映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

レイン・フォール 雨の牙

2009年05月03日 | 邦画(09年)
 渋谷TOEIで『レイン・フォール 雨の牙』を見ました。

 特段見たいとも思っていなかったのですが、時間が適合したのと、以前のTVドラマ「警官の血」の印象もあり、椎名桔平でも見ようかと思った次第です。

 時間つぶしだったためどうでもかまわないところ、あえて言えば次のような点に興味を持ちました。
・日本でこういうハードボイルド・タッチの映画を作ろうとしても、やはり米国のCIAが一枚絡んでこないとうまく成立しないのだなと実感させられたこと。
・ただ、いくらCIAが絡む展開にしても、命をかけて奪い合いをしなければならないような秘密事項など、元々日本には何一つありませんから、どうあがいたところでリアルさを観客に持たせるわけにはいかないこと(まさに偽「World of Lies」といったところ!←衛星からの画像が監視カメラの画像に変わるだけ)。
・でも、椎名桔平も長谷川京子もヨク英語を勉強していること。中でも、久しぶりに清水美沙をスクリーンで見ましたが、彼女もまた英語をよく勉強していること。
・長谷川京子(映画「七夜待」と同様大層美しいと思いましたが)に、ニューヨークでジャズピアノを弾くミュージシャンなどという酷く月並みな役などさせずとも、やはりこうした類の映画はハリウッドに任せておけばいいのではと思わざるを得ないこと。

ドロップ

2009年04月15日 | 邦画(09年)
 「ドロップ」を新宿の角川シネマ新宿で見ました。

 コメディアン品川ヒロシによる原作・監督・脚本の映画ということで、何もこの作品までわざわざ映画館に行かなくともとパスするつもりだったところ、周囲を見回すと意外と評判が良さそうなので、時間も空いていることでもあり、見てみようかと心変わりした次第です。

 設定は中学生の青春ドラマにもかかわらず、27歳の成宮寛貴や25歳の水嶋ヒロがメインのキャラクターを演じていることや(他の中学生を演じている俳優も、総じて20代後半)、「クローズ」(予告編でしか知りませんが)でも見られるド派手な喧嘩シーンの割合が高いこと、ところどころ漫画の「ドロップ」の画像が挿入されること、などそれだけを取り出せば問題視されるかもしれない点が数多くありながら、見終わるとすべてを違和感なく受け入れてしまいます。

 これは、「蚊取り線香は蚊を取らないよ」の“つぶあんこ”氏が、「ギャグがギャグだけで浮く事なく、ストーリーやキャラクター描写と有意に絡んで作品を構成しており、総じてギャグ、ケンカ、ちょっといい話、などの配置とバランスが良い事が成功点か」と述べているように、品川ヒロシ氏の優れたバランス感覚に拠っているのではないか、と思いました。

 あるいは、余りに上手に制作されている映画でなのあって、監督第1作目の作品であれば、品川ヒロシ氏はもっともっと冒険すべきではないのか、と逆に思ってしまうほどです。というか、こうしたレベルの作品ならば、監督が誰であっても、今や映画業界にたくさん存在する有能な専門スタッフ(撮影監督からはじまって!)に任せれば、放っておいてもソコソコ制作してしまうのではないか、と思えてしまいます。
 何しろ、本業であれだけ忙しいコメディアンが、1ヶ月ソコソコの撮影期間で撮り上げてしまっているわけで、かなりの部分をスタッフ任せにせざるを得ないところ、全体として破綻なく収まっているのですから!

 この映画は、哀川翔(刑事役)と遠藤憲一(悪質タクシー運転手)とのとびきり愉快な掛け合いとか、お馬鹿タレント上地雄輔の意外な演技力など随所に見所もあって、総じて面白い作品になっています。

 ただ、コメディアンの監督ということからすれば、品川ヒロシ氏はこうした出来上がりで満足してしまうのかな、自分にまつわるエピソードをストーリーにうまく仕上げてはいるものの、映画作品として自分の物になっているのかな、そういう点からするとやはり北野武の存在は抜群だな、と思ったところです。

