決して魅力的な時給ではない。日本の給料は、この20年間上がらないと言われている。デフレが長く続いて、日本の経済力は、下がる一方だった。IT企業の創業者のだれだれの、タレントのだれだれの年収が何億円だ。コロナによる政府の援助金の不正受給で億単位を稼いだ。こんなニュースが、飛び交う中、最低賃金が31円引き上げられて961円になったというニュースが流れる。

 

 私の父は、尋常小学校に2年間しか行かせてもらえず、宇都宮の羊羹屋の丁稚に行かされた。賃金などなく、お盆と正月しか休みがなかった。毎日食べさせてもらえるだけで、朝早くから夜遅くまで働かなければならなかった。最低賃金と聞くと、父の丁稚や私が経験した新聞配達を思い出してしまう。時代は変わらない。人が嫌がる仕事、人が見下す仕事ほど賃金が安い。苦しい生活から、神頼みで宗教に入れば、また別の搾取がある。今の社会が、決して公平で平等だとは、思えない。

 

 アメリカやカナダで見た、チップのある社会を羨ましく思う。残念ながら日本には根付いていない。日本やアジアの国々で、チップには邪な意図が見え隠れしている。若者たちが、将来に夢を持って、安い賃金の職に就いても、正当に働いていれば、チップがもらえる仕組みがあるといい。それができない今の日本には、何か欠けている。国家に頼らず、庶民同士の相互扶助は、見ていて美しい。

 


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