分類・文
児童小説 まットコ さットコ やットコ
いわきの総合文藝誌風舎6号掲載 箱 崎 昭
《平の松ケ岡公園にある安藤信正公銅像》
(11)
正哉が6年生になる3月に美代ちゃんは、お父さんが勤めている会社の転勤で、家族揃って九州へ行ってしまうことになりました。
福島県いわき市の湯本という町から、今度は宮崎県延岡市というところへ行くのです。
正哉は日本地図を広げて、福島県と宮崎県の位置を見て「ひえー」と思わず声を出してしまいました。
正哉には、あまりにも遠く感じたからです。
「九州の延岡市は、いわき市と縁があるところなんだよ。昔、いわき平城の殿様が、簡単に言うと転勤していった場所が延岡市なんだ。今でも姉妹都市として交流があるんだよ」
お父さんは晩酌をしながら焼き魚をうまそうに食べながら言いました。
「それに新幹線や飛行機を利用すれば九州とはいっても、昔みたいに遠いとは思わなくなってきた時代だからね。これを見てごらん、この魚は関サバといってね九州の大分県で獲れた魚なんだよ。言ってみればお父さんの方が美代ちゃんよりも先に九州に行っているようなものだな。ハッハッハ」
お父さんが、いつもより少し機嫌よく話しているのを見て、正哉はボクを気落ちさせないようにしているのかなと思いました。
なぜか美代ちゃんが遠い外国へでも行ってしまうような気がしてきました。
美代ちゃんが同じクラスにいる時にはなんとも思っていなかったのですが、いざ遠くへ行ってしまうとなると、正哉は急に淋しくなってきました。
いつも明るくて元気な美代ちゃんを、本当は好きだったのかも知れない。お父さんとお母さんのいる前で、そう思った時に正哉は一瞬、顔が赤くなったような気がしました。
そして、そうだ明日は学校へ行ったら美代ちゃんに、まットコはどうなるのかを聞いてみようと思いました。
そう思ったら美代ちゃんが子猫をもらいにきて帰る時に、まットコを選ぶと両手で抱き上げながら、ほおずりをしていたことがハッキリとよみがえってきました。
次の日、教室で休み時間の時に美代ちゃんのそばへ行って「猫はどうするんだ?」と冷たい口ぶりで聞きました。
他の生徒たちににも聞こえたらカッコウが悪いと思ったからわざとそう聞いたのです。
美代ちゃんは、びっくりしたようでした。
「連れて行くよ。学校が終わったらいったん家に戻って、それから正哉くんの家へ行ってもいい?」
「ああ、いいよ」
正哉はそっけなく答えて、自分の席に戻りました。 (続)
児童小説 まットコ さットコ やットコ
いわきの総合文藝誌風舎6号掲載 箱 崎 昭
《平の松ケ岡公園にある安藤信正公銅像》
(11)
正哉が6年生になる3月に美代ちゃんは、お父さんが勤めている会社の転勤で、家族揃って九州へ行ってしまうことになりました。
福島県いわき市の湯本という町から、今度は宮崎県延岡市というところへ行くのです。
正哉は日本地図を広げて、福島県と宮崎県の位置を見て「ひえー」と思わず声を出してしまいました。
正哉には、あまりにも遠く感じたからです。
「九州の延岡市は、いわき市と縁があるところなんだよ。昔、いわき平城の殿様が、簡単に言うと転勤していった場所が延岡市なんだ。今でも姉妹都市として交流があるんだよ」
お父さんは晩酌をしながら焼き魚をうまそうに食べながら言いました。
「それに新幹線や飛行機を利用すれば九州とはいっても、昔みたいに遠いとは思わなくなってきた時代だからね。これを見てごらん、この魚は関サバといってね九州の大分県で獲れた魚なんだよ。言ってみればお父さんの方が美代ちゃんよりも先に九州に行っているようなものだな。ハッハッハ」
お父さんが、いつもより少し機嫌よく話しているのを見て、正哉はボクを気落ちさせないようにしているのかなと思いました。
なぜか美代ちゃんが遠い外国へでも行ってしまうような気がしてきました。
美代ちゃんが同じクラスにいる時にはなんとも思っていなかったのですが、いざ遠くへ行ってしまうとなると、正哉は急に淋しくなってきました。
いつも明るくて元気な美代ちゃんを、本当は好きだったのかも知れない。お父さんとお母さんのいる前で、そう思った時に正哉は一瞬、顔が赤くなったような気がしました。
そして、そうだ明日は学校へ行ったら美代ちゃんに、まットコはどうなるのかを聞いてみようと思いました。
そう思ったら美代ちゃんが子猫をもらいにきて帰る時に、まットコを選ぶと両手で抱き上げながら、ほおずりをしていたことがハッキリとよみがえってきました。
次の日、教室で休み時間の時に美代ちゃんのそばへ行って「猫はどうするんだ?」と冷たい口ぶりで聞きました。
他の生徒たちににも聞こえたらカッコウが悪いと思ったからわざとそう聞いたのです。
美代ちゃんは、びっくりしたようでした。
「連れて行くよ。学校が終わったらいったん家に戻って、それから正哉くんの家へ行ってもいい?」
「ああ、いいよ」
正哉はそっけなく答えて、自分の席に戻りました。 (続)