フィッシュストーリー

2009年04月12日 | 邦画(09年)
 「フィッシュストーリー」を、渋谷シネクイントで見てきました。

 この映画は、その中で演奏される「FISH STORY」という名の曲がかなりの出来ですし、「下妻物語」と同様に最後にスカッとした感じをもちました。
 また、「少年メリケンサック」などと比べても、ストーリーが非常によく練られていると思います。
 ただ、先に見た「少年メリケンサック」の印象が強烈で、同じようなパンクバンド物だとすれば、ストーリーがよく錬られている分、逆にややインパクトが弱くなっているのではと思いました。
 〔なお、TVの芸能ニュースを見ていましたら、現在制作中の「僕らのワンダフルデイズ」―竹中直人主演―は、「オヤジバンド5人組の奮闘を描く」そうで、柳の下の泥鰌的な傾向が依然として継続中のように思えます!←いうまでもなくこの「フィッシュストーリー」の方は、別段「オヤジバンド」の話ではありません。あるいは「スウィング・ガールズ」以来の流れ―音楽演奏のプロでない俳優が、一定期間の特訓によって玄人はだしの演奏を披露するということでしょうか―に乗ったものなのかもしれません!〕。

 また、最後になって全体が繋がりを持っていることがわかるわけですが、繋がりといっても、このような人間の繋がり〔どれも親子関係〕があるというのでは、確かに説明力は高いものの、もう少しビックリするような種明かしを期待していただけに、ナンダそれだけかという気になってしまいます。

 要すれば、大変うまく作られた映画だなと思った次第です。

 なお、同じ監督の「アヒロと鴨のコインロッカー」にも何か通ずる面があるのではと感じ、TSUTAYAからそのDVDを取り寄せて再度見てみました。
 少なくとも次のように言えるのではないでしょうか?
・今回の映画で濱田岳が演じる運転主には、同じ濱田が演じる「アヒル」に登場する大学生と、実によく似たひ弱な性格―人の影響を受け易い―が与えられています。
・この映画ではラスト近くになってから、「アヒル」の場合は真ん中辺りで、“実は”という話になって、それまでの話が別の観点から辿り直されます。「アヒル」の場合は、濱田岳が、日本人だとばかり思い込んでいた瑛太が実はブータン人であることが明かされますし、この映画では、森山未來が濱田岳の子供であることなどが説明されます。
・「アヒル」では、ボブ・ディランの「風に吹かれて」が重要な役割を演じますが、この作品では「FISH STORY」がそれに相当するでしょう。
と言っても、こうした類似点がいろいろあるのは、原作者(伊坂幸太郎)が共通していることからくる面が強いのかもしれませんが。

罪とか罰とか

2009年04月08日 | 邦画(09年)
 渋谷のシネマライズで「罪とか罰とか」を見ました。

 時間が空き、おまけに他にその時間に合致するものがなかったことから映画館に入ってしまった次第です。
 こうした類いの映画は余り目にしませんから、貶さないで何とか評価しようとはしましたが、超健康優良児的な主演の成海璃子にはまったく魅力を感じず(前田有一氏によれば、「思春期の少女ならではの激太り」)、またこれを「ブラック・コメディー」だといわれても、“そーかなあ?と”違和感しか持てませんでした。

 署長室を蜘蛛の巣だらけにすることから始まって、一日警察署長でも務まる仕事しかしていないようなて現下の警察の体制をブラックに描いているつもりと思えるところ、そんなことは特段ブラックに描かなくとも、TVドラマなどでいつも取り上げられていることではないでしょうか?

 特に、主演の成海璃子の元カレ役の刑事が何人もの殺人を犯しながら、最後に捕まった際に成海璃子が「精神鑑定を十分に行って」といった趣旨のことを叫んだのには驚きました!
 現在の精神鑑定のいい加減さを批判しているのか、あるいはそれによって元カレは死刑にならずに再度恋愛関係を持てることになるということなのか、いずれにしてもそのぬるさ・いい加減さ(さらには精神病の扱いのぞんざいさ)には参ってしまいます。

 ただ、奥菜恵の強烈な演技を見たのは収穫といえるのかもしれませんが。

少年メリケンサック

2009年04月01日 | 邦画(09年)
 「少年メリケンサック」を渋谷TOEIで見ました。

 とくに宮崎あおいのファンでもありませんし、パンク音楽に理解と興味と知識を持ち合わせているわけではありませんが、クドカンがどのような展開をさせるのだろうかという興味もあって見てきたところ、最近の日本のコメディー映画としては出色で、実に面白い映画だなと思いました。
 特に、中年パンク・ロック・バンドのプレーヤーを演じる4人の役者の演技には驚きました。なかでも、佐藤浩市は、真面目そのものの映画「誰も守ってくれない」を見たばかりですから、何でもこなせる幅の広い凄い俳優だなと感心いたしました。

 また、塚本晋也監督の「鉄男」以来注目してきている田口トモロヲも、以前パンク・バンドをやっていたから当然のことながら、実に興味深いキャラクターを演じています(佐藤浩市がベース・ギターを一生懸命に弾いていたり、滅茶苦茶な歌詞を歌っているのが田口トモロヲだから全部許してしまいます!)。

