団塊的“It's me”

喜寿老(きじゅろう77歳)の道草随筆 月・水・金の週と火・木の週交互に投稿。土日祭日休み

クリスマスローズ

2008年02月15日 | Weblog
 ハワイから帰国した翌朝、ベランダの花の手入れをしていた妻が「ちょっと来て」と手招きする。猿でも来たかいなと外に出ると、妻は私の手をとり、ある大きな鉢のところへ連れて行った。「ねえ、見て、きれいに咲いてるよ。花って凄いね。こんなに寒くて外に放って置かれても、時季が来ると忘れないで咲くんだね。写真撮って安積さんに送ろう」

 2年前、安積仰也さんにクリスマスローズの鉢植えをいただいた。花屋で売っている鉢植えではない。安積さん自身が、庭から鉢に植え替えたものだった。安積さんは湘南の町から東京へ事情があって引っ越すことになった。私は引越しのお手伝い、というより邪魔をするために、最後の一箇月通ったようなものだった。引越し業者の見事というよりいいようのない、テキパキとした作業にみとれていた最後の日、安積さんが大きな鉢を「山本さん、この鉢もらっていただけますか?」といって両手で抱えて、私の前に立った。嬉しかった。同時に悲しくなった。安積家の玄関の脇にあったクリスマスローズだった。その日まで引越しを口実に、大好きな夫妻に頻繁に会うことができた。お手伝いより、お茶や食事のときの会話が何より楽しかった。何時間話しても、どれだけ話しても、帰宅する車の中で考えるのは、あれも聞けなかった、これも話せなかった、ばかりだった。これでこの家を尋ねる口実がなくなる。私のステーションワゴンの後ろに大切に積み込んだ。   

 引越し業者のヘラクレス軍団のような若さではちきれんばかりのスタッフが、トラックで東京目指して出発した。続いて近所の方々が見送る中、安積夫妻が思いでの夫妻の家と私たちを交互に振り返りつつ、荷物でいっぱいの湘南ナンバーの車をスタートさせた。

 贈り物は嬉しいものである。特にいただいたものに明確なメッセージがこめられたものはなおさらだ。その贈り物の背後に贈られる人への思いやり、気配りの時間やエネルギーを感じるとなお嬉しい。クリスマスローズには安積夫妻の心を感じる熱い何かが添えられていた。大切にしている。去年、初めて花が咲いた。うちのベランダは安積さんの湘南の家と違って、冬は日当たりが良くない。山をつたって寒風が吹き降ろす。それでもきれいに咲いた。安積夫妻が東京に移ってもう2年目である。寂しくなったけれど、それでも年に何回かはお会いできる。こんな素敵な贈り物、うんとうんと大事にして、もっと丹精込めて増やして、ベランダをいっぱいにしようと勇気づけられている。 

 今日2月14日はバレンタインデー。日本中で義理チョコと呼ばれる贈り物が飛び交う日だ。買った物でも気持ちが伝わることはある。私が何か贈り物をする時は、自分が手間暇をかけて思いを込められるもの、そうでなければ私ができないけれどそれを作る人が私の代わりにその思いを込めてくれる、そういうものを贈りたい。そんな熱いお付き合いを私は持ちたいと願う。 (写真:ベランダのクリスマスローズ)

再会シリーズは定期投稿日以外の日に載せることにします。よろしくお願いします。

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