玄関の三和土の南側に両開きの扉がある。その前に「ヨッコラッショ」と座って靴紐をほどいたり結んだりする台が置かれている。(写真参照) この台小さいけれど石重い。開かずの扉なので台を動かすことはない。
2月28日の朝、その重い台を動かすことになった。開かずの扉の向うには温水器が設置されている。毎日当たり前のように台所、洗面所、風呂場の蛇口を開け取っ手を操作すればお湯が出る。妻が洗い物をしていて壁の温水器操作盤の灯が消えていることを見つけた。私が呼ばれた。嫌な予感がした。以前温水器が壊れた時、修理にきてくれた住宅機器の会社の人に「次に壊れた時はもう修理不可能ですのでご承知おきください」と言われていた。TOTOの温水器なのだがTOTOは温水器製造販売から撤退していて部品の在庫がないのが理由だった。
確かに操作盤の灯は消えていた。玄関脇の納戸にある配電盤を調べた。ブレーカーは落ちていなかった。どうせ私が見ても分からないと思いながら玄関の開かずの扉をあけることにした。台は重かった。まるで薄暗い鍾乳洞の鍾乳石柱のような色の温水器が鎮座していた。そのノッペラした表面には計器も灯も何も付いていない。以前壊れた時は床に漏水が溜まっていたが、床は乾燥していた。両開きの扉を閉めて石重い台をもとに戻した。
マンション購入時に配布された『設備取扱い説明書』のファイルの温水器のページをみる。何も分からない。私は妻に新しい温水器を買わなければならないと主張した。妻はそれでも一応以前みてもらった会社に来てもらう、と言い張った。何事にも慎重な妻。何事も自分の思った通りに物事が進まないとふて腐れる私。
3月1日日曜日の午前中に修理担当の技術者が来てみてくれた。温水器に組み込まれた基盤がダメになっていた。もう使えないことがわかった。設置されて12年間経っている。私たちがここに住み始めて11年になる。覚悟していたとはいえ、ここで40万円近くの出費は痛い。それにしても日本を代表する企業TOTOでさえこのような製品管理しかできないとは情けない。「わが社の製品はこんなに他社のものより優れている」と宣伝して、客を親切そうに梯子で上へあげておいて、あとは知らん顔。今度どこの会社の温水器を購入するか決めてない。
妻は導火線の短いダイナマイトと私の気の短さを言い表す。せめて“瞬間湯沸かし器”になって台所の流しでの洗い物にお湯を供給できたらいいものを。私は怒りの湯気しかあげられない。