 マア、おじさんたちが、青春時代に戻ってロック・バンドを組んで演奏するというのが今流行っているようで、そうした時流に乗った作品なのでしょうし、またドラムスのヤングが、ありきたりの説教染みたことを言ってメンバーの奮起を促して再び演奏活動をするといったストーリーもお馴染みのものでしょう。

 とはいえ、宮崎あおいの可愛らしさにも救われて、全体として心底笑える映画になっていると思いました。

ヤッターマン

2009年03月25日 | 邦画(09年)
 「ヤッターマン」を丸の内ピカデリーで見てきました。

 30年前のTV漫画の実写化ながら、その番組を知りませんでしたから見るつもりはなかったところ、世評が頗る高く(「公開2日間で約38万人を動員、公開9日間で早くも興収10億円を突破し、2週連続で週末動員No.1を記録」したとのこと←2週間で120万人を動員したとされています!)、出かけてみた次第です。

 ドウカナと思いつつ見てみたら、実に面白い作品で、とホトホト感心してしまいました。

 「映画ジャッジ」で読むことの出来る映画評論家たちも、皆マズマズの評価を与えているようです。
 前田有一氏の「激映画批評」は、「私は、今の日本の若手女優の中で福田沙紀ほど可愛らしい人はまれだと思っていたが、その福田を蹴散らすほどの魅力を、フカキョンは本作で振りまいている」などとして85点を与え、福本次郎氏の「見映画批評」も、「思わず笑い声をこらえきれなくなるシーンにたびたび遭遇した」として60点を与えています。
 服部弘一郎氏の「速映画批評」も、「原作を基準にこのドロンジョを見れば、これはどう考えてもミスキャストでミスマッチ。しかし僕にはむしろ、この似合わないキャスティングこそがこの映画の肝だと思う」としています。
 ただ、最後の服部氏は、「この映画で最も残念なのは、上映時間が長いこと。この程度の話なら、もっとテンポアップして1時間25分ぐらいに縮めてほしかった」と述べています。ですが、私は、この映画の「上映時間が長い」とは思いませんでした。あるいは、私が原作を全然知らないせいでしょうか、次々と繰り出されるシーンが新鮮で面白く、次回作の予告のところまでアッという間でした。

 そういうことでもあるので、TSUTAYAから原作のTVアニメ版―2008年のリメイク版もありますが、30年前のアニメの方です―を借りてきて見てみました(勿論、そのDVDのコピーもとった上で)。
 福本氏が、「元ネタを知っている者にとってはつい懐かしさがこみ上げてくるほどの完成度」というのも分かりましたし、服部氏が、「これは原作アニメの持ち味をいかに実写にするかという、その変換方程式を楽しむ映画なのだ。原作を踏まえた上で、…批評的なツッコミを入れながら鑑賞するのが、この映画に対する最も正しい接し方」というのも分かりました。
 ただ、そうだとすると、なんでそんな原作アニメに忠実な実写映画をわざわざ製作する必要があるのだと言いたくもなってきます。原作が漫画であれば、そのキャラクターを実際に動かしてみたいという気持ちになるのもわからないわけではありません。ですが、本件については、原作が実にヨクできたアニメですから、キャラクターを動かすという要素は2次的なものといえましょう。
 かつ加えて、今回の映画はCGを実に沢山使っています。それだったら、少なくとも背景などは、何のことはない“アニメ”と同じ次元のものだといえるのではないでしょうか?

 マアそんなヤボなことは言わずに、十分フカキョンを楽しめばお釣りが来るというものです!!

ジェネラル・ルージュの凱旋

2009年03月15日 | 邦画(09年)
 「ジェネラル・ルージュの凱旋」を吉祥寺プラザで見ました。

 確かに、なかなか見応えがある映画だなと思いました。
 “つぶあんこ”氏が☆4つも与えて「良作」としているのは、推測するに、救急医療センターという現在大きな注目を集めている部署の問題を全面的に取り上げることによって、前作に比べてリアリティーが著しく増し、それを通じてこの作品が市場万能主義・効率性重視という方向性を強く批判しているためではないでしょうか〔ただ、“つぶあんこ”氏が、「とにかく詰め込めるだけ詰め込まれたクライマックスの詰め込み感が、緊急事態である現場の臨場感をも表現しており目が離せなくなる」と高く評価するシーンは、私にはかなり冗長に思えましたが〕?

