嘘つきがまかり通る。川崎の中学生殺人事件の容疑者の3人(A18歳B17歳C17歳)の少年たちの供述、中川郁子農水政務官(56歳)と門博文衆議院議員(49歳)の週刊誌報道に対する釈明、国会議員の不正献金事件の各被疑議員の釈明、青酸化合物による連続殺人事件で、京都と大阪の男性2人を殺害したとして起訴された筧(かけひ)千佐子被告(68)の逮捕前のテレビでのインタビュー。みな嘘を平気でついた。詩人谷川俊太郎は「嘘は本当とよく混ざる。本当は嘘とよく混ざる」と言った。「オレオレ詐欺」もいっこうに収まる気配がない。一流の詐欺師は本当のことを9、嘘を1の割合で混ぜ、3流の詐欺師は嘘を9、本当のことを1の割合で混ぜるというが、まさにここまでくると嘘芸の極意である。
私は以前中川郁子さんのことのことをブログに書いた。2009年故中川昭一財務大臣がローマのG7後の会見で酩酊した姿をさらした。帰国後、記者たちが自宅の周りを取り囲んでインタビューしようと中川大臣を待ち構えていた。一人自宅を出てマスコミに取り囲まれた中川大臣に「いよ、日本一!」と自宅の窓から郁子さんが声をかけた。その年の9月に行われた選挙で中川昭一さんは落選した。それでも郁子さんは夫を支えていた。私はこの夫婦のつながりを羨ましいとブログに書いた。中川郁子さんは現在独身である。誰を愛し、誰とキスをどこでしても悪くない。なのに週刊誌の取材に対して「覚えていません。私じゃないと思いますよ」と答えた。その後発言を撤回した。嘘であった。記者に追いまくられていた夫を擁護した女性である。なぜ自分の私生活を堂々と主張しないのかと私はいぶかった。週刊誌が発売されて事が公になると国会議員の奥の手である病気入院となった。これで私の彼女に対する評価は変わった。ただの政治屋の一人だった。
筧(かけひ)千佐子被告は私と同じ年令である。現在起訴されている2人の他に6人の高齢男性に青酸化合物を飲ませて殺害したと供述しているという。遺産目当ての犯行で約10億円の遺産を受け取ったとも言われている。逮捕前にテレビで身の潔白を訴える姿に私は人間の底知れぬ暗部に恐れをなした。あれだけの嘘を平気で言える彼女が昭和22年に生を受けてどう暮らしてきたのか。私自身の67年と照らし合わせてみるも、どうにも想像がつかなかった。
報道される事件の真実を覆い隠そうとするかのように嘘が渦を巻いて攪乱する。マスコミは事の真相を伝えようとするがフライイングも多い。私たちの日常にこれだけ多くの嘘が我が物顔で闊歩するのは、情報洪水が原因である。私が思うに初めに列記した容疑者、犯人、当事者たちは、選択肢が多すぎる生活の中で溺れてしまったようにみえる。他人と多く関われば関わるほどありのままの自分は見えなくなる。
私はこの歳になってもまだ自分がよくわからない。妻と二人だけの生活で手一杯である。その妻に対しても嘘をつく。嘘をつく自分を制御さえできていない。私は臆病で小心者である。だから家に留まって他人さまに迷惑をかけぬよう息をひそめて生きている。選択肢をできるだけ少なくして単純な暮らしを目指す。子ども頃、親に「嘘つきは泥棒の始まり」といやになるほど言われて育った。それがブレーキになっている。今は「嘘をつかなきゃ損損」の音頭が巷にあふれる。私は「嘘つきは泥棒の始まり」を信じる。