団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

こまめな水分補給

2013年08月16日 | Weblog

 「こまめに水分補給を」とテレビでもラジオでも頻繁に視聴者に向かって喚起する。私の住む町では役場の鉄塔から拡声器による一斉放送で「本日も35度を超す猛暑日になります。外での運動などを避けこまめに水分を補給してください。クーラーを使ってください」と山肌にこだまさせながら何度も繰り返す。ほとんど言葉というより音叉のようで、扇風機の回っている羽根に向かって喋っている感じで聞き取れない。それがまた私をイライラさせる。勤務先から妻もメールで「汗をかいているようだね。水分の補給と涼しくしていることが大事だよ。クーラーは必須です」と気遣ってくれる。家の窓を全開にして風通しをよくしている。働くでもなく散歩するでもモノを書くでもなく、読書とテレビで高校野球を観戦するだけの毎日である。集中力は元々ない。活字の羅列が瞬間的に眠気を誘う。水だけは一日2リットルを目安に飲むように心掛ける。目の前の2リットル入りの水入れに入った水は私にあの日を思い出させる。

 最近病院で大腸内視鏡検査を受けた。午前9時に検査の受付をして大腸内視鏡検査専用の待合室に入った。80歳くらいの男性が部屋の奥に静かに座っていた。私は2番目だった。学習成績以外、1番好きの私だが仕方がない。看護師が私の家の麦茶を冷蔵庫で冷やすのに使っているプラスティックの容器に似たモノと紙コップを持って来た。「経口腸管洗浄剤が2リットル入っています。1時間で1リットル、2時間かけて2リットルを飲んでください。トイレは行きたい時にどんどん行って腸を空にしてください。排便後の便器の水の色がこのくらいの色になったら看護師を呼んでください。色で腸の中の残渣のないことが確認されたら内視鏡の検査になります」と写真を見せ説明した。早く2リットル飲んで確認をもらい1番早く検査を受けるぞと意気込んだ。

 私の後から4人加わった。男性4名女性2名。最初の500ccぐらいまでは順調に飲めた。昨夜から検査用の病院から支給された簡単な食事しか摂っていない。朝食はもちろん食べてない。猛暑の中、病院までの2時間の電車も負担が大きかった。すきっ腹に薬臭く、スポーツドリンクの出来損ないの味の腸管洗浄剤だけがチャポチャポと胃袋を膨張させた。時間が経つにつれて便意が私を身悶えさせた。回数を増すごとに苦行となった。トイレは5つありいつでも使えた。2時間後3番目に洗浄剤を飲み始めた女性が看護師の確認をもらい、苦しんだ後の達成感に満ちた顔で内視鏡検査室に消えて行った。私はあせり始めた。ピッチを上げて飲む。しかし急ぎすぎ何度か吐き気に襲われた。残った5人は目に見えない順番争いの火花を散らした。4番目だった中年男性が看護師に合格を宣告され、隠せない解放感を体全体で表しながら検査室に案内されて行った。あと4人。1番最初からいた老いた男性も相当苦労しているようだった。2リットルという洗浄剤は彼には多すぎて飲むことができないようだった。ゆっくりゆっくり飲むのだが時間ばかり過ぎ、洗浄剤は減らない。

 私は2リットルを飲み終えたが、色の合格がもらえない。2時間がとうに過ぎた。看護師が7回目の確認の後「もう500cc増やしましょう」と別の洗浄剤入れを持って来た。3人目の合格者は最後に待合室に入ってきた女性だった。ほぼ同じくして5番目に入ってきた男性が合格。残ったのは80歳くらいの男性と私の2人だけだった。杖をついてトイレに行ったり来たりするのも大儀そうな老人も2時間40分で合格。私は敗北感と水攻めの刑で雪隠詰め状態だった。2時間50分後看護師の「ご苦労さまでした」の言葉に涙がこぼれそうになった。

  2リットルという単位は私にトラウマを残した。2時間に2リットルと1日で2リットルでは、ずいぶん受け止め方が違う。どちらにせよ私の健康に関わる大切な2リットルである。大腸内視鏡検査は「異常なし」の診断をもらった。1日に2リットルのこまめな水分補給することで、突然熱中症で命を落とさないで済むなら喜ぶべきことだ。あの日同じ待合室で2時間で2リットルの腸管洗浄剤を飲んで大腸検査を受けた5人の方々も1日2リットルの水をこまめに飲んでこの猛暑に立ち向かっておられることを願う。


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