 また、今回引き起こされる殺人事件は、前作の医療過誤の中での殺人と違って、屋上から突き落とすというごくありきたりの手法によるものですから、その意味でも現実的といえるでしょう〔ただ、犯人の告白によって殺人事件だったことが判明する、という程度のインパクトのない小さな事件になっているので戸惑ってしまいますが〕。

 そうなると阿部寛・竹内結子のズッコケコンビの活躍する余地が狭くなって、変な場面も減り、かなり真面目な仕上がりになってしまっているように感じられます〔竹内結子につき「ビジュアル演技ともにヒロインの器にない」と不当にも決めつける “つぶあんこ”氏にすれば、だから良かったというわけでしょう。むしろ、「脇に回る主役コンビの活躍シーンも増える」などと、一つの文章の中で矛盾することも平気で述べてはいますが!〕。

 総じて言えば、前作の「チーム・バチスタの栄光」の出来が酷かったので、今回の作品はそれと比べればかなり良くなっているはといえるものの、リアリティーが増した分だけ常識的な仕上がりになってしまっているのでは、と思えるところです。

 とはいえ、この映画は、堺雅人の好演がなければ、この映画は成り立たないのではとも思えるところで、これからの幅の広い活躍が期待されると思いました(「ジャージなふたり」的な軟弱路線ではなく、かなり引き締まった役もできるようです)。

カフーを待ちわびて

2009年03月11日 | 邦画(09年)
 「カフーを待ちわびて」を渋谷のHUMAXシネマで見ました。

 いくら時間の感覚などが本土とは異なる沖縄の、それも離島でのお話とはいえ、この映画のように何でもありというのでは白けてしまい、あまりピンときませんでした。

 雑貨屋を営んでいる家で怠惰に生活している主人公(玉山鉄二)のところに、突然若い女性(マイコ)が現れ、詳しい事情も聞かずに主人公はこの女性を受け入れて、一緒の生活が始まります。その後様々の事情があって、この女性は主人公の家から追い出されますが、立ち去る前に書き残していた手紙を読んだ主人公は、隠された事情がわかってこの女性を追いかけて、…云々といったストーリーです。

 ただ、現れた女性がいくら美形だとしても、最初に話を聞かずに受け入れてしまうことなど常識的には考えられません。
 また、主人公の青年は、自分を一人で世話してくれていた母親が、彼を置いて別の男と島を出てしまった後も、母親が帰ってくるのを待ち続けて怠惰に暮らしているようなのです。ありええないことではないでしょうが、あまりにもネガティブな生活態度ではないでしょうか?などなど、共感できない点が見ている最中にいくつも現れてしまうのです。

 とはいえ、他方ではこうした作品にも共感してしまう人たちもいるようですから、私の感受性が鈍ってしまっているのかもしれません。
 主演の玉山鉄二は、映画「手紙」では頗る熱い演技を披露していたところ、この作品では、むしろかなり抑えた演技を見せています。としても、どちらの演技も、なにか演技してますという感じが漂っていて自然さを感じさせないのが不思議でした。

誰も守ってくれない

2009年01月25日 | 邦画(09年)
 「誰も守ってくれない」を渋谷のシネ・フロントで見ました。

 これは、こちらのスケジュールに上映時間が上手く適合したことと、主演が佐藤浩市ということから、映画の内容については何も知らないままに足を運びました。

 佐藤浩市は、このところ「ザ・マジックアワー」や「秋深き」などを見ているうちになかなかいい俳優だなと思えてきて(それまではやや濃すぎる雰囲気が漂っていて、敬遠していましたが)、その彼が主演の作品ならば悪くはないはずと思ったわけです。

 実際に映画を見てみると、この映画は、犯罪者の家族〔この映画の場合は、犯罪者の妹・沙織(志田未来)〕をマスコミの攻撃から保護する刑事の役を佐藤浩市が演じます。
 ある意味で、「それでもボクはやっていない」と同じような社会派の作品と言えるかもしれません。犯罪者の家族であるというだけのことから、マスコミによって徹底的に糾弾されてしまう理不尽さを告発しているという意味合いですが。

 勿論、非常に手間隙かけて細部まで周到に作られた周防作品とは違って、かなりデフォルメされた部分があるのではないかと思えたり(前田有一氏が、「この映画のような展開になると、どうも現実との乖離が気になり没頭できない」と述べている点でしょう)、警察内部の事情も常識的な線で描き出されていたりと、おざなりの感じがヤヤ付きまとうとはいえ、佐藤浩市の演技は、既に48歳ですから味が出てきたというのでしょうか、なかなか良いなと思いました。

