団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

鯖の干物

2020年08月21日 | Weblog

  友人がその朝釣りたてのサバを2匹届けてくれた。友人にどう食べたらよいか尋ねた。彼はこれから自分でシメサバにするという。思わず唾を飲みこむ。シメサバ!美味いシメサバが食べたい。私の妻は、酢が苦手。私はシメサバが好きだが、まさか自分だけシメサバを食べるわけにはいかない。市販されている魚の干物は、買わない。市販のものは、塩分が強すぎる。自分で塩加減して作ればいいのだが、手がかかりすぎるので敬遠してきた。

 友人のおかげで、コロナ巣ごもり老人に飛び入りでやることができた。異例の長い梅雨、1カ月くらい、来る日も来る日も雨だった。雨の日は散歩しない。気持ちも塞ぐ。梅雨が明けたら、今度は猛暑。あまりの暑さで、晴れても散歩ができない。雨が降れば、雨を理由にする。猛暑だと、暑さを理由に散歩に出ない。テレビやラジオで「60歳以上、特に70歳以上の高齢は、コロナと熱中症に気をつけ…」と連呼する。どうせそうでしょうよ。私は、“特に”が付く70歳以上の73歳コキゾウだ。雨だ、暑さだ、コロナだの生活が私のやる気と明るさを削ぐ。そんな退屈で非生産的な日常に鯖の干物づくりが降ってわいた。

 鯖を出刃包丁でエラと内蔵を除き、2枚におろした。塩をたっぷりまぶして15分放置。氷水の中で塩を洗い落した。紙タオルで優しく水分を拭き取る。ザルに鯖を並べる。ベランダに強い陽ざしがある。直射日光がまんべんなく当たる場所を選ぶ。後は太陽光が鯖の旨味を凝縮してくれる。長く干せば良いというものではない。私は干す時間を30分と決めている。今日作って今日の夜食べる。産地直送で食卓に上がる。

 本当なら、以前何かの雑誌で読んだようにしたい。それは日本人作家がフランスのパリに住み、日課で魚市場へ行き、魚を買って、屋根の上で読書しながら蝿を追って半日かけて干物にして、夜晩酌の肴にしたとあった。私はそういう生活に憧れていた。セネガルで真似をした。日本から持ち込んだ干物用ネット(5,6段の棚が青い網に覆われたもの)に市場から買って来て下ごしらえした魚を並べた。セネガルは赤道直下に近い。強烈な陽ざしがパリより旨い干物を作ってくれると期待した。中庭の陽当たり抜群の洗濯物を干すヒモにネットをかけた。しばらく経って様子を見に行った。青いかったネットが見当たらない。目を凝らして探した。あった。ネットは、全体が玉虫色に光り輝いていた。近づいて見た。蝿。何千匹いや何万匹という銀蝿がネットを覆いつくしていた。追っても逃げない。まったく『王様気取りの蝿』だった。干してあった魚はすべて捨てた。なぜなら目に見えなくても魚には、間違いなく銀蝿からバイキンが落ちている。とにかく病気の多い場所だった。それ以後2度と外に魚を干すことはしなかった。

 日本人作家のパリの干物の話、セネガルの干物づくりを思い出しながらベランダを家の中から見張った。30分にセットしたタイマーが鳴った。ベランダに出た。ムッと熱気が襲う。床に虫が仰向けになってもがいていた。手でつかんで上向きにすると元気よく飛び去った。虫にも過酷な暑さなのだろう。ベランダの端に干した洗濯物がヒラヒラと風にそよいでいた。長雨が続いた頃、洗濯物を干すのに苦労した。猛暑も悪いことばかりでない。新型コロナウイルスって太陽光で干物にできないものか。

 夜、帰宅した妻と鯖の干物で晩酌した。届けてくれた友人の顏が浮かんだ。

 


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