 なお、公開初日には(17日)、フジTVで、この映画に出演している佐藤浩市と松田龍平とが同じ刑事役で出演した「誰も守れない」というドラマが放映されたそうです。
 TVドラマは、映画が扱っている事件の4ヶ月前に起きた事件を描いているとのことながら、こうなると、映画とTVドラマの差など最早なくなってしまったのでは、映画を映画館で見る意味はどこら辺にあるのか、などと疑問にも思えてきてしまいます。

ノン子36歳(家事手伝い)

2009年01月18日 | 邦画(09年)
 銀座シネパトスに行って「ノン子36歳(家事手伝い)」を見てきました。

 銀座シネパトスの方は、銀座三越のスグ裏という絶好の場所に位置しながらも、予想通り、昔の場末の映画館の雰囲気が残っていて(席の作りは綺麗ながらも、トイレの臭いが籠っている感じ)、さらには前に一杯飲み屋が何件か連なっているのも懐かしい感じがします。
 とはいえ、映画の上映中、スグそばを走る地下鉄日比谷線の音がするのには参りました─騒音と言うほどではありませんが─(何しろ、地下一階に作られているので)。

 さて、映画の方ですが、何の予備知識もなく見たところ、タイトルから想像されるイメージとは異なって、なかなかシッカリと作られており、全体として随分と良い映画で、ベストテンの第1位になるくらいにまで凄いのかどうかは別として、一部で評価が高いのも肯けます。

 何より、物語の構造が、評論家に頼らずとも素人にもよくわかるように作られているのです。
 主人公のノン子は、東京での結婚生活を御破算にして故郷(秩父)に戻るのですが、実家は神社で、神主の父親が昔の家長然として高圧的なのです(それらは、伝統というか秩序そのものといえるでしょう)。
 ソレに対して主人公はイライラを募らせます(何もかも清算したい感じが漂っています)。
 丁度、神社のお祭りに店を出すためにやってきた年下の青年も、そのお祭りを取り仕切る地元のヤクザたちが作り上げた秩序に対していいしれぬ理不尽さを持ちます。
 そういった思いが積もり積もって祭りの日に爆発してしまうものの上手くいかず、二人はほうほうの体で一緒に逃げ出します。ですが、主人公は、一方で雄大な山の光景を見つつ、他方で煙草を買いに走る青年の姿を見て、何かがプッツンして、青年をそこに置いて実家に戻ってしまいます(注)。

 総じてみれば、いわゆる現在の「閉塞状況」を何とかぶち壊そうとするにもかかわらず失敗してしまい、ただそれで退却してしまうのではなく、またぶち当たろうとする様が描かれているのでは、といったところです(こうした感じは、左翼崩れの評論家が愛好するものではないでしょうか)。

 こうしたところから、「おくりびと」を見ると、確かに非常に珍しい題材を取扱っており、ストーリーもよくできていて見る者に鮮烈な印象を与えますが、でもやはり現状の社会秩序の中に納まる予定調和の世界なのではないのか、といった感じになるのかもしれません。

 主演の坂井真紀については、これまで「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」と「ビルと動物園」を見ましたが、中では一番充実した演技をしているのでは、と思いました(「実録・連合赤軍」でも大変頑張っていましたが、かなり背伸びしている感じがつきまといます)。
 年齢としては小泉今日子より若干若いものの(坂井38歳、小泉42歳)、この年齢辺りの女性を演じさせたら彼女を凌ぐのではないでしょうか。〔もう一人坂井真紀と同年齢の永作博美がいるのを忘れていました!彼女の演技は優れていると思いますが、その童顔でかなり得をしてると言えるかもしれません!〕。

 なお、評論家の渡まち子氏は、「親元で衣食住が足りた暮らしを送るノン子は甘えた人間にしか見え」ず、「ノン子がラストに一人でみせる笑顔は印象的だが、熊切作品常連の坂井真紀の大胆な脱ぎっぷりだけが見所と言わねばならないのがツラい」として35点しか与えていませんが、単なる印象だけで評価しているにすぎず、それでは評論家としては失格ではないかと思いました。

(注)最近読んだ伊坂幸太郎氏の『ゴールデンスランバー』には、主人公とつきあっていた女性が、遊んでいたゲーム機から「おまえ、小さくまとまるなよ」と言われて、唐突に主人公と別れてしまうというエピソードが出てきますが、なにかしらこの場面に通じるものがある、という気がしています。渡まち子氏は、青年の「キャラがもっと立っていれば面白くなったものを」と述べてますが、それではこの映画がブチ壊しになるのではと思いました。むしろ、粉川哲夫氏がこの青年を「夢といっても妙な夢をいだき、きわめてフツーのようでそうでもない」男だと規定する方に